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「アニメ評論」は必要か? 藤津亮太氏の最新刊から考える

アニメ評論家・藤津亮太氏の評論集「ぼくらがアニメを見る理由――2010年代アニメ時評」(フィルムアート社)が先頃上梓されたので、早速購入してきて読み始めました。
2012年以降に書いた文章を中心に、なんと400ページを超える分厚さ。『天気の子』や『魔法少女まどか☆まぎか』といった劇場アニメ・TVアニメが何十タイトルも登場するだけでなく、海外作品にも言及するなど、まさに2010年代を一望します。読み応えたっぷりです。

個人的には多くの評論の初出である藤津さんの連載「アニメの門」が、2015年夏からウェブサイト「アニメ!アニメ!」で「アニメの門V」として連載を開始した頃の編集長だったこともあり、少し懐かしく読みました。

「ぼくらがアニメを見る理由――2010年代アニメ時評」
(フィルムアート社)
藤津亮太=著
発売日:2019年8月24日 定価:2,400円+税
http://filmart.co.jp/books/manga_anime/bokuani_fujitu/

“本書は日本におけるアニメ評論家のベストの書である!“
とちょっと煽りぎみにSNSで言おうと思ったところ、はたっと、気づきました。
そもそも日本に藤津さん以外にアニメ評論家って、誰がいましたっけ?

ウェブやSNSで、ときたま「アニメ評論家」に対する手厳しい意見を目にしたりします。しかし、僕の知る限り、「アニメ評論家」と肩書を名乗っているのは藤津亮太さんただひとりです。
もちろん評論や批評、レビューはメディアに多く掲載されますが、執筆者の多くは研究家、ライター、編集者、学者、あるいは所属団体を名乗ったりします。職業として「アニメ評論家」を自称するかたはほとんど存在しません。

理由は簡単です。実際的な問題として、世の中でアニメ評論の需要はさほど多くありません。アニメ評論で職業を成り立たせるのは、なかなか大変です。
アニメに関しては昔から変わらずですが、そもそも世の中全体で昨今は評論・批評の役割がどんどん小さくなってます。伝統的に評論が大きな役割を果たしてきた美術や文芸、音楽、演劇でむしろ顕著です。

ひとつは評論活動の中心であった活字文化の退潮があります。評論や批評を掲載する雑誌はどんどん数が減っていますし、現在もある雑誌や新聞も10年、20年前に較べると読者数は減少傾向です。書籍の売上げ部数も昔ほどではありません。

もうひとつはインターネット文化の広がりです。誰でも自身の言葉を簡単に発することがでるようになった時代、評論家の持つ言葉の特別な意味がより問われるようになりました。
そうしたなかでファンや視聴者は、むしろSNSなどでのざっくばらんな感想を多く求めます。同じファンの感動の言葉こそが行動を促すわけです。「知識」より「感動」なのかもしれません。

それでもアニメ評論の役割があるとすれば、どこにあるのでしょうか?
もちろん評論家としての知識、作品の見方の提示はそのひとつです。これらに裏付けられた評論を読むことで、作品鑑賞はより楽しくなるはずです。

もうひとつの答えが、藤津さんの「ぼくらがアニメを見る理由――2010年代アニメ時評」で見つかるように思っています。

藤津さんのアニメ評論の書籍は、今回が3冊目。2003年の「アニメ「評論家」宣言」(扶桑社)、2010年の「チャンルはいつもアニメ」(NTT出版)に続くものです。3冊を全部を眺めると2000年前後から2019年まで、20年間のアニメの歴史を感じられます。
作品タイトルやスタッフ、ヒットの記録などはデータとして残ります。しかし時代の空気感は、そこにはありません。客観的な情報は残りやすく、主観的な気持ちや考えの記憶は失われがちです。SNSなどの感想などは、時代の流れのなかにかき消されていきます。
評論は作品が発表された時期に書かれたライブな気持ち、社会の状況も反映したアニメ文化の記憶を書きとめる重要なツールなのです。だからこそ書籍としてまとめる意味もあります。

「チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評」
藤津亮太=著 定価:2,376円+税金
http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002084

さらに重要なのは、それが「藤津亮太」一人の視点で書かれていることです。多様な視点での作品評価は重要です。しかし後からバラバラな散らばった情報を、ただただ集めても受け取る側は混乱しがちです。
むしろ「こうした考えかたを持つ藤津さんが、この時にこう考えた」のほうが判りやすいはずです。それは藤津さんの論旨に賛成であるか、反対であるかとはあまり関係がありません。20年間同一の視点、価値基準でみていることが意味を持ちます。
アニメ文化を振り返る時、「ぼくらがアニメを見る理由――2010年代アニメ時評」はもちろん「チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評」、「アニメ「評論家」宣言」の2冊は、是非手元に置いておくべきではないかと思います。

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数土 直志(すど・ただし)

ジャーナリスト。アニメーションを中心にエンタテイメント産業について、見て、聴いて、そして伝えています!
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