#21 Just wishing that I had just something you wore



誰しも、人間一人くらいを飼える経済力があったら人生って素敵じゃないかしら。



人生最大の失恋をした、と思う
少なくともここ5年で一番苦しんだ。

わたしは自分のことを愛しすぎているため、
「わたしはこんなひどいめにあって辛いです」ってことをせかいじゅうに言いふらしたくてたまらないのだ
だから、自分の身に起こった全てのことは、ここで消化するためネタにしていく。

わたしは過去に恋愛関係にあった人間との写真やLINEのやりとりは、基本消さない。インスタの投稿も。全てわたしが生きた証だし、何よりその当時の自分が楽しそうでイキイキしてるんだから、消してやっちゃ可哀想だ
今回は、今までのなかで一番写真を撮ったと思う。


わたしより2個歳下だけど、30センチ以上高い身長、睫毛が長くて綺麗な瞳、エトセトラ。きみを造形する全てが好きだった。
自己肯定感は大して高くなくても、わたしと同じくらいナルシストでロマンチストな男。一緒にいてとても居心地が良かった

わたしの宝物だったのに。

一番愛していた存在が一番憎くなるなんて、こんな悲しいことあるかよ

以下、わたしのTwitterの閉鎖的鍵アカウントで当時吐いていたものの寄せ集め
綺麗にまとめて小説のようにするつもりなんてこれっぽちもなかったんだ
(読みやすいよう自分のためにも3章に目次を分けた)

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Ⅰ. That Joke Isn't Funny Anymore


お互い一人暮らしで、家の距離は2駅分。LINEはほぼ毎日、そして週一で会っていたのに、ある時ぷっつりそれがなくなった。LINEの返信が一日ごとに減ったときから、なんとなくもうダメかもしれないと思った。

「会いたい」じゃなくて「話がしたい」なんて切り出し方はね、それはもう100%よくないことなんだ
関係が終わるのを察した脳は、原因追求のため思考をフル回転させる。最悪な候補として上がったのは以下3つ。
①わたしに飽きた・愛想が尽きた
②他に好きな人ができた
③実はわたしといい仲になる前から本カノ的存在がいた

先月まであんな楽しくデートしてたし①はまずないなーと思った。②だったら一番嫌だな、③のほうがずっとマシだ。どれでもなければいい、けれど絶対どれかにちがいない。

別れを告げにあの子がうちまで来たのは、わたしが夜勤明けの朝9時。きみが久しぶりに家に来るからって、ちょっとウキウキしながら洗濯物を取り込んだりしたわたしを、きっときみは知らないのだわ

夜勤明け、もちろんすっぴん。わたしは寝巻き代わりにoasisのTシャツを着て出迎えた。oasisはわたしたちふたりが大好きなロックバンドだ。oasisのギャラガー兄弟の曲たちと一緒に、わたしたちは数ヶ月間恋愛を楽しんできたといっても過言ではない。

「いいシャツ着てるじゃん」 「だろ」 久しぶりの会話、しばらくはお互いの最近の求職活動の話とかいつも通りのノリでしていたのに。
きみがしっかり正座して向き合って話を切り出そうとするものだから、もうわたしは耳を塞いで逃げ出したくなった

自分のアパートの近くにある行きつけのバーで「運命の女性」を見つけたということ
わたしと会わなかった10日程度でその女性とは着々と距離が縮まり今では半同棲状態になりかけてるということ


わたしの顔も見れず、震えて俯きながら話していたのに、一番聞きたくないところだけしっかり顔上げてわたしの目を見て言いやがった。

「あんな人は初めてなんだ、俺が絶対幸せにしたいって思った。」

おお神よ。どんな奴よりも一緒にいて楽しませられる自信はあるのに、「この人を幸せにしたい」と思ってもらえるような女になるということはどれほど難しいことか
話を聞きながら気が遠くなりそうだった。
泣きたいのはこっちのほうなのに、きみがあまりにも泣きながら話すもんだから
それじゃわたしが悪いことしてるみたいじゃないか

新しいその「運命の人」とやらは、わたしと違ってバリバリ昼職で仕事を楽しんでいて自立していて、何より彼を叱ってくれるようなよくできた「お姉さん」らしい

じゃあわたしとは全然違うわね  
わたしはきみが可愛くて愛おしくてしょうがなかったから、叱ったりなんかせずひたすら甘やかしてた。わたし自身も叱られるのなんか嫌いだし、甘やかされていたいから。

「絶対にちゃんと会って伝えたかった、話せてよかった」
「当たり前だろ、こんなことLINEで済ませてたらおまえんち燃やしに行ってたわ」

わたしより若いきみがいずれ他の人を好きになろうが、運命の人とやらに出会おうが構わないと思っていた。けれどそれは今じゃない。今わたしから離れてはいけなかった。一番離れてはいけない時にきみは運命の人とやらに出会ってしまった。まだ青春の真っ只中なのに。きみはわたしを置いていこうとしている


「俺の21歳を貴方に捧げる」って言ってたのは嘘か?なんて罪深い。きみがくれたのはほんの一瞬の夢でしかなかった。どんなに歯の浮くような台詞でも、美しいきみの口から出る言葉だから何も文句はない。

「(わたし)さんは何も悪くない。勝手すぎて本当にごめんなさい」
「さん付けも敬語もやめて。気持ちが悪い」

目の前で泣いている愚か者に言い放つ。
「先輩と後輩」から恋仲になって、別れる時「後輩」って奴はなんて狡い存在だろう。わたしはまだきみを自分の男だと思っているのに。やめろ、きみだけ勝手に「後輩」に戻ろうとするな


なあ、わたしたちは絶対うまくいってたはずだろ。週一で会って、あんなに楽しく過ごしてたじゃないか
最後にしたデート、吉祥寺のDJイベントで、ふたりでビートルズで踊ったり、オアシスを歌ったりしたじゃないか。その後もうちで、いつも通り…
完璧だったはずなのに。わたしだけが楽しかっただなんて、絶対に言わせない。わたしたちは音楽を愛し、90年代を恋しがる弄れた若者だった。


もうわたしはきみの家に行ってはいけないの?
もうきみはわたしの家には来てくれないの?
きみはもう、わたしのことを××ちゃんと呼んではくれないの?
質問攻めしながらわたしも泣きじゃくった。

「他にも人がいるならいいけれど、もう2人では会えない。きっと、あの人…彼女はそういうの気にしない人だから許してくれるだろうけど、俺はあの人への気持ちを裏切ることは出来ないから」 
わたしを裏切った"誠実"なきみはそんなことを抜かしてた。
「畜生、きみがもっとバンドマンらしく、屑ならよかったのに」 きみとまたベッドの上で触れ合って笑い合えるなら、セフレでもなんでもよかった。今までのわたしだったらありえないくらい情けない考えだ。それでもこの愛しい男がわたしを求めるなら、いくらでも都合のいい女になれる気がした。けれど、最後までいい子でいようとするこの歳下のハンサム野郎は、わたしを都合のいい女にしてくれなかった。

「貴方と過ごしたこの数ヶ月、一緒に聴いた音楽、ぜんぶ素晴らしかった。間違いなく楽しかった。ずっと貴方の色に染められていた」

わたしに何か文句があったなら、いま全部言えばいいと言ったのに。はじめてうちに来た日もこんなに手のひら湿らせて、小さく震えていたね。あの時の夢のような夜とは違って、今は絶望に満ち溢れた朝だけれど。
どの面下げて泣いてやがる。ああ、綺麗な面だな
わたしはこれが大好きだった。

「新しい人を好きになっても、気持ちを切り替えようとしても…それでもoasisを聴いたら、(わたし)ちゃんとの思い出が頭から離れなくて」

そうだろうよ、ざまあみろ。そしてきみはそれでもoasisを聴くことをやめられない。なんてったって世界一のロックバンドだから。人生の教科書のようなバンドだろ。わたしが散々教え込んだ。そのまま死ぬまで苦しんでいろ。きみがこれから聴くマンチェスターの音楽に、わたしは永遠と付き纏うよ

一先ず別れ話は終わった。けれどそう簡単に帰すつもりは無い。

向き合って座って話すのも疲れたし、わたしは自分のベッドに寝転がった。きみも固い床に正座しっぱなしで疲れたろ、座れば?とベッドに誘う。まるで初夜の時のように。あーこのまま最後に無茶苦茶に抱いてくれないかな。まあ無理か。だから、せめてでも。

「最後のお願いだから、抱きしめてくれない?…やっぱ駄目?」
「それで貴方の気が済むのなら。それで貴方が楽になれるならいくらでも」
「はは、なんだそれ。気が済むかなんてわからない、抱きしめてもらわないと。じゃあはやく楽にして」

きみから来るんだ、ベッドに寝転ぶわたしの元に。
困った顔をしてから、きみは優しいから体感5分くらいは、抱きしめてくれた。かつて愛した屑野郎は、こんなとき抱きしめてはくれなかった(大学1年の時の失恋でも最後のハグを強請ったことがある)

いつもこうしてたのに。今は二人とも泣いている。鼻が詰まって、きみの匂いがわからない
だいすきなにおいがわからない
いつもならこのまま首に、耳にキスしてたのに。もうさせてはくれないのね
離してたまるか、きみはわたしの宝物なんだ

なあ、わたしはきみと幸せになるつもりだったんだ
今年の夏は当然のように、きみと何処か知らない小さな街の祭りにでも行こうと思ってたし、きみが大学卒業するときには卒業旅行で英国に連れていくつもりだったんだ。当然のように…

このままきみをマンチェスターに攫ってしまえたらどんなにいいか。

ひとしきり泣き終えて、最後の長いハグは終わった。わたしたちはいつもデートの合流地点でも思い切りハグをしていた。他に人がいても全然キスだってできただろう、相手がきみだったから。

「ああ、そうだ」
わたしは思い出したかのように呟き、両手で愛しい顔をこちらに向かせた。「引っ叩かせろ」 間髪入れず右手で1発。左手でもう1発。両頬を叩いたらちゃんと痛がっていた。いつかの誰かとは大違い。(かつて愛した屑バンドマンにそれをしたらノーダメージだったから)
大事なきみにこんなことしたくはなかったんだけどな。

「俺のこと許さなくていいから、嫌いになっていいから。自分のことは好きでいてね」
「は?わたしは自分のこと大好きだが…」
きみの新しい女が、自立したバリキャリ女できみを叱ってくれる人だと聞いたところで、わたしはそれで引け目を感じたりはしない。新しい女を羨ましがったりなどしない。わたしはこのままで最高だからだ


「リアムにキスしな」
わたしが着てるoasisTシャツは、下の方に後期メンバー4人の顔が描かれている。一番大きく描かれているフロントマンのリアム・ギャラガー、その顔にキスしろと指差した。わたしたち2人が生涯愛するロックヒーロー・リアム。
目の前の愛しい男はまた困ったような顔をしてから、わたしの臍のあたりにあるリアムの顔にキスをした。
その部分をすかさず自分の口までたくしあげ、リアムの顔に上書きするようにわたしもキスをしてやった。
「これくらいいいだろ」


わたしを消すな、わたしを忘れるな
LINEもインスタもわたしとの記憶を消したりなんかしないでくれと言った。わたしは絶対に消せないし、冒頭で述べた通り、そういう過去の交際記録は元より残しておく性格なんだ。だからきみだけわたしを都合よく消すなんて許さない。ふとしたときに振り返って、わたしたち2人の蜜月がどれだけ輝かしいものだったか思い出して苦しむべきだ

ひとしきり話したいことを話して、泣いて、それでもなかなかきみは帰らない。何度もわたしの部屋を見渡して別れを惜しんでいる。こんな素敵な部屋を持つ女、そうそういないだろ。壁一面に貼られたロックスターたちはこんな時もわたしたちを見守っていた。

「今日ここを出たら、何聴いて帰ればいいと思う?」
「そんなん自分で決めなよ。…じゃあ"She's Electric"」
適当にoasisの楽曲を挙げた。

最後、玄関で靴を履く前にうちのキッチンも見渡して一言。
「さようなら、色々とありがとう。手料理も美味しかった」
わたしは自炊なんて大嫌いだったんだ。けどきみがね、嬉しそうにがっついておかわりするところを見てから、キッチンに立つのも悪くないと思えた。もう振る舞えない。きみの作る料理も味わえないままわたしたちの関係は今終わる。
玄関の扉には、わたしたちが初めてデートした時の写真が貼られていて、相も変わらず輝いていた
「東京タワー、楽しかったね」
「ああ、行ってよかった」


いつもならこうしてきみがうちを出る時は海外ドラマのように、ハグとキスを欠かさなかったのに、もうできない。
綺麗な顔をした愛しい男は、可哀想なわたしを置いて出ていく。

扉が閉まる時、最後までわたしの目を見据えるきみに向かって、無言で中指を立てた。

こんな適したタイミングで思い切り中指を立てれた自分にちょっと感動した

誰もいない部屋に戻る。
グズグズに泣き腫らしたわたしの顔は当然、醜かった。鏡に向かって「ブサイク…」とつぶやいた。
こんなみっともない顔を、わたしは2時間も愛しい男の前で晒していたのか。


Ⅱ.These Things Take Time

わたしが最も愛する80年代のバンド「The Smiths」について、話したことがあった
ザ・スミスの核を為す2人「モリッシー」と「ジョニー・マー」の関係をどこまできみに熱く語ったか忘れてしまったけれど、わたしがモリッシーという詩人に憧れいつかモリッシーのようになりたいと言ったのをきみは覚えているだろうか
社会に馴染めず引きこもり、鬱屈した詩を綴って暮らす青年モリッシーのもとに、ギターを抱えてやってきた美少年ジョニー・マー。ジョニーがあの根暗青年を連れ出してくれたから、伝説のバンド「The Smiths」は生まれたんだ。モリッシーはジョニーに恋をしていた。他にもメンバーはいたが、スミスとはこの2人のことだ。

「わたしだけのジョニー・マーになってくれない?」
そう口説くつもりだったんだ。きみにモリッシー詩集を読ませながら、どさくさに紛れてくさいセリフを吐こうとした。
「連れ出す側」の人間であるわたしをどうにかして連れ出してくれよ。あの時のジョニーのように若くて、美しいギタリストであるきみならそれができる。
確かにわたしは1人でどこへでも行けるけど、ひとりがいいってわけじゃない。いつだって連れ出してくれる誰かを必要としている

永遠なんて望まなかったけど、もう少しだけ夢を見せて欲しかったなあ… せめてスミスの活動期間と同じくらい、きみと一緒にいたかったものだ


別れを告げられた日、きみが出ていってからというものその日はそれから酷い有様だった。文字通り泣いて過ごした。起きていると涙が溢れて止まらないから、変な時間に気絶したように眠ったりした。
夜になった、何も口にしたくない。三大欲求なんて一気に干からびた。
こんなにも死にそうになっているのに日常は続いていく。くそったれ。


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↑大好きな百合漫画「オトメの帝国」における大失恋シーン。1週間くらい、まったくこれと同じになった。
このまま寝ず、食わずでうっかり死んでやろうかしら。
ぜんぶきみのせいよ
死にたくなんてないのに、わたしは生きる力に満ち溢れている人間のはずなのに、そんなことばかり頭の中でぐるぐるしていて気持ち悪い。
それでもお菓子は口にしてしまったし、1時間は寝てしまった。なんて意志が弱い


電車になんか乗りたくない
近づいてくる人間みんな刺し殺してやりたい
それでもわたしはスーツを着て、いつも通り出勤しなければいけなかった   なんて残酷な話
こんなにも暴力を振るいたくて、人を殺してみたくてたまらないのに、何も出来ない。意気地がない。わたしはただの頼りない小娘


そうだ、消えちまおう。自分の貯金だけが全てだ。SNS断ちして、だぁれもわたしを知らない、何処かへ逃げるのだ。今なら野垂れ死んだって構わない…

ここが憧れの英国であったら、の話だ。
だから絶対に死ねない
魂が腐ってもこの国でなんか死んでやるもんか
だから仕方なく生きるしかない


自分がありふれた失恋ソングの歌詞の一部になってしまったことがこんなにも惨め。ただでさえカラオケでの十八番である悲しい女達の歌、今ならきっと1番上手く歌えるに違いない。


仕事に疲れ好きな人にも会えず泣いてる可哀想なわたしに別れ話を切り出すことを、脳内でシュミレーションして「暴れられたらどうしよう」とか思わなかったわけ?と聞いたら
「それはちょっと、心配してた」と。
してたんかい。そりゃ暴れてやりたいさ、台所から包丁を持ち出してきたい。今離れるなんて許さない、そんな酷いことを言うきみを思うがままに傷つけてやりたい。
けどそんなみっともないことをしたらもっときみの心は離れてしまうことくらいわたしは分かっている。でももし本当にあの時わたしが暴れてたら、きみはどうしてた?
ずっとずっとわたしより大きな体だ、力だってあるだろ。捩じ伏せてたか?暴れるわたしを。
だったら暴れてやればよかった。きみから触れてくれるのだ、こんなに嬉しいことはない。
けれど悲しいことに、実際は「いやだ、いやだ」としおらしく泣くことしかできなかったよ


いつだったか、貯金の話をした。わたしは「いつでも遠くに逃げられるように」そこそこの口座残高を保って生活している。
「そのお金持って××ちゃんはいつかどこかに消えちゃうんでしょ?」
何言ってるんだ、おまえも着いてくるんだよ
だから、そうだな…最低でも10万は貯めておきなさい
と、所持金900円の奴に言った

3月は好きだ。去年は英国にいた。今年は行けなかったけれど、きみがいたから良しとした。


いつもの恋愛なら、とっとと切り替えて次に行ってた。大学3年のときなんて社会人の恋人と別れて1週間もせずにイケオジとデートしに行ったし。過去の人たちに全く未練なんてないのに。わたしは恋愛関係から友人関係に戻る天才であったはずなのに。
こんなの初めて。次を探すなんてしばらく無理。
きみはわたし以上の人を見つけたみたいだけど、わたしはきみ以上の男を見つけるなんて簡単じゃないのよ

ぽっかり開いた穴を埋めてくれる存在は、いなくもない。遊んでくれる人たちはいっぱいいるし、きっとセックスだってしたけりゃすぐ出来てしまうんだ。
けどきみじゃないと嫌だから、わたしは何も動けない。クズになれない。なんてことだ わたしという奴は本当は誠実な人間だったんだ


Ⅲ. Stop Me If You Think You've Heard This One Before


ここに思い出話なんてそんな書くつもりなかった。
恨みつらみだけを書くつもりだったのに。
「彼とこんな素敵な時間を過ごしたの」ってことも、わたしって奴は言いふらしたくてたまらない。

オアシスとかスミスとか、世界一愛している音楽たちに包まれて、愛する人間と一緒に寝るのがどれほど幸福だったか
それはきっときみにも分かるだろ
昭和感じるラブホテルの浴室でoasisの「All Around The World」を流しながら2人で長々と湯船に浸かっているとき、本当にそのまま浴槽ごと英国まで飛んでいけそうな気すらしたのは相手がきみだったからだ
湯上りに「Wonderwall」を2人で歌ったのも忘れられない。

RadioheadやJoy Divisionを初めとした暗い音楽を流しながらセックスするのに憧れていたけど、どうもわたしたちには合わなかった。ずっと楽しくて笑ってたから。

長い時間かけて風呂に入ってセックスして、夜道をゆっくり歩いてコンビニに行って爆買いして、いっぱい食べて、また長い時間風呂に入って、昼まで寝て、またセックスする。きみと一緒にいた時わたしはすごく「人間」をしていた。大好きなライブもフェスも海外旅行もできない、労働だけが普通にあるくそったれた今の世界で、わたしは間違いなくきみによって生かされていた

きみの白い背中に赤い痕を散らして「花見」をしたのも、わたしだけの特別な景色だ。あんな絶景は二度とない、きみが戻ってこない限りは。ああ恨めしい

わたしという無力な小娘を踏台にして男っぷりを上げていくきみのなんて憎らしいこと


去年秋頃、リアム・ギャラガーの伝記映画が公開された。「自分を避ける兄・ノエルに偶然会ったらどうする?」というインタビュアーからの問いにリアムは
「そうだな、次あいつに会ったらツルハシ持って襲い掛かるか、キスするかも」
と言っていた。この一文にはとてつもない愛憎が詰まっている。
今のわたしは、このリアムが言っていたことがようく理解できるよ。
青春の真っ只中わたしを置いていったきみが憎くて、痛めつけたくてたまらないけど、会ったらまたキスをしてしまいそう。
きみがまたわたしの体でも求めて帰って来ようものなら、喜んで受け入れてしまうかもしれない。けれど、そう思ってるうちは、きみは絶対やって来ない。その「運命の人」とやらに対する誠実さはあと数ヶ月は続くんだろうよ



今のきみの中でわたしの存在が「忌まわしい記憶」や「悪夢」となっていたら、それは悲しい話だ
だが、きみをみっともなく求めるわたしの姿が脳裏から離れなくて今のきみが苦しんでいるなら、それはいいことなんだよ

わたしは、若くて美しいきみの輝かしい人生に付きまとう汚れ
蜜月を「なかったこと」にされるくらいなら、汚れになったほうがずっといいに決まってる。

あれから数週間経った。Twitterやインスタではいつも通りのわたしのまま。きみがわたしのインスタストーリーを見てるのもわかる。


「案外この人大丈夫そうだな」なんて思ってみろ。ぶっ殺してやるからな




もうこれを書いている頃には、きみはとうに夢にすら出てこなくなってしまったよ

情けない話だが、運命の人とやらにきみが捨てられ、みっともなくわたしの元へ戻ってくることを未だに願っている

だいぶ早くドン底から回復はした方だ。こんな酷い状態でも毎日クソみたいな夜勤をこなし、転職活動もしっかりやった。引越し準備もこれから始まる。
宝物がいなかった1月の状態に戻るだけだ。7月から新しい仕事に、新しい部屋。強くなって心機一転だ


けれど、未練タラタラのわたしがひたすら思うことは、上のタイトル通り。


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2人してリアム・ギャラガーに口付けした、あのTシャツはまだ洗えていない。



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