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フトアゴの異変と急死~こてつに何が起きたのか~

9月下旬、フトアゴヒゲトカゲの「こてつ」が急死しました。3月にお迎えしてわずか半年。早すぎる別れでした。

未だ悲しみは癒えないところですが、この出来事を他の飼育者に語り継ぎ、役立てるのが、今できることだ。そう考え、筆を執ることといたしました。

本記事では、異変から急死までの状況と、獣医師からいただいた分析を時系列に従って述べてまいります。
フトアゴヒゲトカゲの症例として、また健康だった個体が急変する事例として、フトアゴに限らずペット飼育者の方々への情報提供となれば幸いです。

「起きたこと」を粛々とお伝えしたいところではありますが、急病・急死に向き合うにあたって、筆者の心情を交えざるを得ない面がございます。ところどころ感傷的な表現が織り込まれる点につきましてはご容赦願います。

なお、本文はすべて無料ですが、記事末尾に有料部分を設定いたしました。
お恥ずかしい話ですが、診療費・火葬代等がかかり、お財布が苦しくなっております。香典代わりに、あるいはカンパ的に、ご厚意を頂戴できれば有り難い限りです。

こてつのプロフィール

フトアゴヒゲトカゲ オレンジパステル
2021年生まれ タイCB
お迎え 2022年3月27日
好きなもの トウモロコシ・オクラ・乾燥ミズアブ・日光浴

9/21 小さな異変

連休に挟まれた9月のこの日。こてつに小さな異変が見られました。

お腹のストレスマークが消えず、また顎がこれまで見たことが無いほど黒く染まったのです。

こてつは比較的ストレスマークの出やすい子でしたが、顎がこれほど黒くなるのは初めてでした。
温度や湿度によるものなのか、床材の誤飲など何らかのトラブルが起きたのか。

こと、この日の前後は台風が接近。低気圧で人間も体調を崩し気味だったので、フトアゴにも同じようなことが起きているのかもしれない――

そう思い、ひとまずは様子見としました。

9/22 右腕の異常

翌日、これまでとは違う、明確な異常が起きました。

こてつの右腕――右前足が動かず、だらりと垂れ下がるのです。
持ち上げると、残りの手足と尾でじたばたと暴れます。あくまで右腕だけがおかしいのでしょう。

ストレスマークはまだ少し残っていますが、顎の黒は抜けています。エサも大好きなオクラと、虫を少々を食べてくれました。

結果として、こてつが野菜を食べてくれるのは、これが最後となります。

9/23 通院開始

この日は朝一番で動物病院に行きました。以前、ヒョウモントカゲモドキを見ていただいた病院です。

主に犬猫を多く扱われているようですが、獣医師の先生は個人的にフトアゴやリクガメを飼われているということ、そして何より徒歩圏内であることから通院を決めました。

触診すると、どうやら卵胞ができているらしいとのこと。こてつがメスであることがハッキリした瞬間でもあります。先生が「名前から男の子だと思ってました」とおっしゃってました。そうだよね……

血液検査およびレントゲンを実施するか尋ねられたため、お願いすることに。(このとき、血液検査の注射を嫌がってじたばたと暴れました。元気な動きにちょっと安心したりも……)

結果は「カルシウムの値が若干低めだが、クル病を懸念する域ではない」「タンパク質の値が低い」とのこと。レントゲンでも体内に卵が確認できたことで、卵にカルシウムやタンパク質を取られている、という分析をいただきました。

ひとまずは栄養剤を出していただき、しばらく様子見ということに。言ってしまえば生理現象か、と個人的にも納得したことをよく覚えています。

なお、血液検査とレントゲンを実施したことで、診察費は2万円をオーバーしました。もちろん費用をケチるつもりはないのですが、思っていたより金額が大きく(以前レオパでかかったときは1000円くらいでした)びっくりしたことを覚書として記しておきます。

9/24 体調の悪化

一夜明けて、闘病生活1日目。

何やら、明らかに昨日に比べて体調が悪そうでした。注射を嫌がって暴れたのが嘘のようにぐったりしており、エサにも水にも反応がイマイチです。

温浴を試みようとしましたが、あまりに元気がないため負荷が大きいと考え中断。お腹を触ると、確かに卵と分かるゴロゴロした感覚がありました。

結局、この日は薬をどうにか口に流し込み、暖かい環境でゆっくりさせることとしました。

こてつが眠ったのを確認すると、筆者は着替えを取りに、自転車圏内にある実家へと向かいます。

9/25 長い一日。急変、そして…

胸騒ぎ、というものは実在する。それを人生で実感したのは、これが最初で最後だと思います。

その夜、筆者は実家に泊まり、翌朝に帰宅する予定でした。

けれど、何やらぞわぞわとした感覚が襲ってきて、まるで眠れません。

結局、深夜に自宅へと戻り、眠るこてつのケージを明け方まで眺めていました。

そして明け方。

こてつは目を開けます。

その目はまるでピントが合わず、何も見えていないようでした。

水分を摂取すれば少し落ち着くかも――そう思い、水を舐めさせようと試みますが、舌を動かすこともしません。

外がすっかり明るくなった頃、こてつは苦しそうに一度、二度えづく様子を見せ――

そして、それが彼女の最後の動きでした。

・ ・ ・

ちょっと疲れただけだよね?お腹が小さく動いて、息はしてるんだよね?

そう思ってこてつをじっと見続けますが、ぴくりとも動くことはありませんでした。

休日診療をしてくれる病院に連れて行こうにも、手遅れなのは明らかです。

結局、こてつの体はいつものケージに寝かせました。もしかしたら、小さく息をしてくれるかもしれない。そんな期待に縋って。

・ ・ ・

この日は9月の最終日曜日。横浜でBLACK OUT!が行われていました。

本当は行くつもりだったイベント。2年前、同じ日・同じ会場でヒョウモントカゲモドキを迎えたのが、爬虫類飼育の本格スタートでした。

もちろん、今は行く気分ではありません。今回は不参加――と思った矢先、チラシの文字が目に留まりました。

ヴァンケット動物病院による無料相談!

せめて、こてつに何が起きたのか、誰か教えてほしい。

そんな思いで、横浜へと向かいます。

・ ・ ・

動物が好きな人たちの集うイベント会場に、こんな後ろ向きな気持ちで来て良かったんだろうか。

等と後ろめたさを感じつつも、会場内で動物病院の先生に事情をお話しします。

先生のお話は、要約すると
「女の子だと、卵が悪さしちゃうことはどうしてもある」「急変となると、やはり救命は難しい」
という2点。

「急変はどうしようもない」というお話は医師の視点で見た事実なのでしょうが、同時に「飼い主が必要以上に気に病むものじゃないよ」と慰めてくださっているようにも感じられました。多くの動物と飼い主を見届けていた獣医師の先生だからこその言葉なのでしょう。少しだけ、やり場のない気持ちが落ち着いたような気がしました。

・ ・ ・

先生の言葉を胸に、横浜から自宅へと戻ります。外は数日前の台風が嘘のように晴れ、こてつの好きな日向ぼっこ日和でした。

お日様に誘われ、「おっニンゲン、どうした?」と言わんばかりの顔で起きていないかな?朝のことは全部夢だったりしないかな?とぼんやり考えながら自室のドアを開けます。

――こてつは朝と同じ姿勢で、動くことなくケージに横たわっていました。このとき改めて、こてつの死を理解したような気がします。

朝は息を吹き返す可能性に縋りましたが、今度はこてつの体を傷めないよう、保冷を試みます。

餌用オタマジャクシを取り寄せた際の発泡スチロールにペットシーツを敷き、こてつの体とありったけの保冷剤を詰め込みました。

箱の中の動かないこてつに、「大きくなってたんだね」「こんなに小さい体でよく頑張ったね」と、矛盾した気持ちを抱きつつ、そっと蓋を閉じます。

9/26 獣医師からの言葉

月曜は朝一番で電話をかけました。電話の先は、先週末に診ていただいた動物病院です。

受付のスタッフさんに事情を伝えると、すぐに院長先生が代わってくださいました。先生に一つの相談を申し出ます。

「――こてつの体を、先生に改めて見ていただくことはできますか?」

ただ火葬にするよりは、という、飼い主の一種の悪あがきでした。院長先生もフトアゴを飼っている。筆者自身も、またいつかフトアゴを迎えるかもしれない。近所にだって、もしかしたら他のフトアゴの飼い主がいるかもしれない。

そんな未来のフトアゴのために、こてつの命を役立てることが、最後にできることだと考えました。

院長先生は快諾くださり、診療時間が終わるころに来てほしい、今夜で出来る限りのことを調べたい、と応じていただきました。

約束通り、その日の夕方に病院を訪れ、こてつの体を院長先生に預けます。

・ ・ ・

数時間後、院長先生からの着信がありました。先生は診療時間後、本当にすぐ動いてくださっていたようです。

先生のお話をまとめると、「体内で無精卵の1つが割れ、そこから細菌感染が起きていた」「その細菌感染による腹膜炎が直接の死因と考えられる」「右腕の麻痺は、細菌感染による何かしらの神経疾患ではないか」とのこと。

後知恵で何か考えようにも、「生前にお腹を切開して、割れる前に卵胞を取り除く」という選択肢はむしろ体への負担が大きく、割れたことに気付いてからでもそれは同じこと。細菌感染に最速で気付いて抗生剤を投与できたならあるいは――いや、それでも――

電話越しに先生にお礼を伝え、筆者自身もまた、何かできなかったか?何か間違っていなかったか?と頭の中をぐるぐるさせます。

少なくとも、お腹への負担をもっと減らすことはできたかもしれないな――などとぼんやりと考えていました。

9/27 永遠の別れ

翌朝、開院とともに動物病院へ。診察を待つ犬猫に先駆けて、仕切られた診察室へと通されます。

先生からは改めて、こてつの症状の説明と「獣医師として貴重な経験を積ませていただけた」という旨のお礼を賜りました。こちらこそ・と先生にお礼を伝えて病院を後にします。

切開して検査した以上、こてつの体はこれ以上放っておくことができなくなりました。哺乳類と比べて、爬虫類の遺体は腐敗が早いという情報もあり、埋葬について考えなくてはなりません。

病院から戻ると、すぐに自治体の環境事業所の連絡先を調べました。言わずもがな、外国産の動物であるフトアゴヒゲトカゲの遺体は、国内で土葬すべきではありません(そもそも集合住宅住まいのため、埋葬する土地もないのですが)。火葬を依頼できるのが環境事業所でした。

ペット葬儀業者への依頼も考えましたが、

  • 河原などで捕まえて飼っていたトカゲやヤモリは簡素に弔った。こてつだけ過剰に特別扱いをするのはトカゲたちになんとなく不義理に思えた。

  • お骨を残すことはできなくとも、生きた証ならば脱皮殻がある。お骨を残せていないのは前述の国産トカゲたちも同じ。

  • 何より、検索してヒットした葬儀業者のサイトがどこも商売然としており、とても「ここに頼んで弔ってもらおう」と思えなかった

といった思いから、簡素に・かつ近隣でお願いできる環境事業所に決定。路上で死んだ野良猫等の死骸を片付けるのと同じ機関――ということで「処理」という扱いになってしまうのかな、とは思いつつ、電話を入れます。

電話口では「担当者が出払っているから、夕方以降ならば遺体を引き取りに行ける」と案内されました。どうやら、車で引き取りに来ていただく形が主流のようです。

「こちらから遺体を持ち込むことは可能ですか?」と尋ねると、「それでしたら、いつお越しいただいても大丈夫です」とのこと。さっそく、環境事業所へと向かいます。

初めて訪れた環境事業所。あまりにも縁がない施設であり、近隣でありながら「こんな場所にあったんだ……」と驚きます。

入る前に、保冷ケースのフタを開き、中のこてつをそっと見ました。検査のため切開したお腹は、獣医の先生がキレイに縫い直してくれています。体調を崩した時の顎の黒もストレスマークも消え、穏やかに眠っているように見えました。

蓋を閉じ、環境事業所の受付に事情を伝えます。受付の男性は丁寧に応対してくださり、指示に従って簡単な書類記入と手数料の支払いを済ませました。そして、こてつの入ったケースを預けます。

「では、わたくし共で責任もってお弔いさせていただきます」

男性が神妙な面持ちでそうおっしゃいました。「お弔い」。自治体に依頼した時点で、「弔い」ではなく「処理」になってしまうことを覚悟していたため、この言葉には一筋の救いを感じました。受付の男性に深く頭を下げ、環境事業所に――そしてこてつに、別れを告げます。

この日もまた、こてつの大好きな、良く晴れた日でした。

足元を見ると、こてつの大好きなタンポポが、季節外れに咲いています。

こてつがいない事実が、どっと押し寄せてきたように感じました。

お日様もタンポポも好きだろう、こてつ。もうちょっとだけ、地上にいてくれて良かったのに。

さいごに

執筆時点でこてつの死から2ヶ月。悲しみが癒えることはありませんが、こてつが生きた記録・闘病を頑張った記録を少しでも役立てたいと考え、本記事を執筆いたしました。

事実と感情を書き並べた結果、とりとめのない文章となってしまいましたが、この記事がフトアゴ飼育者の方――こと同じような状況に陥った方への、何かのヒントとなれば幸いです。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

(以下の有料部分には内容はありません。香典代わりに・あるいはカンパ的にご購入いただければ大変ありがたいです)

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お読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは動物の世話及び保護の為に役立てさせていただきます。