見出し画像

【体験談】田舎者が初めての渋谷でパニックになった話 ~スマホがない、勇気もない~ 3話目“iPhoneのバッテリー交換をしたい”(全4話)

私は人混みや都会が苦手。コミュ障でビビりな性格です。


③火災発生!


巨大パルコを“外周”しよう、と歩き出した直後だった。

消防車のサイレンがけたたましく鳴り響いた。

周囲の人はまばらであったが、すぐ近くでけたたましく鳴り響くサイレンの音。道行く人は立ち止まり、火元を探そうと周囲を見渡す。

私もその大音量に驚き、キョロキョロと周囲を見回す。
すると、小さな赤色の軽バンがパルコ横の小道へと入っていく様子が見えた。車体は小さいながらも赤色灯がまぶしく光っている。

─サイレンはあの車から鳴っているのか。
近くの飲食店で仕込み中にボヤでも出たか? いや火災報知器の誤作動? 最近私の住むマンションでも火災報知器の点検があったばかりだし、点検作業をしている可能性もあるな。
はたまた、ここは大都会・渋谷。週末だもんな、少々ヤンチャな人たちがオイタでもしたか。(失礼)

若気の至りってあるよな、とサイレンを鳴らし小道へと入っていく赤い軽バンを横目に、パルコの外周散歩を続けようとした。

しかし今度は各方面から大型の消防車が一台、また一台と集結してきた。


(1)それぞれの消防車がかき鳴らすサイレン。周囲は騒然。(韻を踏むつもりはなかった全然)

今度は救急車も来ている。
目視で確認できたのは大型消防車が3台と、救急車が1台。

さすがにこの状況では只事ではない。

─大規模火災かガス爆発か? いずれにしろ、早くこの場を離れなくては。

周囲の人も同じことを思っただろう。早足にその場を離れていく人たちが見えた。恋人同士だろうか、若い男女がお互いの顔を見合わせ、繋いでいた手にさらに力を込め、身を寄せ合って駆けて行った。

この光景はパニック映画でよく見るシーンだ。 


(2)軽いパニックに陥る

─そういえば、たしかに少しガスのにおいがするような。
もしかしてガス漏れ?

コンマ何秒かの間に脳はフル回転。私も周囲の人につられて、思わず駆け出した。
ヤバイヤバイ! ここから早く離れなくては! 早く逃げなくては! このガス爆発に巻き込まれてしまう!
と30mほど離れたところで、私は立ち止まった。

─ちょっと待って。逃げるって、どこへ?

私は今、自分のいる場所すらよくわかっていない。
アップルストアと目の前の巨大パルコの位置関係しか分からない。渋谷駅がどの方角にあるかも曖昧だ。

ここで闇雲に走り出したら、それこそ大都会・渋谷で本格的な大人の迷子になってしまう。きっと、もう永遠に現代社会に帰ってくることはないだろう。(なんで)

逃げた先で、運よく交番に駆け込んだとしても、こんな大規模災害が起きているんだ。お巡りさんは大忙しだろう。こんな田舎者が、忙しいお巡りさんの仕事の負担になってはいけない・・・!

そこで私は腹を決めた。

私はしがない田舎者。もうこのガス爆発に巻き込まれてもいい。むしろ、たまたま訪れた旅先で、ガス爆発に合うなんて。これが私の運命だったんだ。運命を受け入れなさい、私よ。

ここ(渋谷)が、私の最期の地だ。


(3)コンビニがない

私はこの場を離れることを諦めた。

人は覚悟を決めると、冷静になれる。(名言風)

ふと思い出したのは、アップルストアの店員さんが教えてくれた「坂の上のエクセルシオール」だった。
ジブリ作品のタイトルのようだが、今の私にとっては、この絶望の中での唯一の希望だ。

でも仮にエクセルシオールのカフェに入って、コーヒーを一杯注文したところで、約1時間あまり、何をして過ごせばよいのか? 
いつもなら、スマホをだらだらと見ていれば、1時間なんてあっという間に過ぎる。 

また、本や雑誌、新聞でもゲーム機でも、なにか暇をつぶせるものがあれば、わりとあっという間に暇をつぶすことはできる。

しかし今の自分が持っているものは、手のひらサイズの小さなショルダーバッグに入った財布・ハンカチ・ティッシュのみ。

1時間ひたすら、エクセルシオールの壁や虚空を見つめたり、瞑想をしたりしてジッと時が過ぎるのを待つ? 私の性格的に絶対無理だ。 辛すぎて、きっと途中でおかしくなるか、勢いでエクセルシオールを飛び出すだろう。どうしよう。

そこで思いついた。
そうだ、コンビニに行こう!(そうだ、京都に行こう、のリズムで)

空に向かって、顔を斜め45度に持ち上げた。見上げた空は青かった。

我ながら名案じゃないか。コンビニに行けば雑誌や本が売っている。運が良ければ、少し立ち読みができる。立ち読みができれば、少しでも時間がつぶせる。

それに、ここは大都会・東京だ。大都会には数メートルおきにコンビニがあると聞いている。 あわよくば、噂に聞く“ナチュラルローソン”とやらのおしゃれなコンビニに行ってみたいな。 都会らしい無添加のドライフルーツや、洗練されたおしゃれ雑貨なんかが売っているのだろう? いや~さすが大都会。(全部妄想)

私はコンビニ(あわよくばナチュラルローソン)を探しに行くことにした。
消防隊員の人の邪魔にならないように。でも、下手に知らない道に入らないように。でも、コンビニを見落とさないように。

久しぶりに脳みそをフル回転させながら、周りをキョロキョロと見まわして、自分とパルコの位置関係を常に確認しながら慎重に歩いた。

しかし、なかなかコンビニが見当たらない。

“探しているときは見つからない” 

─これは人生において、だれもが経験するランキングの堂々一位の事象であると思う。


(4)ボールペンを1本買った

パルコの外周を歩いていると、デイリーヤマザキを発見した。

しかし、私の地元にはデイリーヤマザキが少なく、あまり馴染みがないコンビニである。家から一番近いコンビニはセブンイレブンだし、ファミリーマートやローソンならよく利用している。そのため、馴染みのないデイリーヤマザキは一度通り過ぎた。

このあとに第一希望であるナチュラルローソンがあったら、そちらに入りたいのだ。

しかし、パルコの外周を1周しても、ナチュラルローソンはおろか、他のコンビニも見つからなかった。仕方がない、デイリーヤマザキに行こう。どこでもいいんだ、本か雑誌が買えれば。

そこで、パルコ近くのデイリーヤマザキに入店した。雑誌コーナーを探す。たいてい路面に面した場所、出入口の近くにあるはずだ。しかし、店内を隅々まで見たが、雑誌コーナーは無かった。本や新聞もない。

そう、ここは、雑誌コーナーがないコンビニだった。

なぜだ(笑) 地元には雑誌コーナーがないコンビニなんてコンビニじゃない、というくらいマストな売り場なのに。

まさかの事態に、私は店内を歩き回りながら、なにかカフェで時間がつぶせる商品はないかを考えていた。
都会のコンビニは狭い。人がすれ違うのも一苦労するような店内。にもかかわらず、売り場を3周くらい歩き回り、商品棚を吟味。暇つぶしの娯楽になりそうなものは一切置いてなかった。

こんなに滞在したにもかかわらず、なにも買わずにコンビニを出るのはバツが悪かったので、なにか一つ商品を買って出よう。

私は唯一、食べ物以外の商品が置いてある日用品コーナーで立ち止まり、商品を端から端まで1つ1つ確認した。

仕方なく、ボールペンを買った。

理由は、ちょうど家で使っている油性ボールペンのインクが無くなっていたことを思い出したからだ。どうせなら、今日だけじゃなく、今後も使い続けられる実用品のほうが経済的にも環境的にも良いはずだ。

お会計は、いつもならモバイルスイカを使って一瞬で済むのだが、今日は手元にスマホがないので、ニコニコ現金払いにした。最近は、地元のスーパーなどで、食料をまとめ買いするときはクレジットカードを使うことも多い。

田舎者の私ですら、現金で支払う機会が減っているので、大都会の住民ならばなおさら現金を持ち歩いている人は少ないだろう。そのため、レジ前で財布から小銭をジャラジャラと探す動作は、すごくアナログで田舎者丸出しの人間に見られているのではないかと、ひとり恥ずかしくなった。


(5)坂の上のエクセルシオール

デイリーヤマザキから出て、アップルストアの店員さんが教えてくれた坂の上のエクセルシオールに向かう。

途中、渋谷の細い道に、各方面から集まってきた消防車がミチミチに詰まっている様子を見た。
見渡す限り、赤い消防車。狭い道路に、消防車がずらーっと列をなしている。確実に10台以上は集まって来ている。大型の消防車も、軽バンタイプの消防車も、赤色灯をぐるっぐるに回して、サイレンをかき鳴らしている異様な光景だった。

無事に坂の上のエクセルシオールに到着した。しかし、お店の前の道も、もちろん消防車がミチミチに並んでいる。

道行く人は、やはり心配そうに振り返り、その様子を逐一確認している。

しかし私はすでに腹を決めた身。
消防車の横を歩きながらも、さほどうろたえずにエクセルシオールへ入店した。

坂の上のエクセルシオールはガラス張りで、道路の状況がよく見えた。店内の席は8割ほど埋まっていたが、店員も客も、外の消防車の大軍を心配そうに眺めていた。

ときおり、消防車のサイレンが鳴ったり止まったりするので、そのたびに私も思わず振り返ったり、心配そうな表情をしたりした。(内心腹は決まっていたが)

今回、私が注文したのはホットココア。
いつもならホットカフェラテにするのだが、今は糖分を摂取して、少しでも心を落ち着かせたかった。

無事にホットココアをニコニコ現金払いで購入し、席についた。
周りを見渡すと、ノートパソコンの小さなキーボードを元気に叩いているサラリーマン、友達同士で会話をする女子大生。朝ごはんを食べにきた専門学生の集団。もちろん一人で来ている人もいる。

休日の朝だというのに、都会のカフェにはこんなに若い人が集うのか。田舎の朝はファミレスもカフェも公園も老人天国なのに。(老人に天国という言葉はなんかリアル)

席について5分間はココアを飲みながら人間観察をした。

人間観察に飽きたので、私はカバンから、万が一の事態のために準備しておいた、高速バスの電子乗車券をプリントアウト(A4用紙)を取り出した。
万が一、バッテリー交換の際にスマホのデータが消去されても、帰りの高速バスに乗れて、自宅に帰ることができればなんとかなると思っていたのだ。

高速バスの電子乗車券には、バスターミナルまでの行き方や出発時間が書いてある。
そのため、iPhoneを受け取ったあとの経路を脳内でシミュレーションした。
また、ちょうど手元には先ほど購入した油性ボールペンがある。油性ボールペンのパッケージを開封し、そのボールペンでおおまかな移動時間を書き込んだりした。

その流れで、残り50分近くを、私はこの電子乗車券のプリントアウトの裏面になにかを書いて、時間をつぶすことにした。

お察しの通り、残りの時間、私はこの一連の体験をA4用紙の裏面にひたすら書き連ねていた。

久しぶりに大量の文字を書いたので、漢字もパッと思い出せなかったり、後半には指や腕の疲れを感じていた。ひたすら文字を書き続けた。

現在時刻 11:20


さあ、アップルストアにiPhoneを迎えに行こう。


④へ続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?