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「三つ子の魂百まで」は本当?

「三つ子の魂百まで」「雀百まで踊り忘れず」等、世間的には人の性格は大きく変わらないもの、という認識が一般的なようです。果たして学術的にはどうなのでしょうか?以前こちらの記事で人の性格に関する心理学研究の紹介をしました。今回は性格の変動に関するこれまでの研究を総括した(メタ・アナリシス)最新の論文(2022年発表)を紹介します。

結論

総じて見た時、人は18-25歳の間に誠実さ(Conscientiousness)、精神的安定性(Emotional stability)、協調性(Agreeableness)が大きく成長する傾向がある。
25歳以降、協調性(Agreeableness)・外向性(Extraversion)・新しい経験への開放性(Openness)は比較的安定し、年を重ねるにつれて緩やかに減少していく傾向がある。
誠実さは総じて40歳前後まで伸び、それ以降は減少していく傾向がある。
精神的安定性は人生を通して上昇していく傾向がある。

上記の通り、性格の要素(誠実さ・外向性等、ビッグファイブ理論に基づく要素)はそれぞれ異なる変化の傾向があるものの、それぞれの相対的な関係は20歳前後である程度安定する傾向がある。

前提:五大性格モデル(The Big Five Personality Model)

この論文は人の性格が以下の5つの要素によって構成されるとする、五大性格モデルをベースとしています。

・誠実さ(Conscientiousness)
・協調性、調和性(Agreeableness)
・外向性(Extraversion)
・新しい経験への開放性(Openness to experience)
・精神的・情緒的安定(Emotional stability)

参考リンクはこちら

研究手法

2005年から2020年の間に出版された、性格の経年変化に関する研究(N=465)の結果を統計的に総括した(メタ・アナリシス)。

結果・考察

①総じて、性格は18歳から25歳の間に最も大きく変化する傾向が見られる。特に、この時期に誠実さ・精神的安定性・協調性が大きく向上する傾向が見られる。これは大人になるにつれて精神的に成熟する様を表していると考えられる。

②25歳を過ぎると、それまでと比べて性格の変化の度合いは小さくなる。特に協調性、外向性、開放性は年を重ねるにつれて緩やかに減少していく。誠実さは40歳ごろまで上昇し続け、その後減少していく。これらの傾向の原因として、以下二つの仮説が挙げられている。
-年を重ねるにつれて、健康への支障や家族・友達との死別などの影響で、社会との関わりが減っていくため(協調性・外向性・誠実さの減少)
-年を重ねるにつれて、体力・知力に高い負荷をもたらす新しいタスクに取り組むことが徐々に難しくなるため(開放性の減少)。

③精神的安定性は年を重ねるごとに上昇していく傾向が見られる。これは年を重ねるにつれて、若い時に比べてより短期的・現実的な目標やゴールを設定する傾向が高いため、より満足感や達成感を得やすいからだと考えられる。

④それぞれの性格要素を相対的に比較した時の安定度(5つの性格要素の大小の関係)を見ると、20~25歳ごろに安定度が頭打ちになる傾向が見られる。

留意点

複数の国の研究をベースにしているものの、英語圏の研究が比較的多くなっています。
こうした心理学の研究の多くが便宜上、人口の中でも比較的裕福、または社会経済的に安定している人々を被験者として招集している傾向があるため、結果に偏りが生じている可能性があります。
あくまで全体としての傾向を総括したもののため、個人差はあります。(例:25歳を過ぎると必ず開放性が下がっていく、ということではありません。)

編集後記

どうやら「三つ子の魂百まで」よりかは、「二十五歳の魂百まで」の方が適切そうですね。性格の要素によって変化の傾向が異なるのも面白いと思いました。こうした性格の変化の要因に関する研究はまだまだ発展途上ということで、環境や教育等の因子がどのような影響を与えているのか(はたまた遺伝子がどの程度の影響を持っているのか)ということに関して、今後解明されていくことに期待したいです。

文責:山根 寛

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過去記事のまとめはこちら

Bleidorn, W., Schwaba, T., Zheng, A., Hopwood, C. J., Sosa, S. S., Roberts, B. W., & Briley, D. A. (2022). Personality stability and change: A meta-analysis of longitudinal studies. Psychological Bulletin, 148(7-8), 588–619. https://doi.org/10.1037/bul0000365

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