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今の仕事に「やりにくさ」を感じているデザイナーはノベルジャムに参加するといいと思う

ノベルジャム2018秋の参加受付が始まりました。ノベルジャムとは、2泊3日の制限期間内に小説を一本執筆し電子書籍での出版までを行う、いわば出版ハッカソンです。作家あるいは出版人のためのイベントと思われるかもしれませんが、実はこれ、デザイナーが存在感を強く発揮するイベントでもあります。(ノベルジャムについての詳細はこちら)

本稿の趣意を手短に書くと、表題の通り、特に今、目の前の仕事にある種の「やりにくさ」を感じているデザイナーの皆さんにとっては、楽しいことだらけのイベントなので是非参加したほうがいい、というデザイナー向けのノベルジャム推薦文です。

ノベルジャムは当初、「編集と作家」が核となるイベントでしたが、商品としての書籍、その品質とPR実践なども全体としての評価対象になって以降、デザイナーが非常に重要なピースになりました。私は第二回にデザイナーとして参加しましたが、これがまた実に刺激に満ちており、作家が主役のイベントかと思いきや、これは実はデザイナーのためのイベントではなかろうか、と思えるほど、デザイナーとしてできること、やるべきことが多かった。
そんな、特にデザイナーとして印象に残っている事柄をいくつか。

①自分のデザインが作品の顔になる
私自身、仕事でパッケージデザインも手がけるので自分のデザインが世間に流通することは間々あるのですが、これが小説となると話は全く別で、物語の顔を作るというクリエイティブ作業は学ぶところが多かったです。たとえば、

②物語自体の執筆と「並走して」デザインを行う
通常の出版物であったなら、ほぼ原稿が完成の状態で、編集者からデザイナーに発注されると聞きました。ですがノベルジャムの場合、プロットの段階からデザインが動き出さなければ全く間に合わないので、半ば見切り発車で作品ポテンシャルを見積もることになります。だから執筆途上で方針が変わることもあるし、逆に制作途上のデザインが小説自体に影響することもあり得る。
作家という、デザイナーにとって殆ど異世界にいるクリエイターと、かたや「小説」かたや「デザイン」で呼応しながら一つのパッケージを作り上げていく。これが面白くないはずがない。

③発注者はチーム、つまり自分も含む
商業デザインは、当たり前ですが「クライアントができないことの代行」です。だから、これまた当たり前ですが、どんなに優れたデザイナーであっても顧客担当者のレベルによって仕上がりが大きく左右される。商業デザインにおいて、デザインはデザイナーのものではなく、あくまでクライアントの要求を具現するものです(まぁそこを提案して突破するのもデザイナーの仕事なんですが)。
一方、ノベルジャムで小説の表紙をデザインする事は普通の仕事とは異なり、クライアントは作品の当事者である、目の前にいる作家と編集者です。というかチームの一員である自分も含めるので、自身がクライアント側の一角も担っている。なので

④基本的にやりたい放題
強い編集さんであればデザインに対する要求も細かいかもしれませんが、ノベルジャムの場合、デザイナーは外注ではなくチームの一員なので、ことビジュアル表現については相応の発言力があります。作家さん編集さんと信頼関係を結べたら、自分の考えを、自分が美しいと思うビジュアルを、気兼ねなく存分に表現できます。
ゆえに、デザイン業界にありがちな「クライアントがアレだから」「営業がアレだから」といった言い訳はまったく通用しませんが、それだけに自由です。

⑤なんにせよ、確実に「売られる」
ここまで書くと、じゃぁ同人とどう違うのだ、て話になりますが、ノベルジャム作品は独立作家同盟の名の下に商品として各種ブックストアに並びます。市場に流通する商品つまり他の作品と競合する環境に確実に置かれますので、商品の品質を担保する、そのクオリティ感は当然のように必要です。そして面白いことにデザイナーとしての印税配分もある。自分のデザインした本がストアに並ぶのは、本職のブックデザイナーではない、出版の外側にいるデザイナーにとっては十分に特別な体験です。

⑥PRも含めて周辺ツールもデザインする
ノベルジャムは、小説自体の作品評価とは別に、実際の販売実績やPR、販促活動まで含めて最後のグランプリが決します。この、作品をリリースしてのちの活動で、デザイナーの出番が結構多い。
PR活動の舵を握るのは編集者ですが、編集とデザイナーが上手くかみ合えば、短期間に様々なプロモーションを実地に行うことができます。デザイナーの仕事としては、企画イベントを発信する際のクリエイティブ全般、LPの制作など様々ですが、何をしなければならない、というルールはないので、極論すれば全くやらずとも良い。けれど電子書籍のプロモーションはまだ手探りで知見が積まれていないジャンルと思うので、チャレンジするのは楽しいです。私の場合、チームとしてのマガジンの発行、オリジナルグッズの作成、リアルイベントでのマークやツールの開発などを行いました。

⑦いろいろな人に出会える
ひょっとしたらこれが一番大きいかもしれない。フリーランスで活動しているデザイナーであれば、出版界の方々はもちろん、他業種のデザイナーと知り合う機会だし、自身のプロモーション活動にも活かせると思います。
管理職に片足突っ込んだ私のようなデザイナーでも、様々な人に出会って刺激を受けるのは、実際の仕事にも非常に有益でした。

⑧デザイナーとして受賞のチャンスもある
前回第二回から、小説の内容はもちろん、連動する表紙のクオリティを評する事実上デザイナーのための賞が新設されました。おかげさまで私自身も受賞に与りましたが、このように作家だけでなくデザイナーにも賞が用意されているのも、一般の文学イベントとは異なるノベルジャムの特徴と思います。


さて。
こう書いて気づくのは、ノベルジャムに参加するデザイナーは、自分が主体となって商品開発から販売にわたるクリエイティブ全域を支配しなければならない、という点です。もちろん、すべてのデザイナーはすべてのデザイン現場において、そのような姿勢でいるべきですが、現実の仕事はそううまくいくモノばかりではない。
特にスペシャルなスーパーデザイナーやキャリアのあるクリエイティブディレクターでない限り、受注したものを要求水準を満たす品質でクライアントに返すのが、普通のデザイナーの仕事のありようです。だけど、もっと根本の部分で考えを実践できれば、さらに良いコミュニケーションが開発できる。
私が「今の仕事にやりにくさを感じているデザイナーはノベルジャムに参加した方がいい」と考えているのはそこです。

デザインという仕事は、その守備範囲も含めてすでに節目を通り越して次のフェーズに入っていると感じます。
基本は受注産業のデザイン業ですが、顧客の視点に立った課題の発見とその解決に向けたアプローチをデザインの側から発信する、いわばデザインコンサル的な働きは、今後のデザイナーの生存戦略として有力です。商品開発の内側に入り、商品のアウトプットから販促、PRまでフォローするノベルジャムは、そのようなデザイナー体験ができる場でもある。面白いだけでなく今後求められるデザイナー像のヒントがあるので、興味のあるデザイナーの方は是非エントリーして欲しいと思います。

(「ノベルジャム2018 参戦記」などでググれば面白い話がたくさん出てくるので、参加を検討している方は色々と読んでみて、イメージを膨らましてください)

というわけで8月18日、トークイベント「本とデザイナー」に登壇いたします。ノベルジャムを中心に、出版の外にいるごくフツーの商業デザイナーが、出版界でも普通でない出来事に出会ってどうなったかをお話する予定です。


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