アンジャッシュ『それぞれの会話』のはなし。

『爆笑オンエアバトル』五代目チャンピオンのアンジャッシュが、自己最高記録を叩き出したコントである。公園のベンチで偶然にも隣同士になった二人が、ほぼ同時に携帯電話で通話を始めるのだが、それぞれまったく違った話をしているにも関わらず、その内容が不思議な噛み合いを見せ始める。まずは導入。公園で寝ていた児嶋を渡部が起こす場面のコミカルなやりとりで軽めに笑わせて、その後しばらくは笑いがない。それぞれが携帯電話でどんな会話を展開しているのか、観客にじっくりと聞かせるためだ。渡部が明日デートする予定の恋人と、児嶋が愛娘を誘拐した犯人と会話している状態にあることを観客に認識させたところで(屋外でするような話じゃねーな、しかし)、このコントに仕掛けられたギミックがゆっくりと動き始める。渡部が明日のデートの件で「俺が行きたいところならなんでもいいの?」と言い、児嶋が誘拐犯の要求を飲むという意味で「ああ、言うことはなんでも聞く」と言う。最初に噛み合う場面である。ただ、この時点では、まだ接点が漠然としている。観客もクスクスと微かに笑い始めてはいるが、まだ確信を得られていない。しかし、「渡部:本当に?」「児嶋:本当だ」と畳み掛けられることで、多くの観客はその構造を感覚的に理解し、より大きな笑いへと広がっていく。後は、流れるように、会話を噛み合わせていくだけだ。それぞれの状況のギャップも相俟って、コントは更に更に面白くなっていく。……一枚のシャツのボタンと穴がズレている状態を俗に「ボタンの掛け違い」というが、このコントはむしろ二枚のまったく違ったシャツのボタンと穴が不思議と上手く掛け合っている状態であるといえるだろう。その歪に成立している様が、或いは、成立しているのに歪な様が面白い。NON STYLE井上のアシンメトリーヘアーがヘンテコで面白いことに似ているのかもしれない。……いや、まったく関係無いな。関係無いです。すいません。……と、まあ、これだけでも十分に面白いのに、彼らは更に手を抜かない。終盤、渡部の電話の相手が、恋人から友人へと切り替わる。勿論、話の内容も変化する。ここで渡部は、貸したアダルトビデオの話をし始める。なんと、そのビデオに出演している女優は、児嶋の娘と同じ「まゆみ」という名前。当然、話の流れは、そういう方向へと展開していく。片や「まゆみを返せー!」、片や「まゆみの(アダルトビデオ)返せー!」。歪に噛み合っていたそれぞれの会話が、ほぼ完全に一致するというそれまでよりも一段階上の展開を叩きつけられることで、観客は更なる爆笑に巻き込まれていく。「アダルトビデオ」と「誘拐」を掛け合わせることで、ちょっと不謹慎な笑いになっている点も作用しているように思う(それを分かっているからこそ、終盤の畳み掛ける展開でこの設定を持ってきたのだろう)。細かく台本をテキスト化して、そのズレがどのように広げられているのかを確認したいほどに完成されている。『エンタの神様』による影響か、アンジャッシュのコントをごくごく当たり前に見られるものとして受け入れてしまっている私たちだが、それがどれほど凄いモノであるかを、今一度考え直す必要があるのかもしれない。やっぱスゲェよ、アンジャッシュは。

『爆笑オンエアバトル アンジャッシュ』収録。

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