読書のグルーヴ

言葉を並べる。この程度のことは誰にでも出来る。例えば、そこらを歩いている小学生を捕まえて、なんでもないようなことを書いてもらう。「海は青い」だの「空は青い」だの、そういうようなことを書いてもらう。それだけで言葉は並びとして成立する。そこに深みを見出すことは出来ないこともない。人という生き物は大変に想像力が豊かなので、ちょっとした題材を与えられれば、それだけで何でもかんでも頭の中で補足してしまう。とはいえ、想像には限界があるし、なにより、それでは作り手はつまらないと考える。そこで言葉を更に追加する。「海は青い。中で魚が泳いでいる」だとか、「空は青い。白い雲が浮かんでいる」だとか、より描写を微細に重ねていく。そうして、単なる言葉の並びは、一つの明確な世界を切り開いていく。とはいえ、それらの言葉の狭間には、やはり人の想像が入り込む隙があって、筆者が想定するものよりも自由な世界が脳の中で紡がれる。こうして一人一人の中にそれぞれの世界が生み出されていく。やがて訪れるグルーヴ。筆者と読者のリズムが重なり合って、それは加速する。そんな読書体験が出来る本は、そうそうあるものではない。大事にしていかねばならぬ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?