見出し画像

楽器として、焼上手として

写真の「焼上手」は、2021年の最後に買った楽器で、合羽橋で手に入れた。本来は説明書にもあるように、魚や餅を焼くための片手で持てる網で、プロ仕様とのこと。

詳しくはまた書こうと思うが、最近取り組んでいるある曲で、この「焼上手」を楽器として使用した。
その曲に金属的な音が加われば、もっと面白くなるという確信から、エンジニアと共に理想の音が鳴りそうなものを探索しに合羽橋へと出掛けた。

合羽橋は、調理器具などが売っているエリアで、いろんなお料理グッズを眺めつつ歩ける、ワクワクする素敵で好きな場所。
前から欲しいな…と思っていた卵焼きフライパンなどを横目で見ながら、金属的な音がしそうなものを探して、、、多分これやー!(自信60%くらいのビビビッ)と見つけた逸品。
その時点では、多分このくらいの周波数が合うと思うけど…という予想でしかないので、半分は調理器具としてであり、もう半分が楽器としてだ。

「焼上手」は裏返すと、波型のステンレスになっていて、これをドラム・スティックで叩くと金属の音がする。(そりゃそうだ)
そのサウンドは、曲に合わせてみると思い描いていた通りのもので、絶妙に溶け込んでくれた。
あまりに求めていたサウンドがするので、今後も使いそうな楽器として楽器棚にしまってある。

現在は、様々なサンプル音源があるので、世界各国のいろんなパーカッション・サウンドがプラグイン・ソフトを使えばパソコン一つで簡単に出すことが出来る。

プラグイン・ソフトも無数にあり、その違いはサウンドの個性だけではなく、無料や有料の値段の違いや、パーカッションで言えば地域に根ざしたもの、スタイルに沿ったものなど様々である。
その無数の中から、楽曲や自分に合いそうなものを選択し、打ち込んだり、演奏したり、サンプル演奏を使ったりと様々な形で使用される。

僕も今回の曲にいくつかのサンプル音源を使用している。サンプルとして用意されている楽器の数は、本当にたくさんあるのだが、その中に頭に描いていた「焼上手」のようなサウンドはなかった。
だから探す必要があったんだけど。
結果として、「焼上手」としての性能はわからないけど、楽器としては唯一無二のサウンドを持つモノになった。

なんでも楽器になるということが言いたいわけではない。
用途によってモノの価値が変わることが面白い。
それは合羽橋を探索している時にも感じたことで、楽器か調理器具かはだんだんとあやふやになり、鉄の卵焼きフライパンを叩いたら、カウベルによく似た音がして、リズムも出せるし、卵も焼けるのかぁ…と感心したからだ。
「焼上手」も然りである。
ギターも殴れば武器になるし、野菜などを切るまな板になるかもしれない。(使いにくそうだけど。)

11月頃に京都で開催した「Peg & Awl」のライブで、岩城さんによる楽器のメンテナンス・ワークショップを同時に行ってもらった。
面白く、とてもタメになる内容で、ここでその内容を詳しくは書かないけれど。
そのワークショップの中で、”演奏されない楽器は、楽器とは呼ばないのではないか”という言葉があった。

僕もそう思う。
楽器は、意思や行動がないと音がそもそも鳴らない。
音を出そうとしない楽器を楽器と呼ぶのだろうか。
自動で演奏される楽器もあるけれど、それもまずは仕掛けを動かさないといけない。
でもこの場合は…と、理屈はいくらでも言えるのでさておくが。
調理器具として使う場合も意志や行動が必要になる。

Julian Lageというギタリストが、ギター演奏について話していた中で ”ギターもあなたを頼っているし、あなたもギターを頼っている”という言葉がある。

2つの言葉は繋がっている。
演奏という概念でコントロールするにしろ、しないにしろ。
あるモノが楽器になるためには、意思や行動が必要になる。
それらがあれば、忽ち楽器となり、サウンドとなる。
そのサウンドは次に繋がる何かを生む。
それは音符やリズムだけではなく、他のインスピレーションかもしれない。
それが面白くて仕方がない。
楽器にしろ調理器具にしろ、そんな好奇心から始まっていると思う。
その根源のようなものに触れた気がして、幸せな気分になった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?