「過去未来報知社」第1話・第21回
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足の踏み場もないほどの猫に囲まれ、笑美はわたわたと辺りを見回す。
歩いてきた道、周りの塀、足の傍ら。
大小さまざまな猫が笑美を見上げている。
「え? 何? さっきまでこんなに猫、いたっけ?」
ブロック塀に囲まれた一本道は、小さな空き地へ向かっている。
そこが行き止まりのようだ。
戻るにも、道がない。
仕方なく、笑美は半ば小走りに空き地へ足を向けた。
ぽっかり、切り抜いたように住宅街に出来た空き地の空には真円の白い月。
月の光を浴びて立つ、1本の木。
それを中心に、猫たちが円を描くように集合している。
その真ん中に、彼女はいた。
真横に伸びた太い枝の幹に腰かけ、三毛猫の背中を撫でている。
ほっそりとした身体に、色素の薄い、大気に溶けそうな白い肌。
灰色、というよりはグレーに近い長い髪が、夜風になびいていた。
猫たちは、まるで崇拝の対象のように、彼女を見上げていたのだった。
「あ……」
思わずあげた笑美の声に、いっせいに猫たちが振り向く。
色とりどりの光の視線に射抜かれ、笑美はビクッ、と身体を奮わせた。
「にゃお」
足元からあがる声に、飛び上がる笑美。
そこには、黒灰ゴマ猫がのんびり身体を擦り付けていた。
「あんた、確か大家さんの……」
「あら、お客様?」
涼やかな声が響き、笑美は顔を上げた。
三毛猫を抱いた女性が、ふわり、と枝から飛び降りる。
重力を感じさせない動きだった。
宙を渡るような足取りで、女性は笑美の近くにやってきた。
その場にいた猫たちは、モーゼの十戒のように自然に道を開ける。
笑美はその顔を見、はっとする。
女性は、六合荘の写真の女性と瓜二つだった。
三毛猫が「みゃおん!」と声高に鳴いた。
「あの……」
「あら、あらあらあら」
不思議な雰囲気と裏腹に、近所のおばちゃんのような口調で女性は声をあげる。
「あら、あなた。大変なことになっているのね」
「え? 大変なこと?」
「あなた、満月の夜の禁を破ったでしょう?」
「満月の禁?」
女性は歌うように言葉を紡いだ。
「ひとつ、満月の夜には願い事をしてはいけない」
(幸せになりたいな~)
先程の自分の独り言が蘇る。
「ひとつ、願い事が叶わなかったことを嘆いてはいけない」
(前にもそんな願い事したな、叶ってないな~)
「ひとつ、愚痴や不満を思ったり、言ったりしてはいけない」
(どうなってんだか、私の人生!)
「ひとつ、自己否定をしてはいけない」
(私の生き方が悪いのかな……)
「ひとつ、嫌な過去を思い出さないように」
(楽しかったな……。でも私が……)
「ひとつ、飲みすぎ・食べ過ぎてはいけない」
(実はこれでウィンナー五本目)
「あらあら、これじゃあ、この子たちが騒ぐのも無理は無いわ」
女性は「困ったわね」と口に手を当てた。
>>第21回
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