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『万引き家族』正論の虚しさ、情の始末の悪さ。

 治(リリー・フランキー)には万引きに対する罪悪感がない。むしろ、祥太(城桧史)とタッグを組むためとも言える行為であり、幼いゆり(佐々木みゆ)にも加担させることで、ゆりにも居場所を作ってやるというスタンス。小学校に通っていない祥太には家族のための仕事だという気負いさえ感じたが、治には、たくさんあるところから、少し取って何が悪いという無邪気ささえ漂っている。治は『店にならんでいる物は誰のものでもない』と祥太に教えるのだった。

 治が渋々むかう日雇いの仕事は、工事現場の下働きである。ホウキを持ってぶらぶらしているうちに怪我をしてしまうが、労災は適用されない。それに、信代(安藤サクラ)のリストラが追い打ちをかける。想像するにクリーニング工場は、とても過酷な職場だろう。自宅の少量のアイロンがけも、いやいやなのに、大量かつ質を求められるなんて。なのに、その職場も追われ、頼るものは初枝(樹木希林)の年金だけとなる。

 リリー・フランキー。こんなにジョーカーみたいになんの役でもハマってしまうのはなんでだろう。こういう小悪党っているだろうなというリアルさ。口が達者で、ちょっと人が良くて、だけど油断ならない。

 安藤サクラ。インタビューとか表彰式でみかけると、凛としていてセンスのいい品のあるお嬢さんなんである。でも、『百円の恋』や本作の、うらぶれた感じを演じたら、いま日本一なのではないのか。そして映画の中で洗い清められるようにして最終的には菩薩顔になってしまうのである。

 樹木希林。老人独特の現金さと知恵、人に対するいたわりと狡さ。ときどきみせる、過去なのか、あの世なのか、どこを彷徨っているのかわからない視線。老人にありがちな物が多すぎる住まいも違和感がない。でも、テレビで紹介されていた樹木希林自身の自宅は、コンクリート打ちっぱなしの壁に趣味のいいアンティークが配置された物凄くハイセンスなものだった。

 城桧史。アニメの『母をたずねて三千里』のマルコを思い出させるような、はっきりした目鼻立ち。ぶかぶかの服も伸び過ぎた髪も、ジュニアのボーダーみたいで、かっこいい。治のいうことをそのまま素直に理解し、自分の役割を全うしようとし、そしていつしか万引きに対する罪悪感を覚えていくまでをごく自然に演じている。

 祥太が万引きに罪悪感を覚える場面で重要な役割をするのが、柄本明演じる大和屋の主人。祥太の万引きを気づかないふりして見逃していたのだ。私は柄本明の年齢を経てからの枯れたような声がとても好きで、なんの役のときでも、その声にはっとしてしまう。大げさにいうと、自然に老いていくことの美しさみたいなものをその声に感じて、いつも立ち止まってしまう。

 佐々木みゆ。この子を選んだのが、また慧眼だなと思う。かわいいだけでなく、たたずまいに壊れやすいもの独特の雰囲気がある。無邪気と無表情がいつも同居しているというか。

  松岡茉優(亜紀)。私にとっては『水族館ガール』の元気なイメージが強かったのだけど、この映画の中の、なにをしていても薄汚れない感じがとてもいいと思った。映画『海街diary』の美人姉妹は美人揃い過ぎて、どうかと思ったが、正統派の美人が松岡ひとりだけで、それも初枝がかつて愛した相手の面影でもあるという。

 ラストの取り調べについては、映画『鬼畜』を思い出した。正論の虚しさ、情の始末の悪さ。そう、野村芳太郎監督の『鬼畜』、是枝監督の『誰も知らない』も、この機会に観ることを強くおすすめしたい。
   
 『鬼畜』の、妻の言いなりになってしまう緒形拳の不甲斐なさ、岩下志麻の能面のような恐さ、小川真由美の薄情さ、かわいく無力な幼い子供たち。『誰も知らない』の、子供たちより無邪気で奔放で、それゆえに残酷な母であるYOU。妹や弟の面倒をみる柳楽優弥。映像の凄さというのは、そのときにしか存在しない輝きを保存してしまうということでもあると思っているが、まさに、このときの柳楽優弥がそれを体現している。

 どちらも実話を元にした、とてもつらい話ではあるけれど、なにかの拍子にそちらがわに行かないとも限らない、もしくは身近に潜んでいるかも知れない。あたりまえと信じきっている日常を疑ってみるのに、ちょうどいい。

#映画 #万引き家族 #コンテンツ会議

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杉山理紀sugiyamariki

短歌と俳句と文章修行中。『ごめん、いま猫でいそがしい(クロきび)』更新中。黒猫クロマティことクロちゃんと、弟分のキジ猫きびじろうこときびちゃんが、わが家にいます。過去の活動忘備録→http://red.ap.teacup.com/riki/

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