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ガンダムだけでない、バンダイナムコが創通を買う3つの理由

■総額350億円の買収提案、破格の金額か?
バンダイナムコホールディングス(HD)が10月9日に電撃発表した創通の公開買付け(TOB)がアニメ業界を驚かせています。バンダイナムコHDは現在自社保有する以外の創通の全株式を取得して完全子会社化する方針です。この買付け総額が約350億円にもなります。
1965年設立の創通の社員数は、わずか35名。その会社の買収価格が350億円(会社全体の評価額465億円)というのは、一般の人には驚きでないでしょうか。

そもそもJASDAQスタンダード市場に上場しているとは言え、創通の社名を知らない人のほうが一般的には多いでしょう。
実は創通はこの30名あまりで年間144億円の売上げと26億円の営業利益(2019年8月期)を叩き出すスーパー優良会社なのです。その鍵を握っているのが「ガンダム」です。

■実はふたつに分れていた「ガンダム」の権利
ガンダム関連のアニメ、ゲーム、玩具、商品はサンライズやバンダイナムコエンターテインメント、バンダイ、バンダイナムコアーツと、バンダイナムコHDのグループ各社で展開されることが多くなっています。世の中では「ガンダム=バンダイナムコグループ」と思われがちです。
しかしガンダムの権利は、もともとバンダイナムコグループのものではありませんでした。1979年にシリーズ最初のアニメ『機動戦士ガンダム』を企画・製作したのは日本サンライズ(現サンライズ)、さらに企画に関わった創通が作品の権利を保有していました。バンダイは両社からライセンス許諾を得て、玩具を製造・販売する立場です。

それが1994年のバンダイの日本サンライズの買収によって、初めてグループとしてガンダムの権利者になりました。一方で創通はオーナー経営者による独立会社の立場を維持しました。ビジネス自体は各社の連携でスムーズでしたが、「ガンダム」の権利はふたつに分れていたのです。
今回のTOBが成功すれば、ガンダムの権利は全てがバンダイナムコグループで一本化します。バンダイナムコHDが破格の買収金額を提示するのは、まさにガンダムを買うためです。それは業界関係者の一致した見方です。

■クリエイティブ創出、作品流通、二次利用までをグループ展開
しかしガンダムにばかり目を奪われがちですが、バンダイナムコHDが創通をグループ会社化するメリットは他にもあります。IP(知的財産)事業の強化、グローバル展開を掲げるバンダイナムコHDのこれまで欠けていたビジネスをいくつもの面で補完します。
ひとつは創通の持つ代理店機能です。バンダイナムコHDには、すでにサンライズやバンダイナムコアーツと複数のアニメ会社があります。ぱっと見ると、同じアニメ事業で重複しています。
しかしアニメの世界観や設定といったクリエイティブを創り、アニメーション制作をするサンライズと、作品の流通販売のバンダイナムコアーツは役割がかなり異なっています。さらに創通が得意とするのは、商品企画や広告、企業タイアップなどです。作品のブランドやキャラクターの活用に手腕を発揮します。それも作品づくりが得意なサンライズとは異なります。
バンダイナムコHDはグループに広告代理店機能を取り込むかたちです。この機能は将来的はガンダムだけでなく、グループの持つ様々な作品に活用を出来るかもしれません。

■「アルペジオ」から「ニャル子さん」「ひぐらし」まで、深夜アニメに強い創通
創通の持つアニメのライブラリーも、隠れた魅力です。ここ1、2年は数が減ったとはいえ、創通が製作出資するアニメ作品は毎年20タイトル前後にも及びます。軽く3ケタのアニメタイトルの権利を持っている会社、それが創通のもうひとつの顔です。
創通が企画・製作出資する作品には『ゆるゆり』、『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』、『這いよれ! ニャル子さん』、『ひぐらしのなく頃に』など深夜アニメを中心にヒット作も数多くあります。
サンライズとバンダイナムコアーツを合わせたライブラリーは業界でも屈指ですが、これに創通が加わることでバンダイナムコグループの作品ライブラリーはさらに巨大化します。
アニメ関連の新事業を起こす際に、そのプロジェクトにどれだけの作品を集められるかが鍵になることは珍しくありません。バンダイナムコグループは何かあれば、まとまった作品を直ちに用意できる強さを持ちます。

■アジアで展開 アニメイベント「C3」を運営
最後に海外展開でも見逃せないものがあります。創通が展開するアニメ・キャラクターイベントの「C3」です。
「C3」を冠するイベントは、日本では毎年夏に幕張メッセで約5万人を集める「C3AFA TOKYO」が知られています。「C3」は海外でもアジアを中心に開催されていて、最も成功しているのは、04年から香港で開催されている「C3 in Hong Kong」です。期間中の人出は延べ20万人以上と言われています。

人気が広がる日本アニメですが、海外では今でもアニメの楽しさをファンに伝える手段は限られています。そのなかで巨大アニメイベントは宣伝、コミュニケーションの重要なツールです。イベントを制するものが海外を制すると言ってもいいでしょう。
けれどもすでにいくつも大型イベントが立ち並ぶなかで、いちから作りだすのは大変です。独自のノウハウとネットワークを持つ「C3」は、中期計画でグローバルでの事業拡大を掲げるバンダイナムコグループには大きな意味があるはずです。

バンダイナムコグループは、アニメ・キャラクター関連事業の拡張にM&Aを積極的に活用しています。米国では2018年9月に玩具販売のBLUEfinの事業を約29億円で買収しました。国内ではこの春にサンライズがIGポートからジーベックのアニメーション制作事業を買収し、新会社SUNRISE BEYONDを設立。CGアニメ会社サブリメイションにも出資します。
加えて今回の創通のTOBでガンダムを完全傘下におさめれば、バンダイナムコグループのパワーはますます増しそうです。ビジネスの大型化が進むアニメ業界で、今後も主要プレイヤーとして活躍しそうです。

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