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「過去未来報知社」第1話・第43回

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>>第42回
(はじめから読む)<<第1回
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 結局、スタッフとのやりとりは全て笑美が行った。 
 大家は顔は出したものの、例の真っ黒なサングラス越しにちらり、と
 彼らを見るだけで、決して目線をあわせようとしない。
 その様子に薄気味悪さを感じたのか、スタッフもあまり声をかけようとしない。
 唯一例外はあのお調子者の少年のような男性だったが、
 大家が小声で一言、二言囁くと急に大人しくなって飛び退った。
「とんでもない、人嫌いだわ……」
 呆れてつぶやく笑美に、ネコはおっとりと首を傾ける。
「なんとかしてあげたんですけど、頑なでねぇ……」
「いい歳した大人の男が、何を怖がっているんだか。……あれ?」
 遠巻きにされる大家に、一人視線を向けている人物がいることに
 笑美は気がついた。
「アカシだ」
 いつもの懐こい微笑を引っ込めて、静かに大家の横顔を眺めている様子は
 ただ眺めている、というよりは何かの思いがあるように見える。
 視線を感じたのか、ふと大家が振り返る。
 二人の視線が交差する。
 大家の目が、一瞬鋭くなったように笑美には見えた。
「もう、いいだろ」
 ふい、と視線を反らすと、大家は足早にネコに近づく。
「見た、会った、分かった」
「よろしいんですか。勝手に撮られますよ?」
 ふん、と鼻を鳴らすと大家は背後を横目でチラ見する。
「撮れるところしか、撮れないさ」
「また、わけの分からんことを……」
「ああ、いやだいやだ。人が増えると、いやだね」
 猫背でわざとらしい大声で言うと、大家はスタスタと六合荘の中に入っていった。
「ネコさん、いいんですか?」
「限界でしょう」
 その様子を見守ると、ネコは柱の陰で様子を窺っていた根津に微笑みかけた。
「根津さん、悪いんだけど後をお願いできる?」
「は、はいいいっ!」
 根津は飛び上がると、ささっと笑美の後へ移動した。
「なんですか、根津さん。三宅さんだけじゃなくてネコさんも怖いんですか?」
「ネコさんが怖くない人なんて、六合荘にいませんよ!」
「あら、私そんなに鬼みたいな顔をしているかしら?」
 おっとり言うネコの美しい微笑みにどこか凄みがさす。
 根津は首がもげかけない勢いで首を振った。
「いえ! とんでもない! 美しくて神々しくて『畏れ多い』んです。
 畏怖の『こわい』です!」
「ありがとう、嬉しいわ」
 そのやりとりを見て笑美は、改めてネコに逆らってはいけない、と思った。
 しかし……。
(変な人たちと、変な街……)
 笑美は玄関口に飾られている六合荘の写真を改めて見る。
 古びたセピア色の写真の中では、大家によく似た男がこちらを見て笑っている。
 幸せそうな写真なのに、どこか違和感がある。
 その理由に笑美が気がつくのは、もう少し時間が経ってからであった。
 

>>第43回

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