_4_色彩を持たない多崎つくると_彼の巡礼の年

#4 過去は戻らないけど、確実に今を支えている:色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

こんにちは。すがっしゅです。
マガジン「ソラニン」の第4回となります。

今回ご紹介するのは、村上春樹さんの
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」という小説です。

村上春樹というと、新作が出ると書店に長蛇の列をつくったり、
作中の登場人物の趣味嗜好を真似たりする熱狂的なファンが
「ハルキスト」などと呼ばれるあの方ですね。

やたら「ハルキスト」を叩く人がいたり
一方で「ハルキスト」がにわかファンを叩いたり…
なんだか怖いので最初に断っておくと
これから書くのはあくまで個人の見解。
そしてわたくしはハルキストではありません(笑)

この話のあらすじをシンプルに説明すると、
・駅を作る仕事をしている主人公「多崎つくる」
・高校時代、自分を含めた5人組の親友グループがあったが、
 大学2年生の頃、突然 4人から絶縁を言い渡され、
 それが大人になった今でもトラウマに
・ある日 付き合っていた彼女から促され、あの時なぜ
 絶縁を申し渡されたのか、4人に合って確かめに行くことになる

という話です。

設定がまず面白いんですけど、内容も面白かったですね~!

★学生時代と現在を、つい比べてみること

って、人生上でふとありますよね。

あの頃は
・何かに打ち込んでいたなぁ
・告白したかったけど、できなかったなぁ
・言いたいことがあったけど、言えなかったなぁ

一方で現在は
・やりたいこと、ちゃんとやれてるかなぁ
・今の職場では、言いたいことちゃんと言えてるのかなぁ
・いつ結婚するのかなぁ

というように、昔と今を比べることってよくあるなぁと思います。
「今は、学生時代のように輝かしいものではないなぁ・・・」
「あの頃こうしておけば、今も変わっていたかもしれないなぁ・・・」
と過去に囚われて、現在の事を悩んだり、もやもやしたりすることって
誰にでもあるかと思うのですが、

「あの頃を力強く生き抜いた自分なら、今も力強く生き抜けるはず」
そんなメッセージを感じた小説でした。

★過去は戻ってこない。でもその過去が「今の自分」を形作っている。

過去の事を思い出すと、どうしてもそれを引きずってしまうのは良くあることだと思います。

過去は戻ってこないし、後から修正がきくものでもないから、
いつまでも後悔が心に留まったままになることもありますし、
それが現在の生活を悪い方に向けてしまうこともあるかと思います。

過去は戻ってこない。
そんなつらい事実が存在する一方で、
もう一つ、自分を支えてくれる事実も存在する。

それが、「過去が今の自分を形づくっている」ということ。

月並みな表現ですが、
「あの時頑張れたのだから、今も乗り越えられるはず」
というのはよく言ったものです。

「自分はあの時なにも頑張ったこと等ないし、誇れる物なんてない」
なんて思っていたり、それ自体が過去の後悔になっている人。
そう思い込んでいるような人の人生にでも、

「何を言われようと、自らの意志をまっすぐ信じることができた」
「誰も興味を示さなくても、何かを好きでいつづけることができた」
「どう思われても、素直でいつづけることができた」

そのような、「あの頃を生き抜いた自分」があるはず。

後悔が残るような「あの頃」を、
「生き抜いた自分」こそが今の自分なのだから、きっと今も生き抜ける。

そうしたメッセージを感じさせる物語でした。

★「過去を後悔し振り返ること」を否定していない!むしろ肯定している!

のが、この小説の良いところ。

「後ろを振り向くな!」「後悔せずに前だけ向いて頑張れ!」
というように「過去を振り返ること」自体を否定するニュアンスを含む言葉が、ある種 まことしやかに信じられていることもありますが、
ぶっちゃけ、過去の失敗を、人は忘れられないものです。
忘れられない失敗や後悔にフタをすることは、
かえって「今」を足踏みさせたり、生活を無機質にしてしまうもの。

この物語ではむしろ、振り返ることを肯定しているんですね。
作中には、「自分が見たいものを見るのではなく、見なくてはならないものを見るのよ」という言葉があるくらいですからね。


少し切り口が変わりますが、
子育てや教育現場、さらには「体罰問題」が指摘されている
スポーツ指導現場においても、この考え方は当てはまるかもしれません。

失敗や後悔を振り返ってしまうのは、人として当たり前だししょうがない。
だから過去に目をつぶらず、その失敗や後悔を認めた上で、
その背景にあった「自分」の力強さを思い出させてあげること。

それが、子どもの教育に携わる大人にとって大事かもしれません。
これからを生きる子どもたちにとって、
「自分を認める力」ほど大事なことはないな、と私は思います。

過去を生き抜いた自分を信じて、今を生きようとすること。
今の結果にこだわらない、優しい考え方だなぁと思います。

この優しい考え方が、逆説的ですが、
「今の結果こそが大事」な、資本主義社会 日本 を生き抜く
子どもたちに必要だなと思いますね。


以上、今回はこれで。ぜひ読んでみてください!
「ソラニン」第4回「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」でした。読んでくれてありがとうです!

ではまた!

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