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醜い墓守

醜い顔に生まれたものは信心深いが機会が恵まれることはなかった。金の魅力に抗うだけの温もりを誰も与えてくれなかったのだ。


俺は物心つく前に教会の前に捨てられていたらしい。
孤児だった俺は教会の神父様に拾われることになった。しかし、醜く顔の歪んだ俺は誰の愛も受けることはなかった。教会を訪れる人の前には姿を見せるな、というのが神父様からの最初の指示だった。やがて一人で自分の世話をみられるようになったころには墓守の仕事を与えられた。それと同時に教会から墓の近くの荒屋へと移り住んだ。他の孤児たちは聖書を読んで勉強していたのに、俺は人目を忍んで家事労働だったので自分が厄介払いされたのだということには気づいていた。

墓守の仕事は単純で夜に墓地を見回って、墓から死体が勘違いして起き上がってこないか、墓を荒らす愚か者が居ないかを探す。どちらも神を恐れぬ不届きものだ。恐れることはない。神に代わって、神父様に代わって罰を与えるだけだ。
墓守に用がある人間など居ない。荒屋を訪ねる人はなく、夜に墓場を参る物好きもいない。そのため俺は醜い顔を気にせずに生活ができて気軽になった。
しかし、人恋しさは生まれてこの方ずっと胸の奥底で燻り続けている。人と話し合いたい、笑い合いたい、ともに食事をし、勉学について論を交わし、好いた女の手を握りたい。
いつものように昼間は荒屋で家事をしていた。雨の日の夜にある男が荒屋を訪ねてきた。
「死体が欲しい。手伝ってくれないか。手間賃は出す。」
死体が欲しいなど、気が狂っているとしか思えない男だ。叩き出してやろうとナイフに手を伸ばしかけたが、彼が差し出した袋の中身に思わず動きが止まった。
「これで女でも買うといい。その顔では、ふん、女の肌の柔さなど知らんだろう。」
俺は袋を受け取って、男とともに墓荒らしをすることになった。

なんのために死体が欲しいのか?と訪ねると彼は医学のために解剖をするのだと言った。
医学がなにかは分からなかった。解剖とはなにか?と重ねて問うと彼は死体をバラすのだと言う。
ハラハラする。肋骨の間が痛む。
死体を切り刻むために墓荒らしをするなんて、とても信じられない。彼には神への信仰がないのか?
それから何度か彼は雨の夜に訪ねてきた。
不信心ものに天罰あれ、と思う一方で彼に対する感謝もある。
彼は手間賃としていくばくかの貨幣を恵んでくれた。
これが本業である墓守の収入に合わせればなかなかの額になるのだ。金はいい。醜い男にも人肌の温もりを知る機会をくれた。
それ以来、俺はもっと金が欲しくなった。金だ。金があればなんでもできる。
やがて食事のために鳥を捌いている時に俺は思いついた。
雌鳥は体の中に卵を持っているものだ。そうだ、卵を産むのを待つ必要はない。腹を割いて直接取り出してしまえばいいのだ。
俺は雨の日に備えてナイフを研いでおくことにした。あの鳥はデカい。よくよく準備をしておかなければ。

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