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バーチャルyoutuberがリアルイベントを行うということ


「そんなに境界ってきちんとしてないみたいだよ……」
「……」
「もうすぐ中に入れるんだよ……フルレンジ、フルモーションで、私をメタファライズさせて……」
「そんなこと、いくら最新でも民生用のNAVIでは……」
「できるよ、改造したから」

アニメ「serial experiments lain」第4話より

※このnoteは全文無料で読めます。

バーチャルYoutuber(以下Vtuber)ブームが巻き起こって、そろそろ一年は経つだろうか。人気VtuberがTV番組に出演したり、大企業の広告に採用されたり。そういった機会もぐんと増えた。一方では「お仕事」が増えることで、本来行っていたような動画配信の機会が減ることを寂しく思うファンもいる。

中でもリアルイベントは、「バーチャル」「youtuber」としての利点――インターネット回線さえ繋がっていればどこからでも視聴できる――を殺しているという人が少なくない。

「みんなと響きあいたい」という響木アオのコンセプト

私の推してる響木アオちゃんは、特にリアルイベントに積極的なVtuberだ。4月のツタヤインストアライブに始まって、ソロイベントだけで既に10回を超えた。アオちゃんは神出鬼没。ハロウィンの渋谷でもどこへでも行く。8月から始まった全国ツアーでは、日本各地を飛び回っている。「THE IDOLM@STER」天海春香役の声優・中村繪里子さんのイベントにお呼ばれしたこともあった。

リアルイベントの概要としては、おおむねディスプレイに映ったアオちゃんがリアルタイムで歌ったり踊ったりファンとコール&レスポンスしたり、というもの。

アオちゃんのコンセプトは「みんなと響きあいたい」。全く知らない人には「お歌を歌う子なのかな」くらいしか分からないだろうけれど、言葉通りに受け取ってみて理解できることもある。みんなと響き「あう」。つまり双方向でのやり取りを彼女は求めているんだな、っていうことだ。

このコンセプトは単なるキャッチフレーズに留まらない。アオちゃんは日頃から「みんなと響きあう」べく活動している。

「みんなと響きあいたい」を実践するリアルイベント

1stライブの直前、持ち歌の一つ「chuchuchuダーリン」の公式コール動画が配信された。「Vtuberのライブって何をどうするんだ……?」「人はちゃんと集まるのか……?」と不安がる私達に向け、アオちゃんはコールを入れて一緒に盛り上がってくれるようお願いしていた。

アオちゃんの持ち歌の内何曲かは、このように、公式からコール、振り、タオルぶん回しなどが推奨されている。彼女は「Vtuberのライブってどんなだろう……興味はあるけどちょっと怖いな……」と尻込みする若者の肩を抱いて「まあまあまあお兄さん楽しいからまあちょっとだけでも見ていってまあまあまあまあほらこれやってみてあれもどうぞさあさあさあ」てな感じで沼にぐいぐい引きずり込もうとする。

動画は観てるけどリアルイベント未経験という人は、ライブ中「もっと声だせー!」「声小さいぞー!」とガンガン煽ってくるアオちゃんを想像できるだろうか。彼女はあのかわいい姿の裏に、私達ファンを引き連れて歩く、気のいい兄貴のような顔も隠しているのだ。

先日六本木で開催されたライブでは、アイドルイベントではわりとお約束(らしい)の「運動会」が開催された。ただし運動したのはアオちゃんではなくファンの方。地下の薄暗い会場で、「DA!DA!DA!大根」の曲に合わせ、アオちゃんの号令一下、耐久スクワットに挑戦する。なんでかと聞かれてもよく分からない。

その光景は全くもって怪しげで、この手の文化に縁がない人が映像だけ観るとドン引き確実なのだけど、参加してみると意外とハマる。でもスタッフが曲をエンドレスで流すし、ファンも意外とがんばるので、一向に終わらず……。最初はノリノリだったアオちゃんが我に返って「……み、みんな大丈夫ー!? ライブはまだ途中だよー!? 膝のお皿は割れたら戻らないからねー!?」なんて言い出す一面も。いやアオちゃんがやりだしたんだよね? 

……なお私はその後のことを考えて早々にリタイアした汚い大人ですごめんなさい。

また、ライブ後のチェキ会(写メ会)は、既に恒例行事になっている。ファンはどんな風に撮影すれば同じ画面の中で自分とアオちゃんが「響き合っている」ように見えるか、必死に頭を働かせる。最初の頃は動画配信でやっていたポーズをお願いする人が多かったけれど、回数を重ねるにつれて各々の独創性が発揮されるようになってきた。

多少の無茶でもアオちゃんは応えてくれようとする。それが嵩じてかわもP(avexでアオちゃんを担当してる人)から「はしたないからやめなさい!」と怒られることもある。アオちゃんが怒られるのは本意ではないので、そうしたら素直に謝りましょう。

リアルアイドルのように実際に触れ合って握手したりはできないからこそ、私達はあれこれ考える。考え抜いた末、思い思いのポーズをアオちゃんと披露する姿は、それが他人であっても眺めてるだけで楽しい。自分の番が終わっても、多くのファンがその場に最後まで留まって写メ会を見守っている。

アオちゃんはあの手この手でファンと響きあおうとしている。最近ではそうした願いに応じて、フラスタを出したり、ライブに合わせて新聞にアオちゃん宛のメッセージを掲載したり、ファンの方も積極性を増してきた。私が書いているこのテキストも、「響木アオというアイドルについて」というお題で文章を書きませんかという企画の一環だ。

ところで、私はMCで演者がスタッフをいじるのが好きだ。ソロイベントの良さは、自分の推しというたった一人のお姫様(王子様でもいいけど)のために、現場が動いてるところを垣間見られることだとも思ってる。

アオちゃんというお姫様はバーチャルな存在である。ゆえに、彼女をサポートするかわもPや「コアパン」と呼ばれるスタッフたちの出番は多い。その中で、アオちゃんが彼ら彼女らをいじることもあれば、かわもPやスタッフがお姫様の言動にめっすることもある。そうした姿を重ね、イベントはますます一体感を高めていく。

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アオちゃんの「みんなと響きあいたい」という願いは、アイドルとファンの間だけに留まらない。「響木アオ」はファンもPも現場スタッフも含めた、全員参加型のコンテンツなのだ。

なぜリアルイベントなのか

……Vtuberの生を支える技術は最新のものである。ファンの方もVtuberのイベントというと、目を瞠るような画期的なものを期待してしまう。バーチャルイベントプラットフォーム「cluster.」で開催されるVRイベントなど、その最たるものだろう。

ファンはVR機器を購入し、自前のアバターを用意して、cluster.にログイン。全国どこからでも憧れの存在と同じVR空間に入り、イベントを楽しむことができる。まるっきり映画「レディ・プレイヤー1」の世界だ。アオちゃんも、cluster.でときのそらちゃん、月ノ美兎委員長といった他Vtuberと共演したことがある。

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でも、最新技術の恩恵というのはいつだって、みんなが平等に享受できるものじゃない。インターネットを通じたVR体験の快適さは、VR機器の性能、回線速度、混雑状況などに左右される。比較的誰もが楽しめるYoutubeの生配信ですら、タイムラグがある。それは双方向でのやり取りを望むアオちゃんのような子にとっては、特に大きな障害だ。いつかは改善されるかもしれない。でも、技術者ならぬ身では、その未来を引き寄せるため、具体的にできることはほとんどない。ならどうする? 

その答えの一つが、リアルイベントだと思っている。「現場」では、観客側はVR機器の性能や回線速度には左右されない(混雑状況はむしろリアルイベントのほうが快適度に関わってくるかも)。みんなと響きあうのに、Vtuberだからといって、必ずしも新しさにこだわる必要はないのだ。

当然この場合、ネット配信では関係なかった、ファンの居住地と会場の空間的距離がネックになってくるわけだけど……。アオちゃんはできる限り色んなところにいるファンに会いに行こうとしてるものの、やっぱり限界はある。なら、youtubeでの配信もする。VRイベントにも出演する。そして、いまだリアルイベントでしか体験できないものがあるなら、そっちもやる。

何も一つに絞る必要はない。色々やっていけばいい。響木アオはみんなと響きあえる機会を逃さない。

ディスプレイに映ってる演者がリアルタイムで歌ったり踊ったりする姿を、ファンが応援する。時には会話する。アオちゃんのリアルイベントで観られる光景には、cluster.のような圧倒的未来感はない。しかしその分、虚構と現実の間を手弁当で埋めていくような楽しさを味わえる。これはVR技術がまだまだ過渡期だからこその面白さだと思う。

VRという技術から生まれたVtuberたちが、未来に向けて走り出す。スタートの合図は既に鳴った。ゴールはまだ見えない。あるのかどうかすらわからない。ならばせめて今を全力で走りきろう――。響木アオはそんな気概に満ち満ちたアイドルだ。

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