雨宮真水

おはよう、こんにちは、こんばんは、おやすみ。

雨宮真水

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マガジン

  • 火曜日のあくび

    文章(詩・散文)置き場

  • 炭酸ソーダの水荘|交換日記

    • 22本

    世界の終りと平成ノート・ワンダーランド|平成最後の五月雨が降る日、僕らは遺書みたいに濡れて空を見る。これは、僕らが書く交換日記だ。|ツイッターの文章書き達がnoteで描く珠玉のエッセイ集|#交換エッセイ集

  • 月曜日の寝室

    気の向くままの雑記帳

  • 雨が降るならお菓子を焼こう

    お菓子作りに関わるあれこれ

  • 水曜日の鍵盤

    七行の詩。七線譜と呼んでいます

最近の記事

うたかた

眠りながら聞いていた歌声が 誰のものかを思い出せない ラムネ瓶から取り出したビー玉にはヒビが入っていて 騒がしく光っている 雨の匂いがしないことがさびしい また眠くなってビー玉を落とす 深くなったヒビから とぷん と水音がしたが もう何も見えなかった 「臨時休館なんです、魚たちが逃げだしてしまって」 申し訳なさそうな声に天井をあおげば 鮮やかなヒレから透ける色 空になっている水槽を見て 図書館の入り口にそんなものがあったのだと はじめて気がつく 魚は字が読めるんだろうか

    • 明かりを灯すために

      気がつけば今年も終わろうとしている。 最後に更新した日付を見てささやかに戦慄した。こんなにも書けなくなっているのか。いや、「書かなくなった」というべきか。 昨年も同じようなことを考えていなかったかい、私よ。 まだまだ収まったとはいえない感染症のせいにしてしまうことは簡単だけれど。私の心持ちが変わってしまったのだと認めるべきである。 ……というところまで書いていて、結局2021年のうちには書き終えられずにいた。どうにもならないではないか、と頭を抱える。 さて、そう。年が明け

      • なんでもない日

        あまり、積極的な姿勢で呼吸をしているのではないことをなんとなく感じている。 ほんのりと在る念慮は甘美な毒だ。 理由も、 意味も、 自分で見つけるのは難しい。 私の内にいる獣は、今、どんな目をしているだろう。温度を探りながら。 いつか、自分で自分に対して、きちんと言ってやれる日が来るのだろうか。 そんなことを思う。 誕生日おめでとう、わたし。

        • (名前を呼んで)(これからも)

          以前、名前についての記事をふたつ書いた。 本名についてと、筆名について。 これでみっつめになる。 しばらく使っていた「雨木透子」という名前を変えることにした。 随分と長く傍にいた名前だし、特別な思い入れもある。ならばなぜ? と自分でも疑問に思わなくもないのが本当のところ。だけれど仕方がないのだ。変えなくてはならないという気持ちがやまなくなってしまったのだから。そういうとき、なのだろう。 雨宮真水。あめみやまみ。 新しく迎えた名前。 改名日、令和3年5月20日。 もちろん

        うたかた

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          5本
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          34本
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          26本

        記事

          読めない手紙

          「わたしはあなたを知っていますか」 静かな目と声で尋ねられれば からだの中心を針が抜けていく気がする それは季節のわりにあたたかな午後 道の脇を歩いている猫と 梢の先にとまっている鳥 いくつかの視線が彷徨って ぷつりと重なってはほぐれていく 映るものの正しさに さした価値などないと言ったのは 古びた聖書を抱えた靴磨き ひとさじの幸福を数えるものさ と鼻唄をまじらせたのは 片腕を失った銀細工師 すれ違うたびにふれる肩の わずかな痛みと届く振動 ここで天使が踊っていたという

          読めない手紙

          勿忘人

          祈るためのかたち かさついたてのひらに いくつかの棘が立つのを かなしく眺めた つくられた水色の飴玉の ざりざりとした甘さ 酸素の足りない頭で味わいながら 繰り返すまばたき 映しだした子と 同じ風景を望んで やわらかく髪を撫でる う、 あ、 と 漏れる小さな声 ねむりの淵があがってくるまで 歌い続けた 今日、あなたから便りがなければ 語るべき物語は失われる 取り出した日記帳に てんてんと打っていく文字は ゆるしてもらえずに 勿忘草になり 忘れられたことも 忘れられた約

          おいしくて、うれしい、しあわせな、魔法。

          お菓子作りは好きなことのひとつ。 市販の、きちんと整えられた味わいや見た目のものを買ってきて、ささやかな贅沢をするのは幸せだ。 けれどそれと同じくらい、 気取らず楽しめる焼き菓子のレシピを引っぱりだし、少し古びてきていても馴染んだ道具を使い。焼きあがるのを待つあいだ、甘く香ばしいにおいを楽しんでいる時間も幸せだ。 最初に作ったものの記憶、は。 お菓子というよりおやつだけれど。 母親と一緒に焼いたホットケーキ。 料理と比べてみると、お菓子作りは魔法みたいだ。粉と卵、牛乳を

          おいしくて、うれしい、しあわせな、魔法。

          美しく破綻していく夜の隅で

          三拍子の羊が鳴いている 甘やかだからといって 抱きしめてはならない ひとすじの夢路のほつれで 彼らの輪郭は溶けてしまうのだ いつまでも膝を抱えている 道を失った旅人のように 夢をほどく かたくなに閉じている薔薇のつぼみを 少しずつ引き裂くように 美しく破綻していく夜の隅で 野良猫の悲鳴とかさね 咲くことの叶わなかった 少女の肩に弔いを埋める 囁かれる約束ばかり慈しみ 失われる少女の片足 花になるには早すぎた ままならない歌声を ひとつふたつ 懐かしい匂いの部屋で抱えて ま

          美しく破綻していく夜の隅で

          レインツリー

          揺らされた水面の くりかえし くりかえす 波紋から届くうたごえ 雨の降る午後 今日は明るいと ほそめた目に ティーカップからたちのぼる 白 少しずつ染みが広がるように 喉がこまかくふるえる 伏せた視線が 深部をさぐって いつか聞いた 遠い国の雨の音をよびおこす (この雨には) (名前があって) ささやいてみれば ずいぶんとなつかしい その名を教えてくれた 真白な背中のひとは 花をたくさん抱えたまま 笑うのをやめてしまった だれからも あいされたいと いいながら 一緒に 雨

          レインツリー

          誰もが透きとおっている

          誰もが透きとおっている あまりにも傾いた床の上に 散らかされた花びらの匂い 約束を刻んだものを探しても めざとい彼女がしゃくりと食べる 頬を染める色が血でなくても 悪い夢のようだった 手紙を差しこまれた胸が痛むのです なにも見えなくているのに 香りばかりが軽やかで ずいぶんと昔に 失った翼の跡のようでした もたげた首筋には 誰かの歌を宿しておきたかった 夢のにおいを探していた 真夜中に飲むココア からめた指は折れていた 針に糸を通すような 綱渡りの先 まばたきの隙間から

          誰もが透きとおっている

          春を待つ

          囁かれるばかりの 誰かの泣いている声を そっとてのひらでつつみ 雪の下に埋めた 戸惑いを隠すように 深く 目を覚ました部屋で ゆるくまるみを帯びた肩に ひんやりとした名残 夢を見ていた 渇いた喉に種がある さりさり 削れてしまう前に 手紙にしなくてはならない 掠れたインクであることに 少しだけ安堵しながら 名も知らぬ背中に声をかける 芽吹いた頃のひと呼吸が いつか雪を溶かして 花になるのを期待した もう泣かないですめばいいのに と てのひらをまた すりあわせ 空へはな

          春を待つ

          想像する、こと。

          思考は、少なからず想像力で補われている行為なのだと思う。その範囲やいろ・かたちが異なっているから、時にはひどいすれ違いをおこしてしまう。 あなたが知っているものをわたしは知らない。 逆もまた。 異なった心では同じものを映せない。だから、痛みをつくらないためには、ていねいに想像してみる必要がある。……なのに、そうしているうちに置いてきぼりにされてしまうこともあるのだから、さみしいものだ。 どうしてそんなに急いでいるの? こわい顔をして。 風の音は聞こえている? 雨の匂いを覚

          想像する、こと。

          少女がめくる指先の季節に

          耳をふさぐばかりでいる あなたはもう詩を語らない。 月の裏側に隠したものが 消えるのを待ち続ける そこには小さな墓があった 誰からも手向けられることのない 夜のような場所だった 果実の割れる音 合図として猫は逃げだした 落とされた首輪の鈴に 反射する光は罪状めいて 遠ざかる日の背中を 沈黙とともに突き刺す こんなにも冷えた世界 少女がめくる指先の季節に 忘れものを尋ねに来る人 古びた記憶がずいぶんたまって あふれては海をつくる 浸された足首にからまるのは 誰からの贈り物だ

          少女がめくる指先の季節に

          透明な夢をなくしたようで

          よく透けた爪先 波紋が広がるアスファルトに 冷えた音だけを残す いつもの帰り道のように 振り向いたあとの呼吸 「このユーザーは存在しません」に 小さくさようならを告げる 思っていたよりも遠くに来ていた 噂のメニューが見つけられず 舌に馴染んだカフェオレにして マスクの内側で嘘つきになる 白い表紙の本を開いている人 生きているんですか と尋ねれば 静かに首を振った 右耳の先を欠けさせている 散歩のルートを間違えたまま 海風のにおいにくらくらした 約束を覚えているのは いつも

          透明な夢をなくしたようで

          沈んだ鯨

          寝室の床につけた爪先から 花々が開いてゆく心地がする まだ世界が眠っていることを呼吸して 瞬きをいくどか繰り返した 分厚いカーテンの隙間に 手をさしいれて 引っ張りだした夜は水溶性だった 濡れた頬がいたむのは 鯨の歌を思い出したから (死ぬときには) (群れをはなれるのだって) 誰から聞いたかは忘れたまま 歌う真似をする 孤独のかたまりが深く 沈んでいき 耳の底で透明に響く カーテンの向こう側は 泳いでいくには冷たい たむける花を摘むように 手は祈りのかたちにした か

          沈んだ鯨

          とある巣籠もりのおやつ時間

          おやつには、甘いものと飲み物を揃えたい。 緑茶には和菓子(個人的にはあんこを使ったものが良い)、珈琲にはチョコレート、というように、適した食べあわせというものがある。互いの良さを引き立てあう、幸せなひとときの演出。 紅茶になら何がいいだろう。 最初に浮かぶのはスコーン。 ケーキならばシフォンだろうか。 だが、紅茶の国・イギリスではビスケットを紅茶に浸して食べるのが定番のやりかたらしい。 ふむ。 クッキーやビスケットの、さくりほろりと崩れていく食感を紅茶で包みながら楽しむ

          とある巣籠もりのおやつ時間