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親に対する私立学校の学費支援

日本でも生まれた環境による教育格差が問題視されはじめて久しいですが(日本の義務教育は不平等?)、公立学校の予算がその土地の不動産税を主な財源としており個別の地域や学校の裁量が大きく人種差別問題も根強いアメリカでは、驚くべきほどの教育環境の格差が存在します。その是正のために様々な施策が取られていますが、賛否両論が大きく割れている政策の1つに「スクールバウチャー」があります。限られた教育予算の割り当ては公立学校をよりよくするために使うべきでしょうか?それともバウチャーの形で直接お金を保護者に渡して競争原理に任せるべきでしょうか?アメリカでスクールバウチャーを導入した州での結果を俯瞰的に分析したBrookingsという政策シンクタンクのホワイトペーパーをご紹介します。

結論

学術的に堅牢な手法で行われた比較的新しい分析(ワシントンDC、ルイジアナ州、インディアナ州、オハイオ州)を横断的に分析した結果、バウチャーを使って私立学校に通った生徒は公立学校に通った同じような属性に比べてテストスコアが低かった。

スクールバウチャーとは

私立学校の学費など、学校教育に使用目的を限定したクーポンを家庭に直接支給する補助金政策。1950年代にアメリカ経済学者のフリードマンが提唱したことで広まった。政府が公立学校を直接支援するよりも私立学校間の競争を高めることで学校教育全体の底上げを期待するという市場原理的アイディア。

実験デザイン

政策シンクタンクのBrookingsが、効果測定が実施された複数のプログラムを横断的に分析した。
エビデンスレベル:メタアナリシス

編集後記

教育バウチャーの考え方は世界中で実施・検討されており、有名なのはアメリカのシカゴ、チリ、スウェーデンです。
教育バウチャーはアイディアは市場主義的側面が強いため、賛成派も否定もエビデンスよりも政治信条で意見を主張すること多いと感じます。日本よりも政策評価を実施する文化のあるアメリカですが、政策が過去のデータに基づいているとは限らないところが興味深いなと思います。

尚、効果がない、または逆効果だった原因の仮説としてよく言及されるのはcream skimming(私立学校側が生徒を選り好みする)や宗教学校(成績の良い学校ではなく親が信仰している宗教学校を選ぶ)アカウンタビリティの欠如などです。日本とは背景が大きく異なるため、日本でも同様にうまくいかないと結論づけるのは拙速に過ぎますが、導入を検討する際にはアメリカ、チリ、スウェーデンなど他国でどんな結果や問題があったのかを知っておく必要があるでしょう。

文責:識名 由佳 

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Do Vouchers Lead to Greater Learning? Depends Where (and When) You Look | Abt Associates. (n.d.). Retrieved December 22, 2022, from https://www.abtassociates.com/insights/perspectives-blog/do-vouchers-lead-to-greater-learning-depends-where-and-when-you-look


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