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「デキる人」の性格とは?

スゴ論では心理学に関連する論文を頻繁に紹介していますが、一般的に「心理学」という言葉を聞くと、「性格診断」を想起する人が多いのではないでしょうか。就職活動に使われるSPIテストから、飲み会の席に欠かせない血液型診断まで、日常の中でも私たちが性格診断に触れることは意外と多いですよね。こうした性格診断の中には科学的な根拠がないものも少なからず存在しますが、かたや立派な学問として人の性格について考察した研究も存在します。今回は、人の性格に関する研究の概要を要約しながら、特に学習や仕事に役立つとされる性格内容に関して紹介していきます。

結論

人の性格は大きくわけて以下の5つの要素によって構成される:
・誠実さ(Conscientiousness)
・協調性、調和性(Agreeableness)
・外向性(Extraversion)
・新しい経験への開放性(Openness to experience)
・精神的・情緒的安定(Emotional stability)

このうち、仕事や学問において成果を収めるうえでは、誠実さが重要だとされている。

五大性格モデル(The Big Five Personality Model)

人間の性格に関する研究は古来より行われており、数多くの研究者によって人の性格の特徴や違いを表現するための様々なモデルが提案されてきました。現代においてもこうしたモデルは更新され続けていますが、1980年代以降、心理学者の間である程度定説として認められているのが、「五大性格モデル」(Big Five Personality Model)です。このモデルは名前の通り、人の性格が以下の5つの要素によって構成されるとしています。(研究者の派閥によっては各要素を別の呼び名で呼ぶこともあります。)

・誠実さ(Conscientiousness)
・協調性、調和性(Agreeableness)
・外向性(Extraversion)
・新しい経験への開放性(Openness to experience)
・精神的・情緒的安定(Emotional stability)

各要素と関連する特徴

・誠実さ:
>計画性、慎重さ、責任感、勤勉さ等
・協調性、調和性:
>礼儀正しさ、柔軟性、他者への信頼、寛容性、思いやり等
・外向性:
>社交性、積極性等
・新しい経験への開放性:
>好奇心、創造性、独創性等
・精神的・情緒的安定:
>穏やかさ、心配性、短気、感情的等

「デキる人」の性格とは?

性格に関する研究の中でも、「仕事や学問において成果を出すために重要な性格はあるのか?」という質問は古来から注目され続けていました。結論から言うと、この質問への答えは「誠実さ」です。仕事の分野や内容にかかわらず、個人の誠実さはその人の仕事のおけるパフォーマンスと比較的高い相関性が期待できることが数多くの研究によって立証されています。教育の分野においても同様に、誠実さが高い生徒ほど高い学習成果を示す傾向があることが繰り返し示されています。

もちろん、仕事やタスクによっては他の性格の要素も重要になってきます。例えば、営業職などクライアントとのコミュニケーションが重要な職種においては、外向性が重要となることが予想されますし、同僚とのチームワークが求められる職場であれば協調性、調和性が高い方がより高い成果を挙げられることが予想されます。

性格は環境によって変えられるのか?

こうした個人の特徴についての研究に必ず付きまとう議論が、「遺伝子 VS 環境」論争です(Nature VS Nurture)。平たく言うと、「しつけや教育によって人の性格は変えられるのか?」という疑問ですね。残念ながら、この質問に対する明確な答えは出ていません。 しかし、間違いなく言えることは、「人の性格は100%遺伝子によって決まるものではなく、100%環境によって決まるものでもない」ということです。その程度はわからないにせよ、遺伝子・環境共に影響を何かしら与えるということですね。特に幼少期におけるしつけや、コミュニケーションの取り方はその後の子供の発達に少なからぬ影響を及ぼすというのが現状の定説です。

編集後記・性格について考える上での留意点

いうまでもなく、このモデルは人の間に優劣をつけたり、性格に白黒をつけようとするものではありません。例えば、「あの人は礼儀正しいので、思いやりがあるはずだ」「彼は慎重でないので、責任感も低いに違いない」というロジックは成立しません。また、状況や文脈によって、個人が示す性格も変動することも指摘されています。例えば、仕事の中では非常に強い責任感を示す一方で、プライベートでは自己管理が苦手な人は珍しくないですよね。

(ここからは筆者の持論であり、少し説教臭くなります)
研究者目線でいうと、巷で見られる性格診断や性格に関する議論はこの観点が抜けがちだな、と感じます。例えば、「5つの性格要素がある->人は2^5=32タイプに分類できる->あなたは〇〇タイプ、私は××タイプ」のような性格診断は珍しくありませんが(一流企業の中でも人事ツールとして採用されているようなものもありますよね)、こうした診断や思考はタスクの内容・環境・状況等のあらゆる重要な変数を見過ごしてしまいがちです。自分への理解を深めるうえではこうしたツールは有用かもしれませんが、「私は〇〇な性格だから××は得意、でも△△は苦手」等、性格診断が自分の行動をかえって制限するようでは本末転倒ですね。

文責:山根 寛

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過去記事のまとめはこちら

Barrick, M. R., & Mount, M. K. (1991). The Big Five personality dimensions and job performance: A meta-analysis. Personnel Psychology, 44(1), 1–26. https://doi.org/10.1111/j.1744-6570.1991.tb00688.x

Witt, L. A., Burke, L. A., Barrick, M. R., & Mount, M. K. (2002). The interactive effects of conscientiousness and agreeableness on job performance. Journal of Applied Psychology, 87(1), 164–169. https://doi.org/10.1037/0021-9010.87.1.164
Eisenberg, N., Duckworth, A. L., Spinrad, T. L., & Valiente, C. (2014). Conscientiousness: Origins in childhood? Developmental Psychology, 50(5), 1331–1349. https://doi.org/10.1037/a0030977


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