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魔法使いが魔女になる理由

信じていた姉に期待を裏切られた時、彼女と自分のどちらを信じればいい?

私は幼い頃からお菓子作りが好きだった。
お菓子作りは厳しい両親が見逃してくれた数少ない趣味だった。
学校から帰ってくると宿題よりも先にお菓子の仕込みを始め、待ち時間を利用して宿題を終わらせて、お菓子の出来上がりを確かめた。
そうやって作るのは好きだったが、人付き合いに難があった私はそのお菓子を食べてもらう相手がいなかった。
そんな時、頼りにしていたのは姉だった。姉は私と違って人前でも如才なく振る舞い、社交的な性格だった。
その姉は私のお菓子作りを褒めてくれる数少ない理解者の一人だった。私がお菓子を作るといつも、素敵なお菓子を作れる貴女はきっと魔法使いね、なんて言ってお菓子をつまんで微笑んでくれた。

高校に入ると私は進路を考えるようになった。お菓子作りで生計を立てようと思うと専門学校に入るのがいいと考えていた。しかし、専門学校に進むことを両親が許してくれるだろうか?悩んだ私はやはり姉を頼ることにした。
姉ならきっと理解を示してくれるに違いない。私のお菓子作りを褒めてくれた彼女なら応援してくれるだろう。
そんな希望は姉の曖昧な笑顔の前に萎んでいった。本心では反対している。しかし、それを直接表現するのは今までのキャラクターにそぐわない。だから、笑って誤魔化そうとして失敗している。そんな表情だ。
「貴女にはもっといろんな選択肢があるわ。まずはその選択肢を一つずつ吟味していって、それから改めて進路を決めてもいいんじゃないかしら?」
大学に進学した姉はきっと妹である私にも進学を選ぶべきだと考えているのだ。
「それに貴女は人前に立つには向かない性格でしょう。そんなのでパティシエを目指しても大丈夫かしら。」
その言葉は私に強い衝撃を与えた。頭が真っ白になり、言葉を出すことが出来なかった。それは私のコンプレックスそのものだった。自分の見た目に自信がない私は人付き合いを避けるようになって久しい。その一方で姉は人の注目を、太陽の恵みのように受けて花開いていった。身内のひいき目を抜きにしても姉は美しい女性だと思っていた。そんな姉に私は憧れていた。そしてその憧れの女性は私の夢を応援してはくれないのだ。
途端に姉への憧れは強烈な敵意へとなって燃え上がった。
「そう、お姉は私のことを応援してくれないんだ。分かった、もう一度考え直してみるね。」
私の手は強く握りしめるあまり、白くなっていた。
その時から私は姉を頼るのをやめることにした。

人前に出られなくてもパティシエを目指しても構わない、そう割り切れるようになるまでに一ヶ月かかった。
私は姉の為の魔法使いじゃなくて、私自身に魔法をかけることをしていくのだ、と決心した。たとえそれが魔女と呼ばれることになろうとも構いはしない。私は自分の夢を諦めはしない。その為なら自分の不向きなことにも正面きって向き合ってやる。

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