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「過去未来報知社」第1話・第39回

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>>第38回
(はじめから読む)<<第1回
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 雀の鳴き声がする。
 むっくりと半身を上げ、笑美は辺りを見渡した。
 見覚えのある間取りだが、なんだか広々しているように感じる。
 それもそのはずで、四畳半の部屋には家具らしいものが何一つなかった。
 部屋の中央にぽつん、と置かれた布団に笑美は寝かされていた。
「ここって……」
 布団から這い出そうとした笑美は、妙な重さを腿のあたりに感じた。
「ん……」
「ん……って、うわっ!」
 驚きのあまり、笑美は布団を力任せに引き抜いた。
「いでっ!」
 笑美の上から転がり落ちた「それ」は、
 奥の柱に頭をゴツン、とぶつけて声をあげた。
「なななな、なんであなたがここにいるんですか!」
「なんでって……」
 頭を撫でながら起き上がった慶太は、眠そうに欠伸を一つかました。
「何にも覚えてないのかよ」
「えーと……」
 首を捻る笑美。
 記憶に残っているのは、居酒屋で若詐欺に腹を立てた所。
 そして……。
「金色の……目?」
「まだ寝ぼけてんのかよ」
 呆れる慶太の声に、笑美は布団を顔の前に引き上げる。
「それより、なんで私があなたの部屋にいるんですか!」
「俺があんたの部屋の鍵を持ってないから」
 頭をぼりぼり掻きながら慶太は笑美をにらみつけた。
「それとも何か、俺にこの寒空の下、野宿しろってのか」
「あ、いや、それは……」
「はいはい、目が覚めたなら、帰る、帰る」
 笑美の腕を取って立たせると、慶太は笑美をドアに押しやった。
 その弾みで、ぽとり、と何かが落ちた。
「ん? なんだ?」
 身をかがめて拾う慶太。覗き込む笑美。
「……お守り?」
 香り袋くらいの小さな絹の袋に、長い紐がついている。
「可愛い……。あなたのですか?」
「んなわけ、あるか」
 紐を広げると、慶太は笑美の首にかけた。
「えっ?!」
「俺のじゃなきゃ、あんたのだろ」
「え、その……、あ……」
 妙に近づいた慶太の顔にどぎまぎする笑美。
 いつもは大量の髭に覆われて気付かないが、意外と……。
(あれ? イケメン?)
「……いいのか?」
 耳元で慶太の低い声が響き、びくっ、とする笑美。
「な、何が?」
「時間。役所って、始まるの結構早いんじゃなかったっけ?」
「……え」
 腕時計を笑美の前に突き出す慶太。
 その手をガシッ! と掴む笑美。
「あーーーーーーーー!」
 時計の針が示す時間を見、笑美は叫び声を挙げて慶太の部屋を飛び出した。
「……ったく、世話が焼ける」
「けっこう、いい時計だね」
 背後からかかった声に振り返ると、どてらを着た三宅が立っていた。
 顔が少しむくんでいる。
「……お祭りだからって食べすぎ飲みすぎじゃないのか。
 顔、パンパンだぞ」
 寝ぼけた顔で三宅は笑った。
「久々のご馳走だったからね。それより」
 三宅は慶太の腕を掴んで時計を見る。
「あんたは、これを貰ったんだ」
「……どういうことだ」
「この時計、昨日まで壊れてたでしょ」
「……」
 目を見開く慶太に、三宅はいぃっ、と口の端をあげる。
「この街には、慣れた?」
「……そうだな。少し、慣れてきた」
「そう。なら良かった」
 ぱっと手を放すと、三宅は自室に向かって歩き出す。
「おい」
 その背に呼びかける慶太。
 首だけをめぐらせて振り返る三宅。
「……もし、お前らがあいつに何かするようなら、
 俺はお前らを許さない」
「ははっ」
 背中を震わせると、三宅は宙に指で文字を書く。
「その言葉は、そのままそっくりお返しするけど。
 あんたほど、今、この六合にいるはずがない人もいないでしょ」
 ぴた、と指を止めると三宅は慶太を指さす。
「私はこの街も、あの子も気に入ってるの。
 あんたが何者か知らないけど、何かするようなら黙ってないからね」
 睨みあう三宅と慶太。
「あらあら、朝から賑やかね」 
 廊下に響く声に振り向けば、ネコが箒とハタキを持って立っている。
「元気が余っているなら、お掃除手伝ってくださる?」
「いや、俺よりこいつの方が……」
 慶太が振り向くと、すでに三宅の姿はなかった。
「いつのまに」
「じゃあ、今日もよろしくお願いします」
 にっこり笑って、ネコは掃除道具を慶太に手渡した。
「掃除をしにきたわけじゃ、ないんだけどな……」
 ネコはにっこり笑って頷いた。
「知ってますよ。でも、まだまだその時期じゃないですからね」

>>第40話

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