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「過去未来報知社」第1話・第42回

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>>第41回
(はじめから読む)<<第1回
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 大家の騒動は、大体笑美の想像内だった。
「やだやだやだやだ!」
 鏡の間の奥。味わいのある風情で立っている天然木の柱にしがみつくと
 大家は外聞もなく叫び続けた。
「TVなんて、絶対にごめんだからな!
 大体、お前が勝手に連れてきたんだから、お前が相手をすればいいだろ」
「だって、家主は若旦那だし」
「その家主の意思無視してTV局つれてきたのは誰だよ!」
「……いつもながらの醜態だな」
「それはいいけど、なんであなたまだここにいるんですか」
 笑美・ネコ・慶太に囲まれて大家はケッ、と悪態をついた。
「大体、気がついたら当たり前みたいにお前らここにいるけど、
 いつ俺がそんなこと許した?」
「だって、ネコさんがちゃんと大家さんにお話しろって」
「そうですよぇ。そこは筋を通していただかないと」
「お前、言ってることとやってることが正反対だぞ!」
「……こんなことやってて、大丈夫かなぁ」
 笑美は小首をかしげる。
「なんだっけ、あのアイドル……あ……アカゲ?」
「アカシ」
「そう。それ」
 訂正する慶太を指差すと、笑美はポン、と手を打った。
「アカシなんとかいうアイドル! 時間がないとか言ってたけど、
 もう帰ったかな?」
「大丈夫ですよ。この部屋の時間は止まっているから」
「……ちょっと待ってネコさん。今なんかさらっと怖いこと言わなかった?」
「ともかく、若旦那にはちゃんとTVに出ていただきます! 
 というより、そろそろ六合の外の人とも話ができるようになってください」
「俺は六合から出ないから問題ない」
「また、そんなことを言って……」
 駄々っ子をあやすような口調で、ネコはため息をついた。
「引きこもりとお母さんの会話か」
「いや、そう考えると年齢的にちょっと怖い」
「……でも、なんで大家さんってそんなに外に出るのを嫌がるんでしょう」
「さあな、人には人の理由がある」
「……そして、なんであなたがここにいるんですか」
「それも、俺の理由だ」
 そらとぼけてあさっての方向を見る慶太に、笑美は首をかしげた。
「とにかく、せめてあのアイドルさんには会っていただきます」
「男のアイドルなんかに興味ねー!」
 なおも柱にしがみつく大家にネコは……。
「うわっ!」
「ちょっと! ネコさん! あなた……」
 大家の襟首をちょい、と摘むと猫はそのまま大家の長身を持ち上げた。
 まるで親猫に首根っこを加えられた子猫のように、大家は身体を丸くする。
「イヤだ。い・や・だー!」
 持ち上げられていることには驚いた様子もなく、ただただ嫌がる大家。
「まったく、いつまでたっても子供なんだから」
 ため息混じりにそのままスタスタと表に向かって歩き出すネコ。
「ほら、笑美さん。皆さん、お待ちですよ」
「はいいいっ!」 
 笑美は弾かれたように立ち上がった。
「いってらっしゃい」
「あれ? いかないんですか」
「俺はね。行けないの」 
 慶太はふいっと窓の外に目をやる。
 黒灰ゴマ猫が窓から入ってきて、慶太の膝で丸くなった。
「はあ……。では、いってきます」
「うん」
 どこか深い色をした慶太の目に、笑美は何か既視感があった。

>>第43回

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