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ノベルジャム回顧録① チームビルドとふくださんのこと

【手短に言うと】 NovelJam2018秋、あれから一ヶ月。狂った祭りのテンションはだいぶクールになり、衝動的パッションは既に去ったゆえの思い出回顧をしようと思い立ちました。特に「よかったこと」を色々と列挙していくつもりです。

デザインノートの方は「一人称私、ですます」ですが、回顧録は「一人称ぼく、だ、である」に統一します。
というわけではじめよう。まずは初日の様子はどうだったかな?

3日間を通して一番緊張したのは「チームビルド」だった

前回ノベルジャムに初めて参加した時、チームビルドは白票を投じて運を天に任せた。JAMを楽しむという思いももちろんあったけれど、実際のところそれはクライアントを選ば(べ)ない商業デザイナーのプライドによるもので、どんな人と組もうが100%の仕事を渡せるぜ、という矜持を明らかにすることで信頼を勝ち取る「戦略的白票」だった。で今回はどうしたかというと、選んだ。選んだ、編集ふくだりょうこさんを。

誰かを能動的に選び結果を待つ、というのがこれほど緊張するものだとは思わなかった。思えば前回の方がノホホンとしていた。運命を受け入れる、というのは一見強いように見えて実はマインドとしてはラクで、シュレティンガーの猫よろしく最後まで可能性は束になって箱の中にある。しかし指名してしまったら、その時点で束の大きさは猛烈に減少する。選んだ未来に責任を持つ事は、すなわち可能性の束を自ら捨てることであり、そのストレスがとても強かった。
いやマジで緊張したし、投票用紙に書く手が震えた。

なぜ、編集は彼女でなければならなかったのか

今回のぼくのテーマは、著者の考えている自作品へのイメージに別の角度から別の価値を放ってバトる、というものだった。極論するとデザインを小説に合わせない、自らの作品性を(それがあるのかどうかはさておき)合わせていくよりぶつけていきたいという極めて傲慢な思いがあったのだけど、それを支えてくれそうなのが、ふくださんだった。なぜか。

ふくださんは前回著者として参加したNovelJam2018のグランプリ受賞者だが、受賞作品であるREcycleKiDsは、オリジナルの書影はもとより販促として展開される一連のデザイン設計がとてもうまくできており、これを体験しているふくださんは、デザイナーに対する信頼の度合いが、他の編集者の中でも高いのではないか、と予想できた。

信じて任せてくれるだけでなくノベルジャムにおけるデザインの役割、すなわち「デザインは装飾ではなくメッセンジャー」であり「賞レースを走る作品世界全体の意匠の設計」であり「考え方の視覚化」である、という点なのだけど、その点についてぼくの知る限り高い理解を持っていそうな編集は彼女と、波野撥作さんの二人のように思われた。だから用紙に書き込む時は非常に悩ましかった。
あと二人、天王丸景虎さんとみかんさんも、悩んだ。このお二人は、瞬発力というかJAM感覚がちょっと異常な人たちなので、イベント自体がきっとものすごく面白くなるだろうな、という素敵な予感に満ちていた。それでも初志貫徹、波野さんとふくださんの二択に絞り、悩んで悩んで悩むことしばし。

熟慮、というほど時間もなかったのだけど、やはり編集指名はふくださんに決めた。というか最初から、実のところイベント開始のかなり前に「組むならふくださん」と決めていた。だから現地で悩んだのは「ふくださんに投じること」ではなく「ふくださん以外に投じないこと」に対する妥当性の検討だった。

波野さんと仕事をしたい、という気持ちはとても強かったし、彼ほど勝負への執着がハンパない編集もいない。デザイナー選定については僅かでも勝率を上げるため計算できるデザイナーに投じるだろう。であるならば(一応山田賞受賞の)ぼくを選んでくれる目はある。ぜひ一緒のチームになりたかったし、そうなったら手ぶらとかありえないし、仕掛けが天才的に多彩なのでGPまでのシーズンが猛烈に面白いんだろうな、と思いつつも、それでも、ふくださんにマルをした。

ノベルジャムにおける男女比問題?

今回NovelJam2018秋に参加した著者の男女比は「男8:女8」の半々、編集者は男7:女1、デザイナーは男2:女6、でも一部は遠隔なので会場では事実上男1。
ゆえにデザイナー&編集のペアリングは一組が「男男」になるものの、普通にシャッフルしたらその他は「女男」のペアになる。のだが、そもそも数の少ない「男のデザイナー」であるぼくが「男の編集者」を選んだならば、男男コンビの大変にむさいチームコアが二つ、誕生することになる。いやもちろん代わりに「女女」の可憐なチームコアも同時に誕生することになるのだけど、アンジェロさんのようなイケメンならともかく、波野さんとぼく、という激しくおっさんくさい圧力塊を会場に出現させることに躊躇いを覚えた、というのも編集者の選択に影響を与えた、ような気がする。

軽く嘘をついた。理由はそれだけじゃない。
組みたいと思っている編集候補の筆頭がふくださんであった事に変わりはないのだが勿論それは「組みたい著者」とセットのことだ。そして事前のリサーチから、ぼく自身が、できれば組みたいと願っている著者が二人おり、それは藤宮ニアさんと森田玲花さんの二人なのだった。
今回、著者は16人中15人が初出場である。どのようなものを書くのか、noteに記された自己表明と、知り得る過去作を読んでみた限りこの二人がもっとも飢えていると思えた。上手下手の話ではなく、ある種渇きのようなものが趨勢を決めるのは、前回の参加で身にしみていた。出場する著者16人は勿論、それぞれに切実な飢餓を抱えていたろうし、それは皆それぞれに尊いと思う。なのだが、極めて主観的にぼくにはこの二人の持つ渇きが、なにやらとても美しく見えたのだ。だから、できるなら組みたいと思ったし、なればこそ二人がどの編集を選ぶのか、という読みも多分にあったことを白状しておきます。

さて結果論ではあるけれど今回のチームビルドにおける男女比は結果とてもバランスが良く、デモグラフィック的な部分が平均化するというのは作品の突出具合に評価を特化できるので実はいいことなんじゃないか、と今は思っている。前回のタニケイチームのような「女子部」のようなグループがあっても勿論それは面白かったと思うし、仮に今回波野さんが率いているゴメラのデザイナーがぼくであったなら、アウトレイジ的な全員おっさんがもたらす得体の知れない未知の価値が生まれた可能性もある。がともあれ、それらはもはやifだ。

で結果は「ふくだ&杉浦」ペアになりました

ありがたいことに、ふくださんもぼくの事を指名してくれていた。
実は結構不安だった。ぼくが一方的にふくださんにラブコールを送ったとしても、向こうから選ばれなければ成立しない。可能性としてありそうなのは「ふくださんが白票を入れる」という展開で、そうなれば唯一の女性編集者を指名してくるであろう他の女性デザイナーと競合する確率が極めて高い。じゃんけんは避けたい。弱いから。
そうしてペアリングが決まった時は思わずガッツポーズをしたほどだ。ふくださん曰く「すぎうらさんは読んでくれそうだから」とのことなので、よーし、校正や編集のサポートをする代わりにデザインはのびのびとやらせていただこう。

そんなわけでノベルジャム2018秋は走り始めた。


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