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もういちど、おやすみプンプンを読む 5

「NHKを、ぶっ壊す!」

 国の行く末をちょっとだけ決める参院選も近づいてきましたが、いかがお過ごしでしょうか。
N国の立花氏の放送に卑屈な目線を投げかけながら、どこかその言説にカリスマ性を認めざるを得ない凡夫にお勧めの退廃コミック、おやすみプンプンを読み返して、5巻まで来ました。13巻まであります。

 一回一回八千文字もかけているので、我ながらそんな暇があれば署名活動を受け続けてもよいのでは、と思うけれど、「退屈なこれまでを、ぶっ壊す!」というような倒錯具合がぬるま湯のように心地よいというオナニーを続けさせていただきました。

 成程、この漫画は「意味のあるオナニーだったら私は見ますけど」などほざく漫画家が登場するなどであります。さらにカルトの男が都知事選に出馬するので、冒頭の言葉への重みを増す羽目になります。

 現実でもなにより、NHKが放送する「NHKから国民を守る会」のNHKの受信料を踏み倒そうという上記政見放送の後に、かわいい女優さんが歌って踊りながら「住所変更したら、NHKの受信契約の更新を忘れずに♪」と対抗していて、余計笑わせていただきましたとさ。

 むむ、ただ、この巻はあまり重みはないです。


 でも、重みのある交際ってなんだろう。
 あなたがた「起業支援します!」とか「言葉使いのスペシャリスト」とか自称するあなたは生命に真剣なの?目先のお金と大きな声が出せるだけの行動にだけじゃないの?


 なんてまた仮想敵と激論して、一日が終わってるこっちが、真剣じゃ、ないんだよなぁ

 さて、五巻、
雄一の不倫を横目に、プンプンの性格はどういがむのか!(純朴な少女に振られて雨の中公園の遊具で全裸で失禁する)
ホームレスの振りをしていたとしき(ペガサス)の運命は!(都知事選出馬して焼け死ぬ)
選挙にもいかない若者の運命は!(信念が大事だけどさぁ)





 素直は本当に貫きにくいね。




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 古本のにおいがする橙色の五巻の表紙は、流線が三筋浮き出ています。裏返すといきがって前髪をワックスで立てたプンプンが飄々としてこちらを向いております。

 カバー裏は、海辺だぁ。数人が海の中にいたり、埠頭に立っていたり。

 海とドラマといえば何を思い出しますか?

 わたしは、プロポーズ大作戦のOVAで、山Pがぶかぶかの指輪?靴?(靴だった気がする)を長澤まさみに渡す映像でしょうか。
 もしくは、実母が「私が死んだら骨は海に撒いてや」と言ったことかなぁ。


 プンプンで海はほとんど出てきません。浅野さんの作品は基本内陸で、基本都市と田舎の対置を続ける入れ替わらない「君の名は。」。みつは!!
 この本では、最後に鹿児島で自殺未遂するシーンで、正ヒロインの愛子ちゃんが殴られて前歯を折った結果、出会ったころの歯抜けの最期の笑顔を見せるという美しいシーンが備えてますねぇ。


 ああ、石川県で初恋の人と、海上の花火を見たことがあった。下半分は、海に反射して、魚は大丈夫かいな、と言っていた横顔が、わたしの人生のカバー裏を彩っているかもしれないね。

 みつは!!

 ページをめくると、落書きの星に彩られたふざけたあらすじ紹介などがあって斜に構えていると、次のページで高校の合格発表で満面の笑みでフレームに入る母娘がページに半分ずつ大きく描かれています。

 こういう客観視、現実のコラージュが悪趣味で、無責任なヒットアンドアウェイなのに、面食らわざるを得ませんな。


 プンは、合格もどこふく風で、その帰り道もセックスしたいなぁ、と詩的であります。
 一方で浮気者雄一は自死をたくらもうとホームセンターで出刃包丁を購入していますが、あまりどうでもよいなぁ。


 それよりもプンの卒業式、今までコピペで同じ表情を貫いていた担任の目に涙というカスみたいなシーンを挟み、愛子ちゃんとお別れのシーンです。

 ここまではエスカレーターで義務教育してきましたが、もはや人生の轍はここまで、これが最愛の人との最後の別れになるかもしれない。

 その描写を、空撮です。ドローンのない時代に。

 歩いているプンの変な縞模様の傘の横に、一部が折れ曲がった黒い傘がいて、それが愛子ちゃんなのですよ。

 愛子はじっと見つめている、その視線に答えずに無気力に進みゆくプンプンでありました。


 ここで結ばれるくらいなら、市原隼人にでもなっているわけで、ここでこのウォークスルーしてもらわなくっちゃ、つかず離れずの七夕伝説の本歌取りが成り立ってこないですね。

 なにより、愛子の傘は黒で、骨が折れてるんですよ。やりすぎぷんぷんです。愛子は前髪を眉毛でそろえていて、寂しい小動物のようなうつろな瞳です。これはとてつもなく男女構わず、恋の奈落にぶち落とす瞳であります。


 しかし、ここからです!
呆っとセックスしたいなど夢想していた童貞ボーイがまさかの展開に導かれます。
 諸説あると思います。私はここで、このまぐわりが必要だったかというと、物語の進行において、邪魔だったように思います。無気力な性行為は、のちに花火大会時に空きアパートで行うわけですし。

 まあ、鬱屈の大先輩となる雄一叔父の嫁と一発ヤるってのは、パンキッシュな響きがありますが、必要なのかなぁ。


 さて、私見はさておきです。

 雄一は、購入した包丁を、「うぃうぃ」としかここまでしゃべってこなかった、プン母の離婚調停を担当した弁護士・湯上(翠に言い寄っている)に差し出すも「君ほど暇じゃないんでね」と突っぱねられる。
 そして、タクシーに乗って自死を企てて海に参ります。

 ああ、カバー裏の海って。


 さて、カフェで雄一の行方について談笑したぷんはみどりとの帰り夜路。「私天文学部だったんだー」と言って、「星を見るのは今でも好きだなー。だって、星を見ている間は、現実を忘れられるから……」など陳腐なことをほざくみどりに対して、視力落ちたな、とほざくさらに陳腐なプン助は、被不倫女にかける言葉を探した末「雄一叔父さんきっと帰ってくるよ」という腑抜けたことばを放ちます。


 いや、こうも腑抜けに書かれているけれども、最終的には、こういうプンプンの素直なやさしさというのが評価されるというどんでん返しをもってくるので、何とも思いたくありません。


 素直な気持ちって、大方ゆがんだ人に対しては素直に出しても伝わらないし、素直を認識してしまうとまた伝わりにくくなるもどかしさの温床であります。
 素直は本当に貫きにくいね。

 そうこう時間をつぶしていても雄一は帰ってきません。雄一の慰謝料を工面するためもあり、離婚して狭すぎた一軒家を手放すと決めた、プン母とともにプンはさまざまな家でのくだらない、それでも今となっては愛のある家庭のワンシーンたちを昨日のように思い出しているうちに居眠り、夜、雄一を待つ翠がうら若きますらをであるプンの手を握る始末。

 裏番組で、雄一はタクシーに乗り込み海を目指します。タクシーの運ちゃんは元やくざらしく、死にかけたエピと奥さんにありがとうと言えずに先立たれたというお涙頂戴話を切実に話し、「あなたの100倍私は悪いことをしてきましたよ。あなたは帰りを待っている人がいるでしょう。こんな場末にタクシーは来ませんよ」と気障に名刺を渡す本日のヒーローとなり、雄一はかなくも延命を希望してしまいます。

 そこに差し込む朝日、太陽神とはいつの時代もそうで、その大いなる熱量から黒点を探して汗ばむ運動を並行しながら、われわれはまだ見ぬ明日へと舵を切りつづけるリレーをしてきましたね。


 雄一は埠頭で朝日に涙し、プンらは、プン母が筋骨隆々の引っ越し屋さんに「抱かれたいわぁ」とぼやきながら家具を引っ越し屋さんに預けると、意外に部屋って広いのね、と喪失を自覚しました。


 ゴミの先出しというなぜか浅野作品で毎度強調されるイベントも過ぎて、しょうしょう自暴自棄な翠の買い出しをプンが必死の作り笑いで同伴しながら、翠は彼を喫茶店にいざないます。


 道中、雄一っぽい薄汚れた躯体のニット帽を発見したが、それは見間違いで後々十三名のカルト集団のトップに上り詰めるとしき(ペガサス)でした、彼は「未来教えます」とふざけたプラカードを首から下げて、「瞬間は、近いっっ!」と絶叫しますが、空を切っています。


 無駄なキャラクターを出さないというか、出せない病にでもかかっているような作者ですが、それはたっぷりの皮肉で、物語性を安易に許してしまうギミックでもあります。……初見のときは興奮しつくしました、御免!!


 準備中の喫茶店でプンは浅薄ながら必死の作り笑いを送り続けますが、人ひとりの孤独は表情筋などでは埋めようもなく、「こっち来て」とソファに押し倒されます。

 あああ、気分は、シベリウスの5番シンフォニー、第一ムーブメントオーラスのアレグロ!!三拍子を弦楽器がトレモロしつづけホルンが伊吹を吹き込む上に鳴り響くトランペット!!圧倒的な自然体験、名盤は、藤岡幸男×関西フィルハーモニーで!!!


 そして、ぷんを抱きしめながらつぶやくセリフがこの巻のハイライト。落書きで書き続けられたぷんぷんの腰から足までが、一瞬生身の人間として書かれます。ノーカットでお届け。

以下、翠



…あの人はさ、いくら理屈こねても、
結局、ただの女好きなんだ。

…わかってたけど、覚悟してたから一度くらいは許せるけど…

……また、あの人は逃げたんだ。

…何ひとつ成長してなかった。

私はあの人を変えてあげられなかった……

それが一番悲しい……

…違うかな……

ホントは、

…ただくやしくて、

あの人が一番苦しむ方法で追い込もうとしてたのかな……


もしかしたら今もこうして…

あの人がもっと苦しむ方法をどこかで考えてるのかもしれない。

…ごめん。

何言ってんだろうね、私……

へへ……

…なんかよくわかんなくなってきちゃった……

自分のこともよくわかってないくせに……


一人前に、私は他人とわかり合える気がしてたんだ……

……ね、プンプン……

一番大切なものって何?

これだけは絶対信じられるものって何?


もし、それを見失ったら……


きっと自分も見えなくなっちゃうから……


…やっとわかったんだ…


私にとって夢の実現なんてただの通過点だったんだって。

だって私、ホント楽しかったんだもん。四人で一緒に暮らしてるのが。


……ねぇプンプン…

これからはお母さんともっと仲良くしてあげてね……

あの人はあまのじゃくだけど、実はすっごく寂しがりだから……


…プンプンはこれからどんな大人になるのかな……


…私、ホントは少し心配してるんだ……

…ゴメン…


ちょっとだけ……


…いい?


………ダメなの…?


ちょっとの間だから……

じっとしてて……

 雄一の放蕩に落胆し、寂寥を募らせた翠から半強制的に一物をつかまれ、その恥部に挿入されるプンプン。一度は拒否するも、及ばず。


 童貞卒業の一発の際に、思い浮かぶは、折れた傘抱く愛子、田中愛子。
 完全なる敗北。


 繰り返される、相互理解というテーゼは、二重らせんのようにだらしなく、誠実に絡み合う人間模様は、雨に打たれるくもの巣であるとか、今にも消えそうな打ち上げ花火の残像とか、そういった平等な虚無感のミクロコスモスで、一瞬でもうつろな目をしたことがある常人にとって、心地よい共感枕だと、思います。


 愛子もわがままさが強靭でさえなければ、こうなっていたかもしれない。
 プンにもう少しこじらせない行動力があれば、プン母に行動力がなければ、矢口先輩に清純さがなければ、and more.


 希望の先に虚無があり、虚無の先にまた希望があるような、メビウス、いやエッシャーのだまし絵だ、らせんの中で、年を取り、楽天的に見れば、また子孫らがそのらせんの上で、未来に向かう。悲観的に見れば、無価値一択。


 だから、一人でらせんは嫌だから、頭の先からつま先まで、だれかと完全に分かち合うことで達成される生をいけにえにして得られる死は、自己満足だけれども、のんきな他者の、だれとも交わろうとしないで死んだのんきな他者の、命とは比類なき大往生だと、言い張るのでしょう。

 人の、間と書いて人間。あなたは人間ですか。


 生膣の快楽を思い出そうにも、本望でないむなしさ。自分の影を追って、影に話しかけてただ茫然と帰宅すると、浮気中を示唆する母の置手紙を見て、それで自殺を決意してベランダに足をかけるも、死ねずに涙ぐむ青年は、もはや迷宮にいること自体の苦痛が逆行して快楽と変換されております。


 母は、巨根だけが取り柄の上司の浮気に付き合いますが、「奥さんと別れてよなんて、言わないよね、そんな小さく収まる器じゃないもんなぁ」と屈託ない笑顔でバカにされて逃走してしまう始末。


 性欲さえなければ、と、いう議論はストア派から脈々とつづくくせに打ち砕けぬエゴとエゴのチンポコゲームでありまして、さらにさかのぼりアダムとイブの時代からぼくたちはミスターアンドミスチルドレンでありました。

 さて、プン並みにこじらせているものの、怖いもの知らずさと、あんまり性欲がないことによって一風変わった転落からの再生を遂げるプンの同級生関君が、「社会なんて倫理さえ度外視したら殺人だって何が悪いんだ」「みんなが幸せになることなんてやっぱ無理じゃんねー」とベンチで暇つぶしております。高校には進学しませんでした。

 そこに関君が同伴中、助けられそうだったがその母を交通事故でなくし、関の必死の罪悪感由来のマインドコントロールによって、亡き母の幻想を見続けている孤高の男児・清水君がやってきて、遊ぼうと、飄々としております。


 先までの議論すべて、金が解決するじゃんと早とちりにBダッシュし始めた関君に連れられ、怪しいバイトをしようと、「なんでもや」という張り紙の電話番号を清水の番号に書き換えて、金儲けを待ちます。

 清水は、以後プンの理解者(?)となる不動産屋の社長に連れられて、プンが愛子探すため住むことを決める部屋に、そこで孤独死した老人の遺体を片付けにいく羽目に。 


 関君は、結婚式間近で浮気されて破談になった元婚約者を殺したいというOLの頼みを聞くために、大金をもらって、人を殺そうと付け回します。
 たったの、電車のホームでも人の命は奪えるなぁ、と、逆説的に人の命に対する自分の評価を感じて未遂、OLを慰めようとしたら水をぶっかけられてあっけなく終焉する。


 一方、ビッグボーイ清水氏は、先の仕事内容をつげられるや否や失禁して、退散して、さきほどは翠が雄一と間違えたホームレスとしきにつかまり、超ひも理論によると、宇宙は壮大な一つの旋律に書き換えることができる、その理論を応用すると、「7月7日に地球が滅びる!!!」と宣告されます。

 清水はいったんは不審者に逃走するものの、君にしかできないことがあることを知っているよ!とカルトパワーワードが発動され、関君に半強制的に面倒みられ、母はよくわからず、みんなが見えないうんこ神なるものを信じていた清水氏は、反応してしまい、これを運命の出会いの萌芽としてしまいました。

 
 人間の命の重さへの価値観も、その人がどんなイベントに出合ってきたか、かもしれません。

 一方、この巻ラストエピソードは、プン氏。進学校に入ったつもりが、軟派なやつが多く、カラオケで酒飲むなど法律を犯すヤンチャボーイヤンチャガールに囲まれて浮いておりました。

 そこで同じく、浮いていると自覚症状のオマセなガール、蟹江妹(処女、ピュア)と一緒に抜け出すという破廉恥な世界線に巻き込まれてしまうのです。


 そこで清水と関君とニアミスしながら、ペガサスことホームレスとしき元気いっぱいは、その2グループの近くの平屋建ての屋上階で、『翼をひろげて』に酷似した世界の運命を決めるらしいメロディを合奏しております。


 いろいろを失いかけたプン氏、翼をひろげてとは永遠のマドモワゼル田中愛子とも思い出があったはずなのに、今や眼前の処女に五里霧中、旋律など耳にも入らず、高鳴る自分の胸の鼓動を伴奏にして、週末デートに誘っていきます。

 なんという単純な突き押し、貴景勝関も休場している場合ではありません、このおやすみ場所。


 二人だけの秘密の花園への進軍、学校でデートの詳細をアートにしよっかなんて詰めていくなかで、もはや恋心は出来事が規定するものと勘違いしているプン氏。


 かたやプライベートでは大舟の祖父が逝ってしまい、餞に参ると、童貞を奪っていった翠氏が当たり前のようにいました。

 死体の横で、陰茎をさすられた記憶を思い出しながら、過去にばかりとらわれ、近くのものが見えない苦しくも楽な生き方を惰性で生きているプンプンは、翠と雄一が入籍したことを告げられるもどこ吹く風。

 「いますっごく幸せだから わかるよね?」


と器の小さな口封じを迫られ、「この人のクリトリスをむしりとってドブに捨てたらどれだけ気持ち良い」か夢想するだけして、帰宅。帰宅途中に寂しがりの母に対してもそっけない態度を貫徹しているので、ヒステリーに巻き込まれるくだりで、親子の距離をある程度開けております。


 次の巻で母親死ぬので、喪失感を演出する意味もあるのでしょうが、ここも複層的で、面白いです。


 翠からもらっただるまのキーホルダーを地面にたたきつけると、これはとしき率いるカルトの世界終焉の予言に出てくるダルマと重なるように描写されてお開き。

 としきが何かを宣言して、終止線であります。


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 起伏という蜜。


 本日もありがとうございました。


 これっておもしろいのかな。わたしは、おもしろく、やらせてもらっています。

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