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「過去未来報知社」第1話・第81回

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>>第80回
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「逃げるから追いかけるのか、追かけるから逃げるのか。
 猫とネズミの関係はどっちが先か」
「そりゃあ、食べられるかいたぶられるかだから、
 本気で逃げるんですよ」
「根津さん、いつの間に」
 いつの間にきたのか、テーブルの隅で根津が茶を啜っている。
「逃げても、逃げても追いかけてくるんですよ。
 どうにかして欲しいですよ」
「まるで根津さんがネズミみたいな言い方ですね」
「物のたとえです、たとえ」
「猫も生きるために必死なんじゃないか?」
「今の猫はネズミなんか食べなくても、
 他にいっぱい食べるものがあるじゃないですか。
 狩りをする必要がある猫なんて、どれぐらいいるんですか」
「馬鹿だなぁ、なんでもいいわけじゃないんだって!」
 根津がびくり! と背中を震わせる。
 三宅が肩をすくめる。
「こう、魂の内側から叫ぶんだって、これじゃなきゃ! って。
 そう思ったら、もう他のものなんかじゃ満たされないし」
「えり好みできる時点で、豪勢なお話ですよ!」
「……ああ、そういうことか」
 ぽん、と大家は手を打つ。
「要は、暇なんだな」
「暇?!」
 笑美は思わず椅子を蹴って立ち上がる。
「暇って……私はここまでしてここに……!」
「ああ、今度はあんたじゃなくて、そのオバサン、な」
「え……」
 大家は着物の袖に腕を突っ込むと、渋い顔をする。
「他にしなくちゃならんことがない、というか無いと思い込んでいる。
 実際に面倒をみなきゃならんわけでもないのに
 あんたを執拗に追いかけているのは、そういうわけだ」
「何に対して力を使うか、を選択する余裕がある、ということですね」
 大家の言葉にネコは頷く。
「確かに、お腹が空いていなければ、
 目の前のトカゲではなく、遠くのネズミを追いかけるかも」
「やな例えですねぇ……」
 深く同意する三宅に、根津は顔をしかめた。
「……でも、ちょっと待って。確かあのうち、お兄さんがいたよ!」
「でも、父親もいたんだろ?」
 大家の突っ込みに笑美はうっ、と息を呑む。
「その兄がもう十二分に大きくなった以上、
 オバサンにはお前さんを追いかけることになんの支障もない」
「というよりは、それしかすることがなくなったわけか」
「……私が自分の中の化け物を倒したとして、
 そのオバサンの行動は何か変わるの」
「さあ? あっちの化け物も別ルートで育ってるかも?」
「それじゃあ、あっちもどうにかしないと解決にならないじゃないですか!」
「俺は六合にそれがこなければ、別にどうしようとも思ってないんだが」
「!」
「オバサンが六合にきているのは目撃されてるし、 
 あんたがここにいる以上はどっちもどうにかせんとならんだろうよ」
「……出て行きませんからね」
「追い出すとは言ってねぇだろ、最初から」
 ガリガリと後頭を掻く大家。
「……どうせ50年期には化け物が必要なんだし」
「は?」
「いえ、こっちの話です」
 ネコはにっこりと大家の話を遮った。


>>第82回

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