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#創作日誌4

5月21日
 ずいぶん長いこと伸ばしていた髪がいよいよ邪魔になってきたので切った。長髪は結えたりおろしたりできてその2度おいしさを嫌いじゃなかったんだが、暑くなってくると暑いし、汗疹もできてきてうんざりだし前述の通り世の中にイライラもしていたので、かなりエグく短くしてもらった。美容師さんは「なんだか失恋した女子みたいですネ」と言った。あながち間違ってないかも。はあ世界と相思相愛になれなさよ。この美容師さんとNETFLIXやHULUの「いま何がおもろいんすか話」をするのが好きだ。僕が観たドラマはたいてい彼女も観ていた。勉強家だ。僕は彼女のこと好きだ。でも近いうち辞めちゃうらしい。かなしい。はあ世界と相思相愛になれなさよ。

5月22日
 今日も打ち合わせが2件。1件は飴屋法水さんとの会合だった。飴屋さんを11月の新作公演に役者としてオファーしているからだ。飴屋さんは何度か範宙を観てくれていて、僕も飴屋さんの芝居を何度か観ていた。僕が彼といつかなにかやってみたいと強く思ったきっかけはシアターコクーンでやっていた「メトロポリス」を観てだった。あの作品の中で、飛び交うあらゆる真実の中で、僕はいっとう飴屋さんの真実を信じることができたからだ。

5月25日
 9回裏ランニングホームランでサヨナラ勝ち。1日を振り返ってみるとそんな感じ。
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(ここから先、体調不良と急激なやる気の減退から日誌があまり残っていない。が、観たものだけは律儀に記録していたのでそれらを中心に書く。並行して読書、執筆は続いてるけどメモに残してないので割愛)

5月26日
 恵比寿ガーデンシネマにてポールトーマスアンダーソン監督「ファントムスレッド 」を観た。もしもポールートーマスアンダーソンがSF映画を撮ったら、とんでもないことになるに違いない。SF要素のまったくないファントムスレッドを観てなぜだかそう思った。というのは、彼は、彼の完璧主義がために、いよいよもう地上の人間ドラマを撮り尽くしてしまったんじゃないか。ファントムスレッド のエンドロールをみつめながらそんなことを考えた。彼がSFを撮ったとて、起伏のあるいわゆるエンターテイメントにはならないと思うし、かといって哲学的すぎることもないだろう。でもファントムスレッド やこれまでのフィルモグラフィでみせた彼独自の視点は、背景が宇宙になったとしても損なわれないはずだし、映画史に例のないオリジナリティ溢れるものをみせてくれるような気がしてならない。僕が名のあるハリウッドのプロデューサーだったとしたら、私財はたいてもプレゼンする。驚くべきことに彼はまだ50歳にもなっていない。彼を筆頭に現代は素晴らしい映画監督が大勢いる。少なく見積もっても映画界は20年は安泰だろう。

5月28日
 ウェスアンダーソン監督「犬ヶ島」。彼の永遠のテーマだろう「父/父性の欠落」や「疑似家族」といった主題は今作にも健在。だからこそラストのたたみかけの雑なヒーローショーにまで、主題を深掘りしてほしかった。作家性が強すぎる監督なので、どうしてもフィルモグラフィを通してみてしまう。つまり作品単体でなかなか観れない。「それ前にやりきったはずだろ」と思ってしまうことがしばしばある。現代の「作家性強すぎ監督」の中で、フィルモグラフィを超えて作品単体でみせてくれるのはやっぱりウディアレンとかポールトーマスアンダーソンとかタランティーノとか、実はシュヴァンクマイエルは一見同じことをしているようで毎回全然違う。要するに僕はウェスのリスク承知の主題へのチャレンジを見たいだけなのかもしれない。そう思うのは僕もしがないひとりの作り手だからだと思う。もちろん、ヴィジュアル面は毎回素晴らしい。あんなの誰にも真似できない。
 ウェスアンダーソンの作品は、個人的には「ライフアクアティック」が一番好きだ。

6月1日
 デビッドリーチ監督「デッドプール2」@TOHOシネマズ日比谷。1より全然好き。アクションがめちゃくちゃよかった。実は今作がデビッドリーチ監督によるものだということを知らなかった。デビッドリーチの「アトミック・ブロンド」を僕はそんなに好きになれなかったのだけど、今作を観て再見してもいいかもと思った。僕はシナリオ、すごくよくできてると思った。というのはヒーロー映画を見るたびに興ざめしてしまう「どうせ最後には勝つんでしょ」感がなく、現代の世界で「当たり前に起こっていること」を当たり前に織り交ぜながら、本当は重苦しい現実を独特の「抜け感」で突破しているところがよかった。だが、一日経ってみると中身をまったく忘れている。嫌味のない軽さを獲得しているということなのだとポジティブに捉えてはいる。

6月2日
 夜、新宿花園神社特設テントにて唐組「吸血姫」を観劇。同じ演劇人として唐十郎さんをリスペクトしないわけがない。役者もみなたいへんにすばらしかった。確かかつて扇田昭彦さんが「私にとって唐十郎の劇世界は重要無形文化財です」というような言葉を残していたのを覚えている。その領域にあることをまったく疑問に思わない。我々は「残さねばならない」のだと思う。
 「昔々日本」でうすどんを演っていた大澤宝弘が出演していたので挨拶。銀粉蝶さんにご挨拶。去り際「劇団を大事にね」と言ってくれた。銀さんの言葉はいつも心に残る。

6月3日
 グレタガーウィグ監督「レディバード」@TOHOシネマズシャンテ。演劇にできそうな内容。というか、演劇だったのでは? 僕はあまり劇場で笑うタイプではないのだがレディーバードは終始笑いながら観た。けどラストがゆるいんじゃないかなと思った。あの主人公だったら「全然成長しなくていいから!そのままでいて!」と思った。でもそれは僕が男だからかもしれない。シアーシャローナンはやっぱりえげつない良い女優。僕は以前ブロードウェイでイヴォヴァンホーべ演出の「るつぼ」を観たのだがアビゲイルを彼女が演じていた。彼女の叫び声がなんだかいまでも時折反響する。

6月13日
 「卓卓と冠の、ごほっごほっ、ラジオ」の収録。まあよかったら聴いてやってください。

6月14日
 カレンダーには取材と書いてあるのだがさっぱり思い出せない。

6月15日
 六本木で打ち合わせ。

6月19日
 是枝裕和監督「万引き家族」を観た。僕は是枝作品も、是枝監督の弟子筋にあたる西川美和監督の作品も、僕が創作をする上での興味関心に近いところにあるような気がして、毎回新作が出るたびライバル店への覆面視察のようなつもりで観ている。僕は妻と映画を観ることはほとんどないのだが、是枝作品、西川作品はなぜか毎回彼女を誘って観にいく。その理由はなんだろう。たぶん「一緒に観た方がいい」映画だからだと思う。娘が大きくなったら、いつか特大のホームシアターで、家族全員で「万引き家族」を観るのだ。

6月21日
 朝から横浜で打ち合わせ。

6月22日
 昨日に引き続き、横浜で打ち合わせ。

6月23日
 宮城県へ。せんだい演劇工房10-Boxにて「その夜と友達」の記録映像上映会。のちにトーク。最寄が卸町という駅名。父が土産品問屋を経営しているので、卸の車やビルが立ち並ぶ見慣れた景色にシンパシー。

6月24日
 引き続き仙台。10-Boxにてワークショップ。いろいろ悪条件が重なって事前の参加人数の半分になってしまったらしい。僕は大人数のワークショップが苦手なので、減る分にはありがたい。どうしたって密になるから参加者のことをとても好きになれた。でもやっぱり内容に手応えを感じただけにドタキャンなどは残念だなあ。ワークショプに限らず、オーディションでもそうだし、もっとみんな約束したことは守ったほうがいいんじゃないかな。稽古期間中でも、おいしい仕事が来たらなんの相談もせず予定入れてしまう人もいるしさ。僕はできない約束は絶対にしたくない。「命かけてます」なんて、軽はずみに言っちゃだめだよ。

6月25日
 秋田にいる。昨日のワークショップ終わりに仙台でレンタカーを借りて秋田へむかっていたのだ。調べ物があるのだ。本編に深く関わってくるので今は何を調べたか伏せておくが、現地の人の手を借りて良いリサーチになった。
 午後、秋田自動車道を車で飛ばして岩手県西和賀の銀河ホールへ行った。僕は今年の2月に「いわて銀河ホール高校演劇アワード」のために「N島アカリは大丈夫」という戯曲を書き下ろしている。お世話になったのでその挨拶とリサーチも兼ねて。小堀陽平さんに会う。今僕がなにをリサーチしているかを彼に話したら、西和賀の"それ"をいろいろと教えてくれた。「一緒に行ってくれません?」とずけずけ言う僕に「あ、いいですよ」と快諾してくれた。彼と、たまたま同行した成田さんのおかげでここでのリサーチもたいへん有意義なものになった。北上市で一泊。

6月26日
 再び仙台に向かう。レンタカーの返却。のちに短距離男道ミサイルの小濱昭博さんと合流し、宮城県の"それ"をリサーチ。上映会に来てくれた小濱さんにリサーチのことを話したところ、ご好意でドライバーになってくれたのだ。じつはこの日の"それ"の収穫はあまり芳しくなかった。というのも前日の収穫が濃厚すぎて、ある程度"それ”についての全体像が把握できてしまっていたからだ。それでもこの日を良かったと思えるのは、道中車内で小濱さんとたくさん話せたからだ。
 東北で出会った人の余韻に浸りながら新幹線で東京へ。帰宅。

6月28日
 北先住BUoYで「スワン666」を観劇。開場中出演者の山縣太一さんが「やあ山本くん。来てくれてありがとね。いやあまいっちゃったよ」と話しかけてくれたところにお客さんが来て話が折れて、そのまま上演がはじまってしまった。なにがまいっちゃったんだろう。終演後も会えなかったので今度山縣さんに会った時に聞いてみたい。
 飴屋さんの作品を観た後は何を語っても野暮な気がする。ひとつ言えるのは「演劇に命かける」と軽々しく言えてしまう人は、飴屋さんを観て反省してほしいということだ。本当にそれだけ。一緒に作品をつくるのが楽しみでならない。

6月29日
 渋谷で打ち合わせ。のちにLABI YAMADAでミラーレス一眼カメラを購入!!! うおーーーー!!!

6月30日
 下北沢で打ち合わせ。打ち合わせばっかりしている。当然ながら無駄な打ち合わせは一度もない。すべてが本編に絡み合っていく。

7月1日
 ニューヨークで俳優活動をしている友達Ryan Barryが東京に来ているというので遊ぶ。久しぶりに人と遊んだ気がする。たらふく酒を飲んで、きわどい話もしつつ、ニューヨーク在住俳優のいまを聞けて、とても楽しかった。悪い言葉もたくさん教えてもらったぜありがとマザファッカー。

7月5日
 横浜で取材を受ける。

7月6日
 娘の保育園の夏祭り。ミラーレス一眼活躍。夜は焼肉。

7月9日
 朝からこれを書いている。ようやく過去がいまに追いついた。娘を保育園に送りがてらロイヤルホストで朝食、その後コーヒー豆を買う。丸山珈琲で深煎りの「ドミンゴモレト」と「エピフォニオ&ノエ」を100gずつ。それからずっと我慢していたもののやっぱり悩んでフレンチプレスを買ってしまった。帰って企画書を書き、晩飯を食い、これから執筆。さすがに今日のことだからいろいろと覚えている。いつだっていまだけは鮮明だ。そしていつを"いま"にするかが問題だ。

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