「普通の服」の時代 前篇

推測・ユニクロが安くなくなった理由

スタイリスト・にしぐち瑞穂さんとBRITISH MADEというブランドの主催するイベントで、トークショーに出させていただいた。

その打ち合わせの時に、お話していて気付いたことがある。

それは、日本中で多くの人が、普通の服を着たい時代になっているんではないかということ。ちょっと前に話題になったエフォートレスとか、ノームコアとかとはちょっと違うと思う。もう少しエレガントで、きちんとした感じ。

そして突然思い出したことがあった。

もう10年以上前のこと(!)になるのだが、大学でファーストリテイリング・柳井正会長(当時は社長だったと思う)の講義を聞く機会があった。その時、柳井さんがおっしゃっていた言葉が忘れられずにいる。

「ユニクロはベーシックな服しか作りません。ユニクロの服自体に個性はない。着る人自身に個性があれば、服に個性はいらない。それがユニクロの考え方です。」

細かい言い回しは正確ではないけれど、あまりに衝撃を受けたので、内容は今でもはっきりと思い出せる。2002年、大学一年生だった私は19歳だった。家に帰って興奮して母親に話したけれど、母は「そんなのつまらないわねぇ」と残念そうにしていて、それ以上の話はできなかった(私は友達が少なかったので、当時、母がいちばんの話し相手だったんです)。今思えばあれは、確信に近い予言だ。あれから約15年。ユニクロの急成長と比例するように、かなりの割合の日本人が、そう考えるようになったのではないだろうか。

最初に東京にユニクロができたのは中学生の時だった。広告を見て、一番服の話が合う友達(お互い私学の中では珍しい節約家だった)と、原宿は明治通りの旗艦店に駆け付けた。確かジーンズを買った。当時それなりのジーンズを買うためには1万円くらいはかかる、という中で、その値段はたしか3000円を切っていた。衝撃的だったし、貧乏学生にはなによりありがたかった。だから未だに、ユニクロ=安価というイメージがある。

けれど今、改めてユニクロに出かけてみるとどうだろう。私は社会人となり、あの頃よりだいぶ自由に使える金額が増えた。だから一瞬錯覚してしまいそうになるのだが、このデフレの世の中において、ユニクロの商品は、もはや安くはない。もちろん、高価ではないのだけれど。

現在、ユニクロは、①質のいいものが買えること、②日本全国どこでも買えること、そして最も重要なこととしては、③普通のものが買えること、が強さになっているように思う。そしてそれは、確信犯的なシフトなのではないかと思う。ユニクロは安さではなく、ベーシックさを残したのだ。

そういう時代になってくると、人々は組み合わせ方に夢中になる。ファッショニスタはインスタグラムやブログでootd(outfit of the day、つまり今日の服)をアップする。そこでもてはやされるのは、一つ一つのアイテムの美しさというより、組み合わせの妙だ。

会長の才覚、すさまじい。

私は、そんな世の中をつまらないとは思わない。ユニクロの商品にも、いいな、と思うものがたくさんある。ただ、最近ユニクロで買い物することがめっきり少なくなった。

それは、ベーシックなアイテムを一通り揃えきっているから、というのもあるけれど、もう一つ決定的な理由があるのだ。

(後篇に続く)

フライングタイガーのビーズポーチ。200円。こういう手仕事感がたまらなく好きだ。母にはピンクのをプレゼントした。


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杉田千種

83年東京生まれ。編集者。月刊漫画誌の部署で働きつつ、自分より更に不規則な生活をしているテレビディレクターの夫とともに、4歳の生き物と映画マニアの息子を育てています。特技は手土産探し、苦手なことは家事全般。日々のワインが癒し。趣味は「着る」こと全般。

1年間、服を買わないで過ごした私に起きた驚愕の変化について

興味を持ってもらえることが多くなってきたので、マガジンの形にまとめました。
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