ラーメンズ『現代片桐概論』のはなし。

『爆笑オンエアバトル』第一回収録でトップ合格となったコントである。その歴史的な価値を思えば「ゼロ年代のお笑いブームはラーメンズから始まった!」くらいのことは言ってしまってもいいような気がするが、コンビとしての活動が下火になってしまった昨今において、もはや生存しているのかどうかも定かではないアンチが奇跡的に蘇生するかもしれないので、その辺りはテキトーに濁しておこう。このコント、簡単に説明すれば「実際には存在しない生物の歴史・生態を研究する学問について説明する講義」である。……冷静に考えてみると、ちょっとコワい設定ではありませんか。とはいえ、小林賢太郎演じる講師の頭がオッパッピーしている風ではないので、ここは彼らが得意としている「パラレルワールドの日常」を描いたコントと捉えるべきなのだろう。学名やモンゴルのことわざなどを駆使して、完全なる嘘をディティール細かく解説しているが、これだけだと、なかなか笑いにはつながりにくい。そこで重要になってくるのが、小林の隣で無用の長物が如く立ち尽くしている片桐仁扮する“教材用片桐”である。いや、ホントに。観客は小林の講義を聴きながら、ランニングシャツにブリーフという嫌でも目立つビジュアルの片桐を見ることで、実際には有り得ない生態を脳の中で空想するのである。ペットショップで売られているカタギリ、ネアンデルタール人に連れられているカタギリ、モンゴル人とともに遊牧生活を送っているカタギリ……想像力を働かせれば働かせるほど、その面白さは強まっていく。こうして演者と観客の相互理解が深まっていったところで繰り出される「カタギリに捨てるところなし」という強烈なパンチ! 観客は笑わずにいられないだろう。……まあ、その直後の「ギリシオ現象」に関しては、些かスベっていた気もするが。そんな『現代片桐概論』だが、このコントの本当に恐ろしいところは「カタギリの名前と顔を覚えてしまう」部分にある。否定はできないはずだ。コントの中では小林が嫌というほど「カタギリ」という名前を口にしているし、当人はその見た目を崩すことなく立ち尽くしている。結果、私たちは、このコントで笑おうが笑うまいが、カタギリを覚えざるを得ない。これほどまでに自己紹介に適したコントを私は他に観たことがない。いや、あるかもしれないけど、忘れた。そんなネタで『爆笑オンエアバトル』第一回収録を制したラーメンズ。彼らは、彼らの思惑通り、このオンエアをきっかけに注目を集めていく。なんと戦略的な……。

『爆笑オンエアバトル ラーメンズ』収録。

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