見出し画像

Vtuberは「おカネほしい」と言った。するとこの世にアイドルポップが生まれた。

※このnoteは全文無料で読めます。

響木アオの新曲「ユメスクリーム」は、「おカネ」をテーマとして制作された。

これを聞いて「アオちゃんらしいよなあ」と思った人。あなたは彼女のファンなのだろう、おそらく。
響木アオには拝金主義なところある。インタビューでほしいものを尋ねられたらとりあえず「おカネ」と答えるなど、事あるごとに現ナマラヴを公言してやまない。

そうしたキャラクターは、自身のアイドル活動にも反映されている。
Vtuber初と言われるワンマンライブが開催されたのは、一年以上前のこと。
アイドルイベントの常として物販もあったのだが、ファンがまず衝撃を受けたのが、場内で流れていた「物販の歌」だった。

「ぶっぱーんぶっぱぶっぱぶっぱぶっぱぶっぱーん」「かってーかってかってかってかってー」「かつどーうしきんがほーしいのいまならちぇきもーとれちゃーうーよ!!!!」

詩情もクソもない。一分かそこらの、ヤケクソじみて直球の物販販促歌。しかしこれをエンドレスで聞くこと2-3時間。会場は、すっかり中毒に陥ったオタクで溢れかえっていた。
以降、彼女のライブの物販では「物販の歌」が流れるのが定番となっている(セルフアレンジされたものとして「物販の歌ボサノヴァver.」もある)。

ファンに金銭を要求するとき、響木アオはオブラートに包まない。その代わり、トンチキな歌を作り出す。
クラウドファンディングに参加してほしいなら「クラファンの歌」、投げ銭がほしいなら「スーパーチャット」、大正製薬とコラボした青汁を売りたいなら「アオの青汁」。

プロいメロディにどストレートな売り文句を謳う歌詞をのせ、キュートな歌声で届ける。これによってアイドル・リアリティ・ショックが引き起こされる。
聞いている内、ファンは「アオちゃんは今日もトンチキなアイドルだなあ」と薄ら笑いを浮かべながら、指は勝手にクレカのセキュリティコードを打ち込んでしまうのだ。失禁はしない。

おカネのことはシビアな問題だ。
Vtuberの場合、youtubeの登録数も再生数もクラファンの出資額も、あらゆる数字が普通の視聴者にまで可視化されるので、なおさら世知辛い。
そういうわりとアンタッチャブルなところに触れる。のみならず歌にする。笑い飛ばしてしまう。
響木アオのネタ方面の音楽活動全般、そうしたところに楽しさがある。

そこでこの「ユメスクリーム」である。
発端はテレビ朝日の「musicるtv」という番組。響木アオの新曲のため、若手音楽家らが競うオーディションが開催された。

画像1

https://www.music-ru.com/

今回「ユメスクリーム」を作詞作曲して見事勝ち残ったのは、元アイドルのシンガーソングライター・みきちゅさんだった。
約二十曲を本人名義で制作してきた響木としては初の、外部からの提供曲となっている。

「おカネ」というテーマは響木サイドからの提案だったそうだが、最初にこれを聞いた時は、アオちゃんらしいと思うと共に、新鮮味も感じなかった。
彼女には既に「物販の歌」を始めとした飛び道具がある。
せっかく他の人に作ってもらうのに、同じようなトンチキソングを依頼するのもつまらないんじゃないかと。

しかしそれは杞憂だった。同じ「おカネ」をテーマにしながらも、みきちゅさんは今までのものとは全く別の、エモい曲を作り上げた。

「ユメスクリーム」は職業:アイドルとしての生き方を綴っている。
アイドルを職業とするということは、それでおカネを集めなければいけないということだ。おカネをたくさん集められるということは、より多くの人に必要とされている証明でもある。そこらへんの葛藤や喜びが歌になっている。

リボンをゆるめて 自由になれても
あなたがいないと なんにも始まらない
お金さえ愛に換えてくれた
恩返しできる日まで

ファンのほうからすれば、好きなアイドルorパフォーマンスに対して愛を示す方法は色々だ。直接応援の声を届ける人もいれば、拡散に協力する人もいる。文章やイラストで布教する人もいる。
おカネは中でも、機材や生活費や実績といったものに交換可能性の高い愛であり、自分の託したおカネで推しの可能性が広がっていくのはうれしい。

……この曲のジャケットアートは、ムンクの「叫び」を模したものとなっている。ユメ「スクリーム」だから「叫び」なのだろう。頭を抱え顎が外れるほど口を大きく開いた響木アオがこっちを見ている。

画像2

一説には本家の「叫び」では、叫んでいるのは絵の中の人物ではないのだという。

この絵は、ムンクが感じた幻覚に基づいており、ムンクは日記にその時の体験を次のように記している。
「私は2人の友人と歩道を歩いていた。太陽は沈みかけていた。突然、空が血の赤色に変わった。私は立ち止まり、酷い疲れを感じて柵に寄り掛かった。それは炎の舌と血とが青黒いフィヨルドと町並みに被さるようであった。友人は歩き続けたが、私はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。そして私は、自然を貫く果てしない叫びを聴いた。」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%AB%E3%81%B3_(%E3%82%A8%E3%83%89%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%A0%E3%83%B3%E3%82%AF)

では、ジャケットアートが歌詞の世界観を表現しているのなら、「ユメ」「スクリーム」しているのも響木アオではないのか。「悔しかった夜も悪夢覚めた朝も必要とされたくて叫んだ」のは誰なのか――。

案外、これはファンの側なのかもなと思ったりする。そう感じてしまうのは私もそちら側だからだろうか。アイドルと同様、ファンも推しに必要とされたい。その欲求はおカネという形で叫びになる。無数のファンの叫びの中で、響木アオは何を思うのか。そんなことを考えたりもした。

最後に。これは私の持論だけれど、同じテーマから嬉しさや悲しさ、面白さといった別ベクトルの感情を想起させることのできるクリエイターは一流である、と思ってる。
今回みきちゅさんの提供を得て、響木アオはまた一歩そちら側に近づいた。
「物販の歌」などと並んで生「ユメスクリーム」が披露される次のアオライブは、それにふさわしい盛り上がりを見せるだろう。


ここから先は

0字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?