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来たるライブに備えて、最近はお稽古に励んだり通りすがりの旅人たちとトロルやゴーレムといったメガモンスターを討伐したりする日々を過ごしている。
先日、どうも大きい音でギターを弾きたい気分で、お稽古スタジオにエレクトリックギターを持っていくことにした。
防音完備のお部屋に入るための手続きを終え、アンプの電源を入れる。
響くリバーブ 、唸るジャパニーズファズ、僕の変なギターはギターらしく鳴り響いていたのだが、ジトリとしたものを感じて演奏を止めた。
僕が借りていたお稽古スタジオA2のドアにはガラスになっている部分があり、そこから出るジトリとしたものを辿ると全然知らない女の顔があった。
埼玉紅さそり隊に所属する魚の目お銀メンバーよろしくなバツ印がついたマスクをつけた黒髪の女、全身を認識することはできないが、体内にいる細胞全員にお銀のことを聞いても知らぬ存ぜぬといった回答しか返ってこず、さては部屋の内側から確認してなかったせいで気づかなかったけど、このドアの仕様なのかしらとまで考えたのだが、どうやらお銀はデフォルトでそのドアに張り付いているわけではなく、何か理由があってそこにいるのだということに気がついた。
外に音が漏れていたのか、変なギターを弾くセンター分けの生き物が珍妙であったのかは定かではないが、目があって少しするとお銀は去っていった。

そこから練習に身が入らず、僕はお銀に申し訳ないことをしたのか、はたまたお銀から侮辱されたのかも分からぬまま帰宅した。
お稽古スタジオは基本的に音が大きい。
そこにわざわざ苦情を言いにきたのだとすると録音や配信をしていた可能性がある。
配信なら、お銀スタイルにも説明がつく。
そういう芸風の方なのだということだ。
しかしながら、珍獣を眺めていた線が消えたわけではない。
己の珍味っぷりと淡々と真顔で書いていて親に申し訳なくなったので詳しくは割愛させていただくが、もはやお銀の目的を確認することは叶わないし、仮に特定ができたとして苦情だったら気まずい。
そこで元カノとの思い出が如く彼女のことを忘れようと思いつき、そのために別のことに集中すべくギターの弦を拭こうとケースから取り出して気がついたことがあった。
僕のエレクトリックギター、その名もSilvertone1448、つまりは銀のトーン1448。

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お銀は僕ではなく、仲間であるこのお銀を眺めていたのだ。
きっと彼女は仲間が珍獣の手によって乱暴に扱われているのを見て嘆いたに違いない。
ごめん、お銀、ごめん、Silvertone1448。
お詫びがわりに僕は生涯で初めてギターにお銀2号と名前をつけて、1秒後にSilvertone1448に訂正した。

おわり

貯金はせず、音源やグッズの制作などにあてたいと思います。 よろしくお願いします。