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デブの少食

彼女についていたのはほんとに悪霊だったのか?

私は自分に自信がなかった。とにかく自信がなかった。職場でもよく体型をネタにいじられ、なにも言い返せない自分が情けなかった。
「なに食ったらこんな腹になるんだよ。」
そう言われても苦笑いで誤魔化すしか出来なかった。私の家系はどうも太りやすい血筋らしく、一般の一人前の食事でも十分以上にふくよかな体つきになってしまう。
ダイエットを試みなかったわけではない。しかし、この体質ではダイエットのために食事量を減らしてもとにかく痩せないのだ。顔ばかりやつれていき、化粧でも誤魔化せないほどだ。
そんな私に自称霊感のある友人は言った。
「悪い霊がついてるから、お祓いに行った方がいいよ。」
そんなことを言われても困惑するばかりだった。仮にその霊が原因だとしてどうすればいいのか。わざわざ霊能者を探して、私を太らせている霊を祓ってくださいとでもいうのか。
やけになった私は節分の豆をたらふく食べてやることにした。鬼を退治できるなら、霊にも効果はあるだろう。豆は口内の水気を奪い、豆の皮が歯に挟まった。食べている最中はただ惨めな思いだった。
それからしばらくすると服のサイズが合わないことが多くなった。きついのではない。ゆとりがあるのだ。
これはもしや痩せたのではあるまいか。
意気揚々と職場へと向かった。
他人から見ても変化は明らかなようで、二度三度と名前を確認されることがあった。それほど痩せたということか。これならばもう体型をネタにいじられたりはしまい。
そんな思いも一週間と続かなかった。
太っていることをネタにされなくなった私は同僚の雑談のネタにされることが減った。その分だけ職場での存在感も減ったのだ。
これなら太ってた時の方がマシだったかもな、などと考え始めてきた頃に友人とお茶をする機会があった。その友人は私を見て驚いた。見た目はまだしも霊が綺麗さっぱり居なくなっているらしい。これならもう大丈夫だろう、と私が胸を撫で下ろすと、友人は厳しい顔つきで言った。
「今までは霊の影響で体型を維持していたけど、今はむしろ痩せすぎないように気をつけないといけない。それになんの霊も居ない人は違う悪霊に狙われやすいから、気をつけて。」
私は霊の存在など気にしていないので話半分に聞き流していた。
それからしばらく体重は落ち続けた。ついには貧血で倒れるようになった。これはまずいと体重を戻そうと食事量を増やすが、それでも追いつかない。
食べても太らないという悩みは誰に相談しても反感を買った。やがて私は餓鬼のように食事を求め続けるようになった。
友人はそんな私を見て言った。
「気をつけろ、て言ったのに。仕方のない人だね。」

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