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ぬいぐるみ八咫烏の贈り物

晴れでも曇りでもないような呼び方のない天気が
カーテンの向こう側に広がってるらしかった。
雨は、降っていないらしい。

音もなく黒いものが横目を横切り、
バルコニーの角に停まった様子がそのシルエットで解った。

今日はよくお客が来る日だ。

驚かしてしまわないようにそっと近づくと
どうやら脚は3本あるようで、
奇妙にか器用に2本の脚で縁に停まっている。

カーテンをめくるとあちらさんはこちらを凝視している。
「こんにちは」
と声をかけるとなんとなくこちらに体をむける仕草をみせるので
腕を伸ばすと3本脚のそれはスポッとそこにハマった。

何か触れたことのある感触だと思った瞬間、
腕の中のそれは優しい体温をもつ八咫烏のぬいぐるみだった。

「宇宙からきたの」
「君は間違ってないよ。大丈夫」

と、八咫烏のぬいぐるみは突然話し始めると
バルコニーの縁を掴まなかった脚の爪の先を
丁寧にあたしに渡した。




布団の中の感覚は
日常の中にあるデジャブの瞬間のように鮮明で
宇宙から来たぬいぐるみの八咫烏に励まされた私は
今日も頑張るか。と起き上がった。



仕事終わりにかかってきた電話の向こうで彼は
八咫烏のぬいぐるみの話を
何も言わずにふんふんと聞き、
雨の金曜日は道が混みやすいと言った。

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