煮物にベルセバを聴かせた日

大根とひき肉と糸こんにゃくの煮物を作っているとき、ふと、ベルセバを聴かせたら優しい味になるのではないかと思った。ベルセバとは、Bell and Sebastianの略で、スコットランドのインディーポップ/ロックバンドだ。わたしは元々家事をするとき音楽を流しがちなのだが、その週はたまたまベルセバブームが来ていた。

味付けも終わり、最後の弱火でコトコト煮込む段階に入った時、わたしはApple Musicで「はじめてのベル アンド セバスチャン」のプレイリストを再生した。ベルセバには良いアルバムがたくさんあるが、この煮物は初めてベルセバを聴くので、やはりこのプレイリストが適切だろう。

煮物は鍋越しにベルセバを聴き始めた。蓋はコトコトと音を立て、曲に乗っていた。味と一緒に、音の洪水が煮物に染みていた。煮物がベルセバを気に入ってくれたようで、わたしは満足だった。そして、煮物の音楽鑑賞を邪魔しないように、キッチンを離れた。

10分後、わたしは火を止め、煮物をお皿に乗せた。少し冷ましてから味見すると、とても優しい味に仕上がっていた。汁まで飲み干してしまいそうなほど美味しかった。大根はやわらかくほくほくで、糸こんにゃくが食感のアクセントになって、肉のうまみもしっかり出ていた。煮物はよっぽどベルセバを気に入ったようだ。というか、もはやベルセバだった。茶色だけの見た目も、なんとなくベルセバのアルバムのジャケットっぽい。

それから、わたしは残りをタッパーに移して冷蔵庫に入れた。冷蔵庫の中で、煮物はスコットランドの冬を思い出していたのだろうか……。

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