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妻に秘密のお楽しみ

思いやりがすれ違う、優しさゆえの勘違い


私には妻と娘が一人いる。最近は娘の世話にも手がかからなくなり、一人の時間を持てるようになった。
「ねえ、お父さん。夜に一人でなにしてるの?」
娘のその一言が食卓の空気を凍りつかせた。
「一体なんの話かな?」
私は背中に冷や汗が伝うのを感じた。
その話は私には都合が悪いものだった。すぐにこの話は終わらせなければならない。
「えー、なになに?お母さん、その話詳しく知りたいなー?」
妻が話を盛り上げようとテンション高めに食いついてくる。とはいうものの目には冷たさが感じられた。妻の視線は私を視野から外していない。妻は私を疑っている。なにかやましいことを私がしていると予想しているのだろう。
「夜は早く寝ないとだめだぞ。」
私にやましいことがあるとでも?
私は表面上は厳格な態度を保ちつつ、娘に対応を続ける。
その通りだ。私には妻に隠している秘密がある。

「最近、夜中に一人でテレビ使ってるよね。」
妻の指摘は鋭い。確かに私はテレビを使っていた。
「なにを証拠にそんなことを言うんだ?」
「私がテレビをつけるとチャンネルが変わってることがあるのよね。あれ、貴方がテレビ使ってるからでしょ。」
妻は娘の肩に手を置き、微笑んでいる。娘は気づいていないが、その視線は明確に私のことを責めていた。
「ここでは言えないことをしてたり、しないわよね?」
「ああ、もうこんな時間か。子どもは寝る時間だぞ。たまにはお父さんと一緒に寝ようか。」
「お父さんと寝るの?」
「貴方、誤魔化さないで。」
妻の声が真剣味を帯び始めた。
「まさか、私に飽きたんじゃないでしょうね。」
「お父さん、お母さんに飽きたの?」
「いや、お前、子どもの前だぞ。」
「私、ネットで調べたの。最近夜のお誘いが減ってるのはなんでかって。」
「おいおい、誤解だ。誤解だよ。」
「なら夜に一人でなにをしているの?」

「…晩酌だよ。君も子育てに疲れているだろう。」
「晩酌くらい、私が付き合ってたじゃない。」
「いつも帰ってきた時には君は寝てたから、わざわざ起こすのも忍びなくて。君と娘の寝顔を肴に飲んでるんだ。」
「起こしてくれたらいいのに。」
妻の肩から力が抜けたようだ。
なんとかなったか、と私も体の強張りが抜けた、と思った時。
「お父さん、お母さん、夜のお誘いってなに?」
私と妻はおおいに慌てた。

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