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興収75億円「千と千尋の神隠し」中国大ヒットのなぜ

日本では2001年に公開された宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』が、2019年に中国であらたな旋風を巻き起こしています。2019年6月21日、日本公開から18年経って初めて劇場公開されましたが、これが大ヒットになりました。
公開当初の好調は日本のメディアでも報道されましたが、その後も勢いは衰えていません。公開から4週間目の7月15日には現地の興行収入は4億8000万元(約75億円)に達しました。
中国で公開された日本映画では2016年の『君の名は。』(5億7000万元)、2015年の『STAND BY ME ドラえもん』(5億3000万元)に続く第3位です。

注目すべきは、中国国産アニメーションやハリウッド映画に匹敵する人気を得ていることです。2019年にこれまで中国で公開されたアニメーション映画では、中国の人気シリーズ最新作『熊出没:原始時代』が7億1000万元とトップを走っています。『千と千尋の神隠し』はこれに続く第2位、海外作品では第1位です。
海外第2位は3月1日公開の『ヒックとドラゴン3』です。しかし興収は3億6000万元と『千と千尋の神隠し』から大きく引き離されています。
世界的な大ヒットの『トイ・ストーリー4』は『千と千尋の神隠し』と同日に公開されましたが、実は中国ではかなり不調で2億元と苦戦しています。中国には独自のテーストや特長があり、なかなか難しいマーケットであることがわかります。世界で大ヒットしたタイトルであっても、同じようにヒットするとは限らないのです。

そうした中国であるからこそ、20年近く昔の作品が新作映画と同じように上映され、ヒットするのは快挙です。
ただヒットの理由は単純でありません。スタジオジブリと宮崎駿の中国での根強い人気や、ベルリン映画祭金熊賞、米国アカデミー賞受賞といったブランド力も確かにありました。
しかし配給する中国企業のマーケティングの巧みさが際立っています。主演の千尋役の声優に若手人気女優の周冬雨、ハク役には人気男性歌手ジン・ボーラン(井柏然)を起用することで若い世代の関心を惹きます。中国版主題歌には中国アニメーション映画『大鱼海棠』イメージソングをヒットさせた周深が担当しました。作品を単純に提示するだけでなく、中国の観客にとってどうやれば魅力的に映るかを考えています。

ポスタービジュアルも同様です。こちらも一部で話題になりましたが、新たに描かれた2枚のビジュアルは中国のデザイナー黄海によるオリジナルでした。襖絵に描かれたキャラクターが孤独な千尋を見守る1枚と、水の中の線路を歩いていく千尋の遠景とかなり独自性が発揮されています。
ポスタービジュアルは作品を象徴するものですから、グローバル展開でも厳密にルールが決められることが大半です。オリジナルのビジュアルをローカルに作成することは日本企業でも避けたがるでしょう。
世界ブランドであるスタジオジブリが、これを受け入れたことが驚きです。中国のマーケットの特性を重視した日中の関係者の意図が窺えます。

中国ではエンタテイメントの表現規制が近年増しており、日本アニメやゲームのビジネス環境も以前より厳しくなっています。そのなかで日本作品の公開本数が増えている劇場映画は、日本のアニメ業界にとっては数少ない可能性です。
しかし公開本数が増えたと言っても、大ヒット作は数えるほどしかありません。『千と千尋の神隠し』のヒットには、この分野でいかに成功するのか、好調を持続させるにはどうすればいいかのヒントが多く隠れていそうです。

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