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「大丈夫、愛だ」 - 不格好な愛ほど愛しく、傷だらけでも人は生きてゆく

★★★★★

これはふと目にした評判が良かったので気になって観てみたドラマなのですが、少し驚かされた作品でした。人気小説家と女医、シェアハウス、浮気、結婚、離婚にドタバタする恋愛モノ…序盤はひと昔前の日本のトレンディドラマのような世界観で、まあなんとなく流しているくらいの感じで観ていたのですが、いつの間にか「あ、そういうことじゃないんだな」と思わされるように。このドラマには「大人のためのヒーリング・ラブコメディ」というコピーが付いているのですが、話が進むにつれて「ヒーリング」である意味、そして「大人のための」ドラマなのだと、どこかでしみじみ分かり初めるのです。

主人公のチ・ヘス(コン・ヒョジン)は日々、心の問題を抱えた患者たちと向き合う女性の精神科医。気が強くて医師としても優秀なヘスは、ある日先輩医師の代打としてテレビのトークショーに出演することになります。そこでトークの相手として出会うのがベストセラー作家のチャン・ジェヨル(チョ・インソン)。イケメンで人気のジェヨルの上から目線な態度がヘスは気に入りません。一方でジェヨルは普段モテる反動からか、全く釣れる様子のないヘスに興味を抱きます。

最悪な印象のまま別れたふたり。ヘスは先輩医師のドンミン(ソン・ドンイル)と、ドンミンの患者であるスグァン(イ・グァンス)と3人で一軒家をシェアして暮らしているのですが、家の持ち主であるテヨンの繋がりで、ある日ジェヨルが期間限定でこの家の一部屋に越してくることに!

まあみんな負けず嫌いな感じのキャラクターで終始大騒ぎで序盤は進行していくわけですが、ヘスの恋人であるチェ・ホやドンミンの元妻であるヨンジンなど、他にも多様なキャラクターが次々と登場し、複雑に入り組んでいく人間関係の中で浮かび上がってくるのは、各々が奥底に抱えている癒えない傷。

他でもないヘス自身、幼いころのトラウマから恋人がいるにも関わらず深刻な恋愛恐怖症を患っています。この病を必死で克服していく道筋に、ジェヨルの存在が大きな意味を持つことに。正直、最初の数話はヘスとジェヨルの魅力がまったく分からなかったのですが、このふたりが手を取り合っていく様が優しくて美しくて、ちょっとしたシーンでなんだか涙が滲んでしまうこともありました。「大丈夫、愛だ」というタイトルが、この上なくこの世界に必要な言葉のように思えました。

また全体的には確かにラブコメ的なノリを醸しているドラマですが、冒頭は結構びっくりする状況で始まります。ジェヨルが白髪の男にフォークで襲われるのです。そしてそれについての説明はあまりなく、妙な違和感を残したままジェヨルとヘスの恋愛に物語の視点はすぐ移ってしまうのです。

途中まではこの違和感は少し前のドラマ(2014年放送)だからなのかと思いました。ある意味で表現が洗練されていないというか…。それが物語も半分を過ぎたあたりから、実は細かく丁寧に何層にも人間の心の傷を描いているがゆえに生まれる歪な手触りなのだと気づきます。

主役ふたりの恋も、時にこじらせて、時に本能的で、不格好ですらあるけれどなんだかすごくリアル。全てはヘスとジェヨルの心の傷が一筋縄ではいかない立体的なものだからこそであり、そして実際人間は誰だって大なり小なりたくさんの傷を負いながら大人になっていくもので、誰かと繋がって築き上げる人間関係というのは、そんなキレイにまとまるものじゃないのです。医者と小説家という設定こそそんなに現実的ではないかもしれませんが、このふたりの恋愛は本当に手触りがあって人間味に満ちていると思いました。

また本作で鍵を握る存在として描かれるハン・ガンウを演じるのはEXOのメンバーD.O.(ド・ギョンス)。これがドラマデビューとのことですが、深みのある目と声が印象的で、ひとり独特の雰囲気を放つ重要なキャラクターを鮮烈な演技で魅せていました。

終盤はもうすべてのキャラクターに魂を感じてしまい、彼らの痛みに触れるたびに涙が出るほどになってしまいましたが、それでも人生は、日々は続いていくから、優しさやささやかな幸せを握りしめるようにみんな生きてゆくのです。この、人の苦しみから目を背けないことと、素朴で温かい日常の描き方が、韓国ドラマならではの力強さの軸になっているようにも感じます。最後まで観てほしい一本。


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