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赤い稲妻が走ったお腹で、これからも私を生きていく

妊娠してからいままで、何回「お母さんの顔になった」と言われただろうか。自分の顔がなにか変わったとは一切思わないけど、優しくなったとか、まるくなったとか、やっぱり言われる。妊娠初期はそれにすごく違和感をおぼえたものの、いまではもう慣れたし、勝手に優しく見えるならありがたいなと思うようになった。つんけんしてると思われるより何倍もいい、けど「妊娠しても(出産しても)全然変わらないね」のほうが、本当はうれしい。生活も、考えなくてはいけないことも、責任も、いろんなことががらりと変わったから、せめて自分そのものくらいは変わらずにいたいんだと思う。

とはいえ、変化だ。避けられないビジュアルの変化は、やっぱりあった。
そもそも産後1年3ヶ月が経ついまでも、妊娠前の体重には戻っていない。プラス3キロくらいまではするすると落ちたけれど、そこからが全然動かなくて、いまもプラス2~3キロを行ったり来たりしている。10代後半から20代はずっと、顎がガリガリととがっていたけれど、その線がいくぶんやわらいだというか……ゆるんだというか。そのまるみが“お母さんの顔”を指すのなら、残念ながら間違ってはいない。

でも、体重が数キロ増えることなんかよりインパクトがあったのは、お腹。
私のお腹にはいま、稲妻のような妊娠線が何本も走っている。「妊娠線」とは、急激に大きくなるお腹に皮膚がついていけず、真皮が裂けてしまった傷跡のこと。いわゆる「肉割れ」に近いのかな。裂け目からは毛細血管が透けるので、赤い稲妻とか、スイカのしましまみたいな模様に見える。ボリュームにもよるけれど、つまり、ビジュアル的に結構きつい。そして、一度入ってしまった線は、もう一生取れない。

予防法は、とにかく皮膚の伸びをよくすること。お腹が大きくなり始めたら保湿クリームを塗って、皮膚をやわらかくしておく。私は妊娠4ヶ月頃から毎晩お風呂上がりに、本格的に大きくなり始めた妊娠7ヶ月頃からは朝晩オイルを塗って、保湿を欠かさなかった。……けれど、臨月に入ったとたん、ビキビキビキッと線が入ってしまった。やるだけのことはやっていたので、どうあがいても妊娠線が入る運命だったんだと思わざるを得ない。確かに私のお腹は、どんな妊婦さんと比べてもだいたい大きくて、前にぐいーんと突き出ていた。他の部分はほとんど太らなかったから、妊娠中に増えた8キロはすべてお腹についていたわけで、そりゃ線も入る。

臨月になると、もはや下腹は鏡を使わないと見えない。ふと、タイツの縫い目が当たる部分の赤みに気づき、ちょっとかゆいなと思っていたら、数日後には下腹全体を妊娠線が駆け抜けていた。でも、そのときは骨盤や腰のきしみ、激しい胎動などに気を取られていたから「あ~、あんなにケアしたけどだめだったか~」と軽く流せた。

むしろ、妊娠線が本当に気になってきたのは、お腹が戻ってから。正確に言うと、引っ張られてたぷんとなった皮膚はまだ戻りきっていないのだけど(なんかもうこれから戻る気もしないのだけど)、シルエットがほぼ妊娠前に戻ったからこそ、稲妻が目立つ。時間が経つにつれて赤みはずいぶん消えたものの、今度は透明のクレーターのようだ。まるまると大きなお腹のときには下腹にばーっと走っていた傷跡が、きゅっと縮められて存在感を増す。なんというか、もう「AFTER」とか「USED」とか、そういうワードが脳裏をよぎるのだ。取り返しのつかない傷跡だなと、しみじみ思う。

つるんときれいなお腹に戻れるなら、戻りたい。でも、このお腹が嫌いなわけじゃない。ある意味では実際に「AFTER」だし「USED」だし、いっときより美しくはないけれど、これはこれで味がある。私の人生が、ここにもちゃんと刻まれた、というかんじ。いままで、お腹に人生を感じることなんてなかったんだから、その新しい感覚は悪くない。

ただ、この夏、水着はどうしよう? もう大人だし、ファッショナブルなワンピースを着たい気分もあるけれど、いまここでビキニを卒業するのは、なんだかもったいないような気もする。妊娠線があろうと、皮が多少たぷんとしていようと、外国人みたいにばーんと出しちゃえばいいんじゃない。お腹に刻まれている私の人生を、どんなふうに見せようか? 夏はもう、すぐそこですね。

Photo by Shun(TOTALFAT)
お腹がぱんと張っているからあまり目立たないけれど、下腹に妊娠線が見える

Twitter @sakura011626
Webサイト http://www.sugawara-sakura.com/

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