本大きいのガチ

本から生み出された表現

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多摩美術大学統合デザイン学科 中村勇吾・菅俊一プロジェクトの4年前期課題展を行います。タイトルは「本から生み出された表現展」です。
是非お越しください。
場所:多摩美術大学上野毛キャンパス1-104教室・地下ギャラリー
会期:2019年7月27(土)〜29(月)9:00〜17:00
入場無料


で、冒頭の画像は、告知ポスターのメインビジュアルとなっています。こちらにビジュアルに使用するため、学生に依頼されて今回の課題と展示に関する文章(少し長め)を書きました。せっかくなので(画像では読めないため)、こちらに再掲しておきます。


未知の知識が、次の創造を生む

新しいことを知った時に、急に視界が開けたように感じることがある。「わかる」とか「できるようになる」といったことは、私たちに根源的な喜びを与えてくれる。表現者は、このような根源的な喜びを、表現という形に変換し誰かに伝えることで、自分が「わかった」経験が次の誰かの「わかった」経験へと連鎖していく。そういった営みの繰り返しによって、私たちの社会における文化というものは、育まれてきた。

その、私たちの「わかる」体験を支えてくれる重要な存在の一つに「書籍」というものがある。書籍は、ある人が一生を賭けて探求し続けてきた知識や考えが詰まっている。私たちは書籍によって、膨大な時間によって辿り着いた知識を僅かな時間とお金で手に入れることができてしまう。

未知の知識をどのように学び、獲得していくかというのは、デザインにおいて特に重要な技術だ。デザイナーは常に、様々な分野の問題にさらされている。それは当然、自分にとっての専門分野ではない。専門分野ではない領域の問題に対して、美学とアイデアの力でデザイナーは日々よりよい社会にすべく、学びながら立ち向かっているのだ。

今回我々、中村勇吾・菅俊一プロジェクトでは「本から生み出された表現」というテーマを掲げ、ソフトロボティクスや行動経済学、言語、トポロジーといった、我々が専門としているデザインや表現以外の領域を学んでいく上で基盤となる本を読み、表現者として興味深い点について議論を重ね、それらの本に書かれたある部分を明確にリファレンスとした作品を作る、という課題に取り組んできた。

これは、自分の中には無い未知の知識を強制的に学ぶ機会を作ることで、これまでの自分からは生み出せなかった、全く新しい表現に辿り着こうという試みである。またその一方で、今後のデザインを考えていく上で重要なリテラシーになる知識を、作品制作を通じて体験的に学んでいこうという、新しい学び方のチャレンジでもある。

そもそも、この中村・菅プロジェクトは「メディアとアーキテクチャという概念における、新しい表現の探求と開拓」という目標を掲げて2016年から活動を始めている。そして今の3期生とは一年半の間、様々な課題制作を通じて新しい表現を作り上げることに取り組んできた。そこでは「本当に面白いこと新しいことは何か」という議論を繰り返し続けてきたわけだが、これまでは我々教員の課題設定によって、ある意味最低限「この考え方で作れば面白くなる」という枠組みや条件は担保されてきた側面があった。

しかし、今回の4年前期の課題では、そのような「何を面白いとするか」という視点は自分で見つけなければならない。先人たちの知識を学びながら、好奇心のセンサーを敏感にして、自分の嗅覚だけを頼りに気づきを得なければならない。それは、これまでの学びの方法であった、課題という思考や技術を学ぶために用意された踏み台を超えて、この先自分自身の力で飛ぶための重要な準備でもある。

ここには、18人の学生による未知の知識を学ぶことで辿り着いた、多様なチャレンジの結果が、作品という形で集まっている。完成度という面ではまだまだ試行錯誤が必要な段階にあるが、この独特なプロセスと探求の果てにある新しさの端緒を感じて頂ければと思う。

菅俊一

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