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コロナウィルスがもたらした生徒の学びへの影響

世界中で学校閉鎖やリモート授業などの現象をもたらしたコロナウィルスは、私たちの健康のみならず、生徒たちの学びを今も脅かし続けています。コロナウィルス全盛期の2020~2022年の間、生徒たちの学びにどれほど遅れが生じ、2023年となった今、その遅れは取り戻せているのでしょうか。アメリカ国内大手のテスト企業(NWEA、Northwest Evaluation Association)が実施した調査に関する最新の記事を今回は紹介します。

結論

2023年春の時点で、3年生~8年生の各学年において、コロナ前と比較しておおよそ2~9カ月分の遅れが生じている。
この傾向は高学年になればなるほど顕著であり、リーディングと比較して算数・数学において顕著である。
また、社会経済的地位が相対的に低い人種の生徒ほど、この傾向が顕著である。
学びそのものに遅れが生じているだけではなく、学びのペースもコロナ前と比較して遅れが生じてしまっている。すなわち、このままの傾向が続くと、コロナ前との差がさらに広がってしまうことが予想される。

調査方法

アメリカ国内で例年400万人以上の生徒に学力テストを提供しているNWEAが、その集計したテスト結果を元に調査を行った。
具体的には、
-現在の3年生~8年生の過去三年間(2020~2023)のテスト結果の変動の様子
-現在の3年生~8年生と、コロナ前(2016~2019)の3年生~8年生のテスト結果の比較
を調査した。

結果

①2023年度末の時点で、コロナ前の生徒と今の生徒の間には未だに大きなテスト結果の差が見られる。

上の図は現在の生徒の過去三年間のテスト結果(リーディング)の変動の様子を示したうえで、コロナ前に同学年だった生徒との成績を比較しています。濃い青い線が現在の生徒、薄い青い線がコロナ前の生徒です。”Cohort”は学年群を示しています。例えば、一番上の”5-7 Cohort”は現在の5~7年生のテスト結果を集計したものです。このグラフを見ると、コロナウィルスがアメリカ国内で深刻化した2021年の春からそれまでと比べてテスト結果が悪化したことがわかります。さらに、2023年のデータにおいてもその差は縮まっていないことがわかります。

下図の通り、同様の傾向は数学・算数においても見られます。

②この遅れを取り戻すには、何カ月分もの時間が必要だと予想される。

上の棒グラフは3~8年生の各学年ごとに、コロナ前の生徒とのテスト結果の標準偏差の差を示しています。例えば、一番右の0.27という赤い棒は、今の8年生とコロナ前の8年生の間では数学のテスト結果に0.27の標準偏差分の開きがあることを示しています。加えて、各学年ごとにこれらの遅れを取り戻すために必要と予想される授業の月数を折れ線グラフにて示しています。例えば、一番右の9.1という数字は、今の8年生がコロナ前の水準に戻るために9カ月以上分の授業内容を取り戻さないといけないことを示しています。特に高学年になればなるほど、授業内容に遅れが生じていることがわかります。

③社会経済的地位が相対的に低い人種の生徒ほど、学力低下の傾向が顕著である。

上のグラフは人種ごと(アジア系、白人、ヒスパニック、黒人)のコロナ前後におけるリーディングの学力変化を示しています。(”Elem”=小学生、”Middle”=中学生です)社会経済的地位が相対的に低いヒスパニック・黒人の生徒の学力低下がより大きいことがわかります。

算数・数学でも同様の傾向が見られます。

④コロナ前からテスト結果が悪化しているだけでなく、テスト結果の上昇のペースも悪化してしまっている。

このグラフは現在の3~8年生の各学年におけるテスト結果の成長率と、コロナ前の生徒のテスト結果の成長率を比較した時の数値を表しています。(例えば、一番右の-7%という赤い棒は、現在の8年生のテストの点数の上昇率がコロナ前の8年生と比較して7%下がってしまっていることを示しています。)3年生を除くと、どの学年においてもコロナ前と比較して学びのペースそのものが下がってしまっているということがわかります。

【留意点】
アメリカ国内の調査なので、他国において同様の傾向が見られるかはこの結果だけでは結論付けられません。
しかし、アメリカ同様2021年の春からコロナが急速に流行し、同様に学級閉鎖やリモート授業などの対応に追われた日本国内でも同様の影響が生じている可能性は全く否定できません。

【編集後記】
学力そのものだけではなく、学びのペース自体が落ちてしまっているとは、非常に厳しい状況ですね。このスゴ論では割愛しましたが、当レポートにおいては人種間の影響の差も調査しており、特に社会的・経済的地位が比較的低い黒人やヒスパニックの生徒の間ではさらに状況が深刻であることが指摘されています。日本国内においても、経済的状況・社会的状況によって生徒の状況に大きな差があることが予想されます。通勤・通学が今までのように解禁され、少しずつ「ポストパンデミック」と呼べるような社会に近づきつつあるのかもしれませんが、生徒たちの学びの回復にはまだまだ時間がかかりそうです。

文責:山根 寛

Lewis, K., & Kuhfeld, M. (2023). Education’s long COVID: 2022–23 achievement data reveal stalled progress toward pandemic recovery. NWEA. https://www.nwea.org/research/publication/educations-long-covid-2022-23-achievement-data-reveal-stalled-progress-toward-pandemic-recovery/

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