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詳しくなくても、お金にならなくても、好きなものを「好き」と言いたい。

ライター・編集という仕事をしていると、好きなものや得意分野をしょっちゅう聞かれる。
「どういうジャンルが好きなんですか?」
「専門は何系ですか?」

何十回、もしかしたら何百回と尋ねられているのに、私は、いつも答えに詰まる。

その質問の裏には
「あなたは、どんな仕事ができるんですか」
「何に詳しいんですか?」

という意図が見えるからだ。

(それは仕事を頼む側からすればとても適切な質問だし、自分だってしばしば尋ねてしまうけど)

でも、いまの世の中、なにかに詳しいひとって本当に驚くほど詳しくて、湯水のように知識が出てくる。
それはもちろん、その方の愛と熱量のなせるわざ。
知識を持ってなにかを語る姿はとても鋭いし、出てくるコンテンツには奥行きがある。

私は、本も読むし映画も観るし、音楽も聞く。
舞台なら、演劇もお笑いも、ダンスも行く。
苦いコーヒーは飲めないけどカフェは好きだし、恐竜と宇宙にもすごく興味がある。
源氏物語と短歌に胸がときめいて、早稲田の国文学科を出ている。

でも、本も映画も音楽も舞台も、べつに詳しくはない。
流行のカフェも数えるほどしか知らないし、恐竜や宇宙は飲み会の雑談レベル。
好きだけど、知識がないことを自覚している。

だから、好きなものを聞かれてもうまく答えられない。
「好き=詳しい」を求められてしまうと、応えられないから。
自分よりももっとその対象を好きなひとや詳しいひとに対して、なんとなく遠慮してしまう、という感じもあるかもしれない。

私の「好き」は、「詳しい」とイコールだったっけ

「好き」に見合う努力ができる(知識を蓄積できる)というのは、本当にすばらしいこと。
だけど、なかなかハードルが高いし、上を見ればキリがない。どれだけ詳しいひとにも、上には上がいる。勉強してもしても、し足りない。

だから、知識を得ることを放棄する、という話ではなくて。

本当に私の「好き」は、「詳しい」とイコールになる感情だったっけ、と問うてみる。
愛が研ぎ澄まされてかっこよくなるものはすごくたくさんあるけれど、それだけが「好き」の到達点ではない、気がする。

仕事の視点で考えても、そう。
たとえばカルチャーそのものをど真ん中で論じていなくても、その良さが伝わるものはきっと書ける。
手前味噌ながら、雑誌「走るひと」はランニングをど真ん中で語らない。走っているひとたちのインタビューや、周辺カルチャーとの融合で、ランの新しい輪郭を見せる。そもそも、それをつくっている私はトレーニングに詳しくないし、いまや走らない。

映画に詳しくなくたって、漫画に詳しくなくたって、映画や漫画の新しいコンテンツはつくれる。
もちろん、ど真ん中は最高だけど、クリエイティブの方法はひとつじゃなくたっていいと思う。
知識も愛も、あるに越したことはないけれど、それを誰かと比べて「私は少ない」と卑下する必要はない。

ちょっとさみしいけれど、わかったんです。
どれだけオタクに憧れたって、私はオタクにはなれない。
これはもうパーソナリティーの話だと思う。

「好き」には“きっかけ”であってほしい

それに、「好き」と「詳しい」を同義にしてしまうと、なんだか「好きなもの」が「手段」に見えてくる。
職業病かもしれないけれど、詳しくない=お金にならない「好き」の価値が、一段下がるような気がする。
好きなのに。その瞬間、心がときめくのに!

私はきっと、好きなものをきっかけに、世界がひらけたり新しいものに出会ったり、心地よい時間が過ごせたら、それでいいんだと思う。
なにかひとつに死ぬほどハマれなくたって、浅く広く好きなものがいっぱいあったら、めっちゃ幸せ。
このひとのここが好き、このカルチャーのこういうところが素敵、ここが気持ちいい、で充分。
「好き」には、いつも私の世界をひろげる“きっかけ”であってほしい。

そうやって、そのひとの好きなものを組み合わせてできる眼鏡でしか見えないものも、きっとある。
それが個性だし、誰かとお互いの好きなものを渡しあって、響きあって、また世界が豊かになっていくのが最高。
知識のあるなしとか経験値の高さみたいなことにばかりとらわれて、好きなものを好きだと言えないのは、とても悲しい。

もっと「好き」を味方にしたいんです

でもやっぱり、仕事だとつい、自分にしかできないことを探してしまう。
だから「好き」を武器にしたくなるし、仕事とプライベートの境目があまりない職業だから、余計にその感覚は根深い。
けれど、どれだけ知識で武装したって、代わりはいくらでもいる。
代わりがいくらでもいる世界で、それでも私の仕事をしていくためには、どちらにしろ小手先の知識だけでは太刀打ちできない。

だからもう「好き」を萎縮させたくない。
好きなものを好きだと言いながら、いまの私の眼鏡で見えているものを、書いていく。
そうすれば「好き」がもっとひろい意味で味方になってくれる瞬間が、きっと出てくるんじゃないかなぁ。

わたし、映画も本も音楽も、食べ物も洋服も、お笑いも演劇も漫画も、美容も子育てもお風呂も、ジャニーズもアイドルも塩顔も、国内外のリゾートも仕事も、みんな大好きです。あと、一番好きなバンドはBUMP OF CHICKENです。

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