冬のキッチンは清潔なのに


制服の胸元に通したスカーフが
音もなく落ちた
黄昏の街で橙に焼けた影も
早朝の公園で砕いた水溜まりも
今では黙りこんでしまった
そういえば雨の雫で淹れる紅茶の味を
教わらないままだったね


身体の芯にクラゲの骨が通る
くすぐったい、とふしゃふしゃ
笑う声は水面越しガラス越し
紺色のカーテンをすり抜けて
星を集めてきた指先の感覚に
ふれていい、と尋ねれば
みるみるそこから溶けていった


あなたが灰になる夢を見て
わたしはますます忙しい
ケトルの蒸気に急かされて
火傷ばかりしている
この頃ストレートばかり飲むのは
ずっと牛乳を買い忘れているから
冬のキッチンは清潔なのに


ここまでお読みくださり、ありがとうございました