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【オーバーウォッチ・コラム】俺はNoobを愛している、それはかつての俺の姿だからだ(もしかしたら今も?)。

俺がオーバーウォッチを始めたきっかけは、殆ど某氏によるものである。某氏の具体名については、ここでは必要が無いので記述しない。彼はオーバーウォッチの動画配信をやっており、事あるごとに味方に発狂したり、絶望したり、もう二度とやらないと言いながら、そのゲームを断続的に続けているようだ。

最初のきっかけは、「彼がそれほど下手なんだから、俺はもっとうまくできるだろう」という不純な動機だったが、気が付いたらスコアランク500(わからない人に言うと、プレイヤーの中でも最底辺)をたたき出した。

そこからシルバー帯と呼ばれるランク(スコアランク1500)へ行く特訓が始まった。俺は、今までのゲームの体験上、対人が向いていないと実感していたので、ヒーラーと呼ばれる、味方を回復し支援する係をやっていたが、それでもレートは伸び悩んでいた。そして、オーバーウォッチをプレイしている人間なら、誰しもが一度はたどり着く心境に陥った。

「何故俺は上手くいかない。こんなに頑張っているのになぜ勝てない。」

荒れたときもあった。味方への罵詈雑言もしたし、ムカつく人にはわざと負ける行為などをするトロールという行為も行った。正直、良いプレイヤーではない。

そんな中、ふと周囲を見渡すと「タンク」、特にメインと呼ばれるタンクをやりたがる人が極端に少ないことに気が付いた。オーバーウォッチでは「タンク」は不人気職だ。

オーバーウォッチには、ロールと呼ばれる、各人がこなすべき役割みたいなのが分担されている。

例えば、ダメージというロールがある。これは、一番人気のある花形みたいなロールだ。簡単に言ってしまえば「相手のプレイヤーを倒す」役割である。これがFPSらしいロールなので、皆やりたがる。タンクは「味方を守り、拠点を守る」という、非常に地味な仕事なので、誰もやりたがらない。もう一つは、ヒーラーと呼ばれる職で、要は味方の体力を回復させる役割だ。こちらは、貢献がわかりやすい、感謝されやすいということで、まあまあやる人がいる。

そこで、俺はある作戦に出ることにした。「タンクは皆やりたがらない。ダメージは皆やりたがる。ヒーラーも埋まる。とすると、下手な俺がタンクを極めれば、ダメージを普段やっている人間が無理してタンクをやることはなくなるので、戦力の底上げに少なからずなるのでは?対人の下手な俺がダメージをやるより、よっぽどマシだろう」という考えであった。その時から、率先してタンクをやり始めるようになった。

最初は苦手なタンクだったが、徐々に各キャラクターの使い分けが解るようになってきてから、俄然楽しくなってきた。何故なら、勝ち筋が解るようになってきたからだ。

このゲーム、ただ漠然と敵を殺すのではダメで、各ロールの役割において勝ち筋を理解しておかなければならない。タンクの勝ち筋は簡単で、ただ戦線を押せばいい。しかし、戦線の押し方はいろいろある。タンクはいわゆるエイム技術よりも、頭を使うロールである。どこから攻めるか、どのように攻めるか、どのように維持するか。そこを考えながら、チームを勝ちに導いている、という体験は気持ちよくなり、立ち回りも良くなり、スイスイと勝てるようになった。

そんなことをしているうちに、「推薦」と呼ばれる、ほかのプレイヤーに与える「頑張ってくれてありがとう」と呼ばれる評価みたいなのを貰い続け、たまに推薦レベルが4になったりしながら、気が付けばシルバーとなり、次はゴールドを目指す段階になった。

シルバーになったとき、正直怖かった。なぜなら、俺はそんなに上手くないと思っているからだ。別に気にしなくてもいいとは思うのだが。もしかしたら、シルバーになった時点で燃え尽きてしまったのかもしれない。あるいは、自分の限界を見るのが怖いのかもしれない。そういうわけで、以前よりは及び腰になりつつある自分がいる。

とはいえ、オーバーウォッチは楽しいので、一日3回くらい、ランクマッチと呼ばれるレートを上げる試合をこなすことした。しかし、不思議と勝てる。味方が強いから楽しい。俺も活躍できるから楽しい。たまに負けて悔しいから楽しい。そんな感じで、気が付いたら、とっくに某氏のレートを超えてしまっていた。

とはいえ、某氏もすぐに同じレートに来るだろう、と思っていた。というのも、俺がシルバーにたどり着いた段階では、同じレートだったからだ。

しかし、某氏のレートは伸び悩んでいた。むしろ、現在のレートを維持することも危うくなっていった。俺は逆に伸び続けていた。気が付いたら、差は開いていた。まあ、プレイ時間が違うからだろう。気軽に構えて、次の配信を見た。彼もすぐに追いついてくるだろうさ。そう考えながら配信を見て、俺は驚愕してしまった。

オーバーウォッチは、キャラクター毎に特性があり、その特性を理解していなければ、そのキャラクターで活躍することは難しい。だが、某氏のプレイはキャラクターの特性を無視した場当たりプレイなのだ。だから、そのキャラクターの良さが生かされることはないし、むしろ味方の邪魔をしているのである。彼の脳内には「このキャラクターが強い」という理解しかなく、「このキャラクターにはこれが有効だから、これを使おう」といった、相手のキャラクターの特性に合わせた使い方をしないのである。

にも関わず、彼は頑なに自分の立ち回りは正しいと信じている。彼は向上心が無いプレイヤーを憎むような発言をしていたが、彼自身が、そのキャラクターを上手く使おうとする向上心は全く見られない。むしろ、味方に文句をいい、この程度も出来ないのか、と文句を言い続けるのである。

その様子は、俺が見てきたNoobだった。Noob達は、決まってこういう風に言うのだ。「〇〇がNoobだ」「Noobチームだ」と。Noobとは、まあ下手くそとか役立たずとか、そういう意味にとらえてくれるといい。そして、最もイライラすることに、そういうことを言う奴に限って全く活躍していないのである。だから、ある時期から、そういうイライラすることを言う奴に対しては、皮肉交じりにこう返すようになった。

「Noob always says "mom!! others are noobs!!"」

そうなのだ、彼はそのゲームを1年もやっているのにも関わらず、立ち回りも、ゲームに対する知識量も、そして態度もNoobのままなのだ。

自分のゲームプレイが味方の立ち振る舞いを混乱させ、めちゃくちゃにしているのにも関わらず、味方に文句を言い続けている。各人は各人なりに勝利しようとし、それを選んでいるわけだから、それをどのように生かすか、を考えられずに、自分が「やりたいプレイ」だけに執着して、勝ちに導けていないのだ。

つまり、彼は「味方を生かすプレイ」が全くできていないのである。もちろん単なるゲームだからそれでもいいわけだが、それならばそうであるという実力を認めなければならない。

俺は全て理解した。そこにいたのは、かつての俺なのだ。

味方に苛立ち、俺は頑張っているのに勝てないのは何故だ、なんでこんなに頑張っているのに他の奴らはなんてクソなんだ、と叫んでいる俺なのである。もちろん、俺も聖人君子ではないから、ボイスチャットを切った向こう側では「もっと頑張れよクソダメージ」とか言っている。ただ幸せなのは、レートが上がるに従って周囲も上手くなったので、言うことがなくなってきたくらいだ。

もちろん、俺は特別上手いわけではない(シルバーというのは、普通のプレイヤーよりやや下手くらいだ)。だから、圧倒的に敗北することもある。そういうときは、「運が悪かったな、練習でもしてマッチングの時間をずらすか」といって、クイックマッチと呼ばれる練習試合で、自分が上手くなりたいキャラクターを練習している。今やりたいキャラクターはザリアと呼ばれるキャラだ。本当はダメージをやりたいけど、自分ができるときはないかな。

彼は、永遠と味方に文句をいい続ける。彼は、その仲間に対して思いやりも持てず、事情も理解せず、ただ自分が考える常識を振り回し、断罪する。別にそれで勝てるなら、問題はない。ただ俺とプレイスタイルが違うね、と思うだけだ。だが、彼は負け続けるのである。

他人なんて自分よりクソだ。そういう傲慢な気持ちが俺にもあることは認める。でも、俺はそのクソどもと仲良くし、上手くやっていけなければ、その試合は勝てないんだ。俺が、上手い人としかプレイしたくない、といったところで、常に俺の隣にやってくるのだ。そういうゲームなんだから。

別に、無双できる試合ならそれでいい。でもオーバーウォッチはそうじゃない。どうやって味方のポテンシャルを、0.1だったとしても、0.2に上げられるか、考えなきゃいけないんだ。俺は、俺が言うクソと仲良く出来なければ、永遠にその沼に居続けるだけだ。

俺は彼の動画を見続けるし、依然として味方に文句を言い続ける彼の姿を楽しむだろう。そして、また自分の試合に戻るだろう。

そして、負けたら自分の何が悪かったのか、どう立ち振る舞えば勝てたのかを考えながら、次の試合に臨むだろう。

彼は、以前として味方の何が悪かったのか、俺は如何に悪くないのかを考えながら、配信を続けるだろう。

自分自身のレートを溶かしながら。

※一部人称を変更