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ワイ将、ベイスターズを率いてほしふりの大会を制覇する。〜開幕前夜〜

※この小説はゲーム実況風小説です。
実際の団体等には何の関係もありません。

使用ソフト:GBソフト「ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド」

▼今回は縛り条件の説明とクッソどうでもいい導入部分の小説です。
プレイ本編をご覧になりたい方は次回「開幕編」以降をご覧下さい。

〜開幕前夜〜

20XX年、9月某日。
本拠地、横浜スタジアムで迎えた最終戦にベイスターズは敗北。
今年も優勝を逃してしまった。 
対する読売ジャイアンツはこの勝利をもってリーグ優勝を決めた。
舞い上がるオレンジ色の選手達を、青色のユニフォームの選手たちは何とも言えない表情で眺めていた。

泣いている選手もいる。
呆然としている選手もいる。
悔しそうに歯噛みしている選手もいる。

だが、皆、その胸に内包される闘志を枯らしてはいなかった。
そういう姿勢が表情から感じられた。
そのメンタリティこそがプロたる所以なのである。 
ファンはその姿を目にし、
共に涙を流し、そして共にまた戦う事を胸に誓う。
しかし、だ。
全ての選手が、プロの世界にしがみ付いていける訳ではないように、
全てのファンが熱い意思を持ち続けられる訳ではない。

この物語は、ベイスターズに全てをかけ、
かけ過ぎた故に燃え尽きてしまった男の、
大切にしていた「何か」を思い出すまでの物語である。 

「なんでや……なんでベイスターズが優勝できないんや……おかしい、こんなことは許されない。」
小汚い居酒屋の長テーブルの隅。
青と白の縦縞ユニフォームを纏った、これまた小汚い男は虚しく呟いた。
「仕方ないんだ!まだCSもあるし来年だってあるんだ!!」
同じく青白のユニフォームを着た元気そうな若者は、その小汚い男を慰めるように、また自身に言い聞かせるように酒に任せて喚くように返した。
「CSがなんや!!どうせ阪神に勝てへんやないか!!ワイは優勝が見たいんや!!日本一が見たいんや!!ベイスターズが優勝するところが見たかったんや!!!」
小汚い男はさらに大きい声で被せるように喚く。
叫んだ喉を潤すように、お世辞にも身体に良いとは言えないであろう安酒が入ったジョッキを一息に呷った。
「酒や!店員!!酒がないで!!」
「もう飲み過ぎなんだ。」
若者が小汚い男を止めるが、小汚い男は構うものかと店員に絡む。
あー、はいはい。
とでも遇らいたげに店員は目線だけで返事をした。
これだけ店内で喚いて叫んでいても、誰も何も言わないし、関心もない。
この光景こそが、この小汚い男が住む「ドヤ街」に近い日常の光景である。
皆、一様に声を荒げているが、声の向く先はてんでバラバラだ。
だから、一人で騒いでいても誰も見向きもしない。
「もう、僕は帰るんだ……。」
若者は呆れたのか虚しなったのか、そう呟いた。
「なんや、つまらん奴やで……」
小汚い男は最早、若者の方など見ずに、テーブルに突っ伏したまま呻く。
呻いたまま、寝入った。 

「ンゴッ!!」
硬いコンクリートの床が、肩に冷たく当たっている事に気付いた時、
小汚い男は目を覚ました。
どうやら寝入ってしまった居酒屋からつまみ出されてそのまま地面で寝ていたらしい。
その証拠に、眼前には先程まで飲んでいた居酒屋がシャッターを閉めた状態で小汚い男を見下ろしている。
「余韻もクソないで……ホンマに。」
小汚い男はヨロヨロと立ち上がり、ふらつきながら歩き出した。
小汚い男が帰るべき住処は、居酒屋からほんの少しの所だ。
繁華街から少しだけ離れた、「横浜スタジアムに近いから」という理由だけで選んだ、これまた小汚いアパートである。
震える手で何とか鍵を取り出す。
付けているキーホルダーにプリントされた「久保康友」が悲しく笑っていた。
どうにか開けて、部屋の中に入る。
小汚い男の部屋の中は、「小汚い」では済まされない程に汚く荒れていた。
玄関には収集日に間に合わなかったゴミ袋が山積みになり、台所の流しには洗い物が折り重なっている。
小汚い男にとってみれば、そんな不衛生な部屋も日常の一つに過ぎない。
玄関のゴミ袋をひょいと跨ぐと台所の流しには目もくれずに部屋の中心にある万年床に転がる。
応援ユニフォームから着替えもせず、ベイスターズのキャップも被ったまま、意識を少しずつ泥底に沈めていった。

あぁ、辛い。

小汚い男はそれだけを思っていた。

代わり映えのない鬱屈とした日常。
行きたいとは言えない職場とこの汚い家を往復するだけの毎日。

その日々の隙間にベイスターズを応援する事のみが、小汚い男に残された最後の光であった。

しかし、その応援も今年はこれまでである。
その焦燥感たるや。

小汚い男の精神力は限界に来ているのかもしれなかった。
ある界隈などでは「好き過ぎて病む」という言葉があるが、
この心理状態はいささか行き過ぎていると言えるだろう。

「あぁ、辛い。辛すぎるで。
何で勝てへんねん。
ベイスターズは頑張ったやないか。
幾度も困難を乗り切ったやないか。
ボロボロでも戦ったやないか。
なんで報われないんや。
なんで優勝できないんや。」

小汚い男は、うだつの上がらない先の見えない人生の報われなさと、ベイスターズの現状を重ねている節があった。
あまり肯定的な見方はされないであろう感覚である。

「辛い。
あまりにも辛すぎるで……。
こんな気持ちになってしまうなら、いっそ。
もう。」

小汚い男の中には身勝手な感情が渦巻いていた。

「もう野球なんてしらん……
こんなに辛く、虚しくなるならベイスターズなんて知らん。
こんな感情になってしまうなら、
ベイスターズを嫌いになってしまうような気持ちになってしまうなら、

もう、野球なんて、
野球なんて誰も知らない場所へ行って、
静かに、穏やかに生きていきたいで……。」

小汚い男は独り、万年床の上で呟いた。
そして、眠りにつく。
明日にはつまらない現実が、否が応でもやって来る。ベイスターズ抜きで。
小汚い男は認めたくなかったが、時計の針は誰にも止められない。
小汚い男は無抵抗に、浅い眠りにつく。

はずだった。

ーーわたわたーー

ーー見つけたーー

ーー新しい可能性ーー

ーー新しい物語ーー

ーー新しいマスターをーー

君のその願い。
叶えてあげるよ。

「ファッッッ!!!???
なんや!!??
何事や!!??」

光。だ。

まばゆい光。
目を開けていられないくらいのまばゆい光が小汚い男の目を眩ませていた。

「……いったいなんやねん。」
光の出所を薄目で探す。
すぐに見つかった。
洗物が溜まった台所の流しのすぐ下。
だらし無く半開きになった戸棚の隙間から光が漏れている。
この戸棚には賞味期限切れのインスタント食品くらいしか入っていない。
この光の正体は何か。
「まさか」
まさか火事でも起こしたか、と。
小汚い男は飛び起き、半開きに戸棚に手をかける。

かけようとした。

かけようとしたその瞬間。

「ーーファッッッ!!!???」

戸棚が勢いよく開く、そして。

「わたわた。君が新しいマスターだね。わた。」

「な、なんやこの青い猿ゥーーーー!!!」

なんとも形容しがたい、青色の体毛をなびかせた獣が戸棚から飛び出てきた。
心なしか、この獣の体色はベイスターズカラーである。

「猿じゃないよ。わたわた。」

青い猿は文字通り手足を『わたわた』させて遺憾の意を表しているようだ。

「僕はわたぼうって言うんだ。わた。」
「自分で『坊』ってつけるなや」

では、わたぼうの本名は一体何なのか、
という疑問は置いておいて、
わたぼうは言葉を続けた。

「君の願いを叶えに来たんだよ。
さあ、一緒にタイジュの国に来て、ほしふりの大会で優勝するんだ。わたわた。」

「?????」

何から何まで理解できなかった。
ただ一つ分かるのは「願いが叶う」的な誘いに安易に乗ると、総じてロクなことにはならないという事だ。
奇跡も、魔法も、ないんだよ。

「あー待て待て、猿ゥ。ワイはどこにも行かへんで。
大体、なんや?あー、『腰振り』の大会?
ワイはそんないかがわしいモノに出る趣味はないで。
見る方は興味ないでもないけど。」

わたぼうは、とてつもなく複雑そうなゴミを見るような目と顔をした後、

「願い事が叶わなくても良いの?」

とだけ意味ありげに問うた。

「いや、だから」

言い終える前にわたぼうは、小汚い男の着るユニフォームの袖を掴み、

「ほしふりの大会だよ?さあ、一緒に冒険に出かけようよ。」

強引に引っ張った。

「オイオイオイオイ、何すんねん、そんな狭い所ワイは入れへんで!」

そのまま、自身が飛び出してきた戸棚に小汚い男ごと入り込もうとする。
当然、小汚い男は戸棚の中には入れる訳がない。

「あ痛たたたたたた!!!あかんあかんあかんあかんあかん!!!!!無理したらあかんって!!!!
戸棚もワイも壊れるゥーーーーー!!!!」

お構い無しに引っ張るわたぼう。
そして、

「ァァァァァァァァ痛い痛い痛い痛いぃぃぃ取れてまう取れてまうゥゥゥーーーーーーー」


眩い光が、小汚い男を包んだ。

さあ、冒険を始めよう。
君の旅の扉は開かれた。


ーーーどん。
と、鈍い衝撃が男の尻を襲った。

「ッアーーー!!ケツがァァァァァァァァ!!!!」

「なんじゃ、やかましいのう。」
落下の衝撃に見舞われた臀部を摩るのに夢中な男は、
目の前にいる、これまた小汚いジジイにしばらく気付かなかった。

そんな小汚い男を半ば呆れた様子で一瞥するも、ジジイは気を取り直して、


と、小汚い男に話しかけた。

「なんやジジイ!?ここどこや!?あの猿はどこや!?」

小汚い男は半狂乱である。
周囲は暗く、木の根のようなもので壁や床の空間が埋め尽くされている。
自身が尻に敷いている台座のみが人工物の呼べそうな唯一の物体で、小汚い男が生きてきた世界とはまさに別世界の空間と呼べる場所だった。

「ジジイとはなんじゃ。ワシは『モンスターじいさん』、皆からは親しみを込めて『モンじい』と呼ばれておるよ。」

「あんまり『ジジイ』と大差ないやんけ。」

言いながら小汚い男は、ようやく台座から降りて、
辺りを見回しながらモンじいの前に立った。

モンじい「結構辛辣じゃのう、お主。」

***「そんで『ももんじい』、ここはどこやねん。」

モンじい「モンじい、じゃ。失礼な奴じゃのう。」

***「タイジュ……???何県や???田園都市線???」

モンじい「ピンと来てないようじゃな。こっちに来なさされ。」

モンじいに促され、その背を追う。

***「おいおい、どこ行くねん。最寄駅どこや。タクシー乗り場は?というかココは横浜市なんか?市営地下鉄は?」

薄暗い周囲は歩を進める度に光が開け、
やがて、

目の前には、
というより目の前どころか、二つの目にも入りきらないほど、
大きな大きな「大樹」が聳えていた。
見上げれば見上げるほど幹は大きく太陽に手が届きそうなほど青々と伸びやかで、この樹が未だ成長期である事を窺わせた。
腕を広げた枝葉も、その一本一本が雲のように大きく、それぞれが「大樹」と名乗っても遜色の無いサイズだ。
その枝を辿ってよくよく見てみると、小汚い男が今立っているこの場所さえも、大樹の一部だということが理解出来た。
小汚い男は息を呑んだ。

***「……横浜市で無いことは確かやな。」

モンじい「さ、ついて来るんじゃ。王様に挨拶せねばな。」

モンじいはそう言うと目の前の階段を登って行く。
その階段さえも大樹の幹を切り出して作っている事に気付き、小汚い男は絶句した。
とにかく、ここは横浜市では無いようだし、今は「ももんじい」に着いて行くしかないようだ。
切り出した幹の階段を一段一段踏み上がるにつれ、モンじい以外の人影もチラつく。
本当に「樹」の中に人が住み、しっかりと生活があるようだ。

そして驚くほど皆、気さくに話しかけてくる。
しかし、その服装も容姿も、横浜はおろか日本様式とは遠くかけ離れたものだった。
少なくとも横浜市内では鎧を着込んだ男に話しかけられることは無い。多分。

***「あー……仮装大会?」

モンじい「お前さんの格好もなかなか珍妙じゃぞ」

横浜市民の正装はベイスターズのユニフォームであると義務教育を受けた小汚い男には、モンじいが何を言っているかが理解できなかった。
小汚い男が着ているユニフォームとキャップは、彼の普段着である。
(勿論、県外に赴く際はビジターユニフォームに着替えるのだ。)

群衆から受けた言葉の一筋から、モンじいに流されるままに置いてきぼりにしていた疑問が復活した。

***「せや!!あの猿どこ行きよった!!??しもふりの大会ってなんや!?美味そうやな???ていうか何でワイ連れてきたんや!!??はよ帰してくれ!明日はスポーツ新聞買い込んでCSの予想せなあかんねん。」

モンじい「けたたましいやっちゃな、本当に。お前さんを連れてきたのは猿ではなく、わたぼうじゃ。このタイジュの精霊じゃよ。お前さんは選ばれたんじゃ『モンスターマスター』に。」

得体の知れない場所に得体の知れない生き物に連れてこられ、得体の知れない催し物に参加させられそうになっている。
伊藤カイジもビックリな展開に巻き込まれたことだけは確かなようだ。
ここは生き残るために、無い知恵を絞って状況を理解しなければ。
負ければ誰かの養分だ。
まず何と戦っているのか、だが。
小汚い男は、悪いアルコールで蕩けた脳味噌をフル回転させた結果。

*「うん。分からん。」

分からなかった。

「何をごちゃごちゃ言っておるのだ。さあここじゃ、ここがお城じゃ。」

分からないことだらけの上に、今度は「王様」に会えと来たもんだ。

***「会ってどないすんねん。」

モンじい「後のことは中の大臣か王様に聞けば良い。」

国や地域は違えど行政のたらい回し体質は変わらないようである。

城の中に押し込められ、狼狽して

いる間もなく言われていたように「大臣」がお目見えのようだ。
いいえ、もNOも違うも言う前にズルズルと小汚い男を引きずって行く。
この国の住人は人を引きずり回すのが好きらしい。
おまけに人の話も聞かない。
あれよあれよと言う間に城の奥に連れて行かれ、と言うより、しょっ引かれ、玉座の前に放り出された。


***「あー……こんちわ。」

冗談みたいに豪華な玉座に、冗談みたいに煌びやかなローブと冗談みたいに派手な王冠。
どこからどう見ても「王様」と呼ぶ他ない格好の人物がこちらに白い歯を見せて微笑みかけて来る。

***「何やねん。何で王様なんかおんねん。」

大臣「城の中なんだから王が居て当たり前だろう。」

***「いや、だから城って何やねん。」

大臣「王が居る場所だろう。」

***「いやいやだから何で王様出てくんねん!?」

大臣「……??城の中だからだろう???」

***「あーもう!ちゃうわああああい!!」

噛み合わない会話に頭を抱えるしかなかった。
こうなれば状況を自分なりに整理してみるしかない。

精霊、見知らぬ場所、謎の老人、鎧の男に王様。
ーーつまり。

***「ああ、異世界転生ってやつやな。」

小汚い男は単純だった。

王様「何をやっておる。早速だがワシの願いを聞いてもらいたい!」

***「んな『のだー!!』言われてもな。ワイは何も聞いとらんで、あの青い猿は『ワイの願いが叶う』みたいな事は言っとったけど。」

***「だから言うてるやろ、知らんて。明日もTwitterでベイスターズの愚痴を呟かないとアカンねん、家に帰してくれや。」

王様「ふーむ。何かわたぼうとの間で行き違いがあったようだの……これは困った。かといってこの者を元の場所に返す術など分からんし……。」

王様「そうじゃ!!」

王様「優勝して『元の世界に戻りたい』と願えば良い。勿論、他の願いだって何だって叶うはずだ。」

要約すると、勝手に連れてきて「家に帰して欲しくば言う通りにしろ」と言われているという事だろうか。
中々の脅迫である。

***「おう、ホンマええかげんにーー」

小汚い男は感情が瞬間的に爆発しそうになるが、

***「ーー待てよ?」

途端に悪い顔になった。

***「ホンマに何でも叶うんか?」

王様「ああ、言い伝えではそうだな。」

***「ホンマに?」

王様「本当だとも。」

***「ワイが『ベイスターズ』を優勝させてって言ったら叶うって事か?」

王様「何のことかよく分からんが、そうなるだろう。」

***「ワイが優勝すればベイスターズも優勝って事やな!!??」

王様「そ、そ、そうだな」

小汚い男はニッコリと笑うと目を見開いて、

***「やるで!!ワイがほしふりの大会で優勝してベイスターズを優勝させるんや!!」

小汚い男は単純な上、飲み込みが早かった。

王様「何だがよく分からんが、やる気になったなら良かった。」

しかし、自身に今起きている非現実的な事を顧みれば、非現実的な事も現実的に起こりうる事であると納得もいくものだろう。
決してベイスターズの優勝が非現実的だと言っているわけではない。決して。

***「あー、さっきから言ってる『マスター』って何のことや?」

王様「そんな事も知らんのか。全くわたぼうは何をしとる。」

***「困ったもんやで。」

王様「お主は『モンスターマスター』になるのだ。
モンスターマスターは、モンスターを率いて戦わせ競い、その頂点を目指して皆、日々、切磋琢磨している。
お主にはこの国の代表となって、このタイジュをほしふりの大会で優勝させて欲しいという訳だ。」

大臣「なにぶん、もう随分と我が国は優勝から遠ざかっておりますからな。」

***「なんか親近感が湧いてきたで。」

***「要は、その『モンスター』ってのが選手でワイがその監督って所やな。」

王様「出来そうか?ただ戦わせるだけではなく、魔物達と心を通わせ、じっくりと育成する事も仕事になる。簡単な事ではないぞ。」

***「ザリガニ5年飼ってた事あるし、へーきへーき。さ、ワイにまものくーださい!!」

王様「なんか不安だのう……」

***「おかのした。」

〜〜モンスター牧場〜〜

***「ここがモンスター牧場やな。どいつが責任者や。」

プリ松「俺だぞ。」

***「……アンタ、ロッテとヤクルトとBCリーグでプレーして現在コーチやってたりする?」

プリ松「何を言っているか分からないぞ。」

***「おかしいで、王様は『プリオ』とか言ってたのに……」

プリ松「古いゲームのドットだから字が潰れて見えたんだと思うぞ。」

***「と、とにかくワイにまものくれや。」

小汚い男は細かい事を考えるのをやめた。

プリ松「とっておきのを用意して置いたぞ。」

プリ松が口笛を吹くと、音を立て巨大な影がプリ松の背後に舞い降りる。

プリ松「グレイトドラゴンの大野君だぞ。」

大野「よろしく。」

見上げる程の巨体に凛々しい顔立ち。
その全てを一言で表すのに相応しい言葉はまさしく「グレイト」しかないだろう。

しかし、

***「何やねんコイツ。ドラゴンってのが嫌やな。他球団やん。」

プリ松「無いものねだりは良く無いぞ。」

大野「良いんです、プリ松さん。
……沢村賞も獲ってるのになぁ……。」

そう言うとグレイトドラゴンは翼を広げて寂しそうに羽ばたいて行った。
その大きな背中はタイジュよりバンテリンドームが似合うだろう。

***「さあ、次のを紹介してくれや。」

プリ松「あとはコイツくらいしかいないぞ。」

そう言い切らないうちに、青い小さな影がプリ松の足の間から飛び出した。

スラぼう「やあ!こんちわ!なんだ!!」

***「な、なんやこのバケモンは!?」

プリ松「ああ、コイツは

プリ松「だぞ。」

スラぼう「いきなりバケモンとは失礼な奴なんだ!だけど、まものはモンスターって意味だからバケモンでも間違いではないんだ!!」

***「なんかえらく明るい奴やな……」

***「んー?しかもお前よくみると……」

***「見え覚えのある、愛嬌ある顔やで!色味もベイスターズっぽいし中々ええ感じやん!!気に入ったわ!!」

▼スラぼうが仲間になった!

スラぼう「よろしくなんだ!!」

***「よっしゃ!お前がワイのチームの最初のメンバーやな!!こっから最強のチーム作って優勝したるで!!」

・縛り条件:体色にベイスターズカラーを含むモンスターしかパーティに入れる事が出来ない。
※配合の為のレベル上げ等の場合は含まない。

〜〜謁見の間〜〜

***「まもの貰って来たで〜」

王様「な、なぜそのまものを貰ってくるのじゃ!?」

***「何故って……青いから。」

王様「グレイトドラゴンはどうしたのだ?」

***「ありゃ駄目やで。青くないから。」

王様は目頭を押さえて考え込んでしまった。

王様「ま、まあ良い。早速、その仲間モンスターと共に旅の扉で異世界へ出かけて腕を磨くのじゃ。」

***「よっしゃ!分かったで!!行くでスラぼう!!!」

スラぼう「おーー!なんだ!!」

王様「旅の扉の先には、とても強いまものが居る場合もある。ここはまず手始めに……」

丁寧に説明を始めようとする王様だが、

大臣「もう行ってしまいましたが。」

王様「……。」

聞きもせず、小汚い男達は飛び出してしまっていた。

王様「……わたぼうも腕が落ちたのかのう。」

〜〜異世界〜〜

***「ここが異世界やな!辛気臭い場所やで!!」

***「しかし、ここの旅の扉に入る前に、衛兵にめっちゃ止められたけどアレ何やったんやろなあ。」

スラぼう「知ったこっちゃないんだ!!」

***「せやな、よっしゃ!ワイらの伝説の第一歩やで!!…………と???」

スラぼう「どうしたんだ!?」

***「いや、妙な気配が……」

スラぼう「尿な気配?トイレなら茂みで済ませて来るんだ!」

***「しょーもないことを……」

と、言いかけた刹那、黒い影が飛び出してきた。

▼まもののむれがあらわれた!

これぞ「まもの」でござい。といった屈強な立ち姿。

***「あー君たち……入団希望?」

スラぼう「そんなわけないんだ!」

まものたちは殺気立った目でこちらを見ている。

***「しゃーない!行け!やっつけろ!!スラぼう!!!」

スラぼう「……出来ると思う?」

***「やっぱり?」

〜〜謁見の間〜〜

王様「おお しんでしまうとはなさけない!」

***「ケシズミにされてしもうたで。」

黒コゲ状態で全滅したスラぼう達は精霊の加護により大樹の国に無事戻された。

大臣「人の話を聞かないからそうなるのだ。」

王様「異世界で全滅してしまうと、命こそタイジュの精霊の加護で守られるが、持ち物やお金を失ってしまう。
無茶なことばかりしていると立ち行かなくなるぞ。」

***「えらい目にあったで。気をつけるわ。まあ、金も持ちモンも持ってなかったのが不幸中の幸い……あ」

小汚い男は、言いかけた言葉を飲み込んだかと思えば、みるみる青ざめていき、発作的にポケットや懐をまさぐり始め、やがて。

***「ないぃいいいいいいいいぃいぃい!!!」

城中、いや国中に響きわたる声で喚き出す。

王様「本当にうるさい奴だのう。どうしたのだ?」

***「ワイの大切な『久保康友』のキーホルダーが無いんや!!最悪や!!誰か知らんか!?見とらんか!?こういうやつや!!」

王様「うーむ。残念じゃが、異世界に落として来てしまったのじゃろうな。」

***「最悪や!最悪や!!あれはワイの宝物なんや!!!スラぼう!!お前持ってたりせーへんか!!??」

スラぼう「僕が持ってるわけないんだ!」

スラぼうを持ち上げて、縦に伸ばして横に広げて上下に揺さぶり左右に振り回してみるが、無いものは出て来るはずもない。

王様「気の毒だが、その辺で諦めて……」

***「諦められるかい!!せや、もっかいあの異世界行って探してくればええんや!!行くでスラぼう!!」

王様「これこれ、すこし落ち着くのだ。
今のままでは同じことの繰り返しじゃぞ。まずは実力に見合った場所で腕を磨くのが先ではないか?」

大臣「無茶に付き合わされる自分のまものの事も考えてやらんとな。」

***「……。」

スラぼう「早く強くなって探しに行けるようになるんだ!!一緒に頑張ろうなんだ!!」

***「……せやな。」

王様(……どっちがマスターか分からんな。)

大臣「哀れなマスターに慰めのやくそうを与えよう。」

***「あ、ありがとうやで。」

飴ちゃんあげるから泣き止め、的なノリなのだろうか。
大臣から薬草を受け取った。

王様「さて、気を取り直して再出発じゃな。全く手のかかる奴じゃ。
手がかかるついでに、可哀想な新人マスターにワシからも贈り物をやろう。」

***「ホンマか!!」

王様「現金な奴じゃのう。誰かプリオに「ホイミンを連れてまいれ」と伝えよ。
ワシのとっておきのまものじゃ。お主には特別にこのワシの愛しい大事なホイミンを貸してやろう。」

***「やったで!」

プリ松「王様のホイミンは逃しておいたぞ。」

***「なぜ」

王様「お前死刑じゃ!!!!」

プリ松は衛兵に瞬く間に取り押さえられてしまった。

プリ松「離してほしいぞ。」

大臣「プリオよ、ホイミンはどこに逃げてしまったのだ?」

プリ松「旅立ちの扉だぞ。」

王様「むむむむむ。もう許せん!!!この場で打首にしてくれる!!!!」

大臣「まあまあ王様。ここは一つ、この新人マスターに任せてみてはいかがですかな。旅立ちの扉であれば新米にもお誂え向きでしょう。」

王様「うううむ。」

王様はスラぼう達を不安そうに眺め、しばらく考えた後。

王様「よし!では、お主たちでホイミンを連れ戻して来るのじゃ!!そうすればプリオは許そうではないか!」

と、スラぼう達に告げた。

***「いや、ワイ的にはプリ松はどうでもええねんけど。」

プリ松「俺がいないとゲームが進まないぞ。」

かくして、小汚い男とスラぼう一行は、今度こそ最初の冒険に赴くのであった。

……to be continued

次回 〜開幕篇〜



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