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#45 あの夏にも、この夏にも、うんと昔の夏にも乾杯

「カメラを捨てるべきやな」
彼女は言った。いつになく真剣な表情で、一点を見つめながら。
「写真を撮ってしまうと、記憶が薄くなる気がする」

潮風が、やさしく頬を撫でる。

「憶えておきたいのは、そのときの匂い、音、誰かの表情。
・・・自分の感じたこと、なんやと思う。」
そう呟くと、彼女は無骨な一眼レフを置いて、海を見にいった。


ここは、京丹後市の伊根町。美しい舟屋が並ぶ京都北部の町だ。
夏やすみの最後を、親友である彼女と過ごすことにした。
彼女は写真、わたしは書くことを通して、自分を知る旅に出ることにしたのだ。

彼女は、しばらく海を見ていた。
水面は穏やかに揺れていて、たまに遊覧船が通る。ミンミン蝉の鳴き声がBGM。

じっとしていても、目の前の景色は動いていて、とうてい追いきれるものではないのに、どうしていつもあくせく動きまわっているのだろう。
何に焦って不安になって、思い悩んでいるのだろう。
こんなふうに立ちどまって、観たり聴いたりしているだろうか。

海カモメが鳴いた。「いい声で鳴くねえ」彼女が笑った。


「消費を止める時間」の話を思い出していた。昨日、先輩に連れていってもらった温泉の露天風呂で、一日を振り返りながら言ったことだった。

「今日は、生産している人たちと過ごしたねえ」
「生産者って、すごいよな」

その先輩は、2年前から京丹後で有機農業をしている。見せてもらった畑は、たくましく雑草も育っていて、野菜はもちろん畑ぜんぶを愛おしそうに紹介してくれる様子は「生産者」だった。

「いつのまにか、消費ばかりしていたなあと思って」
やらなければ、が強くなると、仕事はエネルギーと時間を「消費」する時間になっていた。平日の疲れに流されて寝てばかりの休日、ネットをぼうっと眺める夜、ときめくほどではないものを買うこと。それらはすべて「消費」だった。
有給休暇が始まってから、できるだけ毎日noteを書いてきた。それは「生産」していたのだと思った。誰のためでもなく、自分のために書くことが、自分を癒し、整理し、誰かに伝える手段となっていた。自然体で、気持ちのいいことだった。

そのまま彼女に伝えてみた。彼女が「消費」に圧迫されているように感じたから。迷いやモヤモヤを生んでいるような気がしたから。
「そっか。今日は消費が止まったから、こんなに濃い時間やって感じるんかも」ほんのすこし、彼女の瞳が光ったように見えた。


彼女が動いた。黙ってスマホを取って、また海のほうへ。

スマホは相変わらず、誰かからのメッセージや無限の情報を伝えてくる。けれど。
「だらだら見ているだけの時間は消費だけど、目的を持って使っている時間は消費ではないかもなあ」彼女の言葉が響いた。



わたしは、どうだろう。
最近のテーマ「自分を愛す」ことを、今どんなふうに捉えてる?

この旅で「わたしという人生はすべてつながっている」という当たりまえの真実に気づいた。
高校時代にお世話になった方と大学時代に出会った方が今になって知り合って、新しい関係になっていく。「そういえば、この人はこの人の友達で」という会話を何度もした。初対面だった先輩と彼女にも、共通の知り合いがたくさんいて、それぞれにストーリーがあった。どれも愛おしい記憶たち。

ただ、関係性がずっと継続しているかといえばそうではない。

15歳から、出会いと信頼を大切にしたいと思ってきて、大切にできなかった場面でものすごく落ち込んできた。その波が、悔しかった。
出会いと信頼を大切にする=関係を継続すること、関心を持ち続けることという思い込みが、波を生んでいるのではないか。

「親友やってる15年の間にも、たくさんの素敵な人に出会ってきたんやなあ」彼女からの一言が、不安という霧を晴らした。出会ってきたし、これからも出会い続けたい。だとしたら、どうしようか。脳が動き出す。

日々たくさんの人と出会っていく人生で、関係をすべて継続するなんて出来ない。その時々に、関係性を大切にする方法を知っていけばいい。目の前の人に誠意を尽くしていれば、何かあったときにまた続きから始めることができる。継続することを目的にしてしまったら、できなくて苦しいだけだし、目の前の人との時間や関係が薄まってしまうんだ。

だって、すべての夏はつながっていたから

大切にできなかったわたしも、落ち込んでいたわたしも、助けてもらったわたしも、彼女と京丹後に来たわたしも、「わたし」で良かった。

2019年の8月は、あと30分で終わる。
今のわたしは、あの夏にも、この夏にも、うんと昔の夏にも乾杯したい。
春にも秋にも冬にも、乾杯しよう。

すっと霧が消えていて、晴れ間が広がった気分。道はいつも、ひらかれている。

ありがとう、夏。また来年。
一緒に旅してくれた彼女と、出会ってくれた人たち、そしてわたしにも感謝を込めて。


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Suzu Inamoto

自分の「好き」に気づいた瞬間、人は光る。「好き」は入り口で、「嫌」を乗り越えた先に「愛」として、そこにある気がしている。

心が動いた記憶

日々感じたことを言葉にして表現する練習。心が動いたことを、そのままにしないように、書きたいことを書きます。
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