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ノベルジャム2018作品の表紙と電子書籍におけるデザインのこれからについて

ノベルジャム2018も終わり、作品は次のフェーズ、すなわち販売の方にシフトしています。文芸作品を競う大会なので著作それ自体が評価対象になるのは当然ですが、今回初めて公募されたデザイン部門へ言及は、あまり多くありません。確かに極めて高い専門性を持つデザインという領域を評するのは簡単ではありませんが、それでも今回、公募デザイナーの手がけた表紙を並べてみると色々とわかってくることもあるので、それら考えたことを書いていこうと思います。

特に私の学びとなったのは「作家性とデザイン性のバランスについて」です。これは自分が作家性をほとんど伴わない、ADやSPのデザイン、というよりむしろディレクション側であるので、自分の制作スタイルへの自問という観点からも今回多くを学べたことでした。

もう一つ、販売開始からの動きの中で感じた、低価格帯電子書籍の購入決定における仮説インサイトです。タイトルから中身が想像できるものは検討から外す、といった購入者の意見は一見エクストリームな考え方ですが、この点を考慮してデザイン上どのように情報設計ができるのか、一考の価値はあると思います。

また上記の課題とも被るのですが、電子書籍におけるアオリ帯の有無について。これは今回デザイナーで参加された波野發作さんが得意とするデザイン戦術で、私も基本的には必要と思っているのですが、出会い頭に本と出会うリアル書店と違い、販売側が前段から購入動線を設計しやすいWebの場合、デザイン上果たして必要なのか、という議論がありました。これは販売戦略とも密接に絡んだ問題です。

商品パッケージはそのまま、消費体験の予感を伝えなければなりません。その伝では昨今の、特に食品のパッケージなどはスペックや官能ワードの羅列で、パッケージ自体がほとんどPOPと化していますが、翻って電子書籍の場合はどうなのか。
読書という体験価値をどう伝えるのか、カッコよければいいのか、中身の説明にちゃんとなっていればいいのか、購入に至るプロセス全体で考えた場合の表紙の情報はどうあるべきか、など、電子書籍のデザインについて論点はたくさんあるように思います。

デザイン、特に商品の販売に関わるデザインの場合、デザインそれ自体が何かの価値を持つものではなく、使われたり、顔になったり、情報を渡したりするコミュニケーションの手段であるので、ノベルジャムの現場でこういったものの開発を目的としたデザイナー公募が登場し、セルフパブリッシングにおけるデザインの役割について議論が進むのは本当に良いことだと思い、思わず筆をとりました。

ノベルジャム2018 チームC:デザイナー参加 sugiura.s


注)筆者はデザイン関係のいち中間管理職の者で、この意見がデザイン業界一般を代表するものではありません。また文中デザイナーと書いた場合基本的に「グラフィックデザイナー」あるいは「グラフィックデザインを担当する人」のことです。デザイナーとイラストレーターを両方こなす方の場合、フェーズに応じて「イラストレーター」と表記する事もあるやもしれません。

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