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泥の国のアリス❤5

    ”神の目をもって家を建て
              御仏の心をもって森を識る"


 森の中を虫虫から貰った簡単な方位磁石を頼りに、北の喫茶店を目指して歩いていたアリスですが、お昼からなにも食べていなかったのでとうとう空腹に耐えられず道端にあった切り株に座り込んでしまいました。アリスがぼうっと遠くを眺めていると、何か声が聞えてきます。

「ぎっこーんっ」
「ばっこーんっ」

おじいさんのような声が二人聞えてきます。

「おや翁あんなとこに女の子がいるよ?」
「こんな時間にかい?」
「ああこんな時間にだよ?」
「ふむそれなら会ってみよう」
「おきなっ!?うわっと!!勝負!!?勝負はどうするんだよ!!!」

 アリスが目をよく凝らして見るとその二人は、初老の男とアリスより大きなうさぎでした。しかも、こちらに気づいたのか二人は腕を組んだまま飛び跳ねながらずんずんこちらへやって来ます。アリスはどう逃げようか腰を上げるよりも先に初老の男が目の前に来ていました。

「やあ、お嬢さんこんにちは。小生はきのこを研究する者じゃが、目に入るものすべて調べたくなる性分でな。わけあってハートの女王と勝負しとるがゆえ目隠しをしておるのじゃ。」
「おきなっ!!!おきなっ!!!」
アリスは急にやって来た二人に言葉も出ず、ただただ茫然としていました。
「ほら翁怖がっているじゃないか?お嬢さん怖がらなくてもいいよ、僕たちは通りすがりの一人と一匹だよ。こんな時間に森に女の子が一人でいるのを不思議に思っただけさ」
さっきまで慌てた様子だった大きなうさぎが優し気な声でアリスに話しかけてきました。
「こんにちは...私はアリス。あの、その、泥の国の人たちから逃げているところなの。いまは、虫虫さんから北の喫茶店へ行くように言われて、そこへ行く途中なの」
アリスは恐る恐る一人と一匹に、泥の国から逃げていることを告げました。

翁と言われた初老の男はおもむろに右手を勢いよく地面へ振りかざすと、ぼわんとキラキラした白い煙があたり一面に昇り中から大人一人座れそうな大きなきのこが生えたかと思うと、翁はそのままきのこの上にあぐらをかいて座り出しました。
「ちょっと、君。その持ってるのは虫虫のかい?」
大きなうさぎが険しい顔をして聞いてきます。
「そうです。虫虫さんがくれました。虫虫さんを知っているんですか?」
大きなうさぎは神経質そうな顔をさらにしかめます。
「そうだね。お互い知っているがお互いの美意識が仲を悪くする関係といったところかな?良ければその茶碗を見せてくれないか?」
大きなうさぎは苦々しそうな顔から、最後にアリスに微笑みかけながらそう言い。アリスはそっと茶碗を大きなうさぎに渡しました。
「あなたたちはどうしてハートの女王と勝負しているの?」
アリスは気になっていた事を聞いてみました。
「うむ、小生きのこを知る者として諸国にも名が知れ渡っておるがゆえ他国に当たるハートの国からも女王が我を頼って来たのじゃが、なにぶん研究の方が忙しくてな、よき話も時には断らぬといけんのじゃ」
初老の男は誇らしげに話します。
「何言ってんの、翁はただ癇癪起こしただけでしょ?」
大きなうさぎは茶碗をぺたぺた触りながら、呆れたようにもらします。初老の男はムッとして黙ってしまいました。
「ああ、自己紹介が遅れたね。僕は建築家のアールだよ。こっちはきのこ学者の翁。僕たちは君が目指してる北の喫茶店の常連客さ。たしかにあそこは避難所としてはいいだろうけど建物が良くないし、店員も最悪だよ」
淡々としゃべるアールに翁はうんうんと相槌を打っています。
「それにじゃ、虫虫が関わっとるならもう事は済んでおろう。あの青虫はやり手だからの」
その言葉を聞いてアリスはとても明るい気分になりました。それとともに安心したのかお腹がぐう~と鳴り響きます。
「そうだのお嬢さんとの出会いを記念して、このきのこを贈ろう!」
そう言って翁は何もない右手からいきなりほのかに白く光るきれいなきのこを出してアリスに手渡しました。
「大切にしてくれたまえ」
翁は目隠しをしていますが口元から満足気な様子がわかりました。アリスは貰ったきのこの美しさに夢中で見入っています。きのこから甘そうなお菓子の匂いがしてきてアリスは思わずきのこをかじってみると、アリスはそのまま深い眠りについてしまい、座ったまま地面にバタンと倒れてしまいました。
「翁なにしてんの!!?その子きのこ食べちゃったよ!!!」
「はあ!?ワシのあげたきのこを食べる奴がおるか!!」
「相手は子どもなんだから注意ぐらいはしてあげないと。それより毒きのこじゃないんでしょ?」
冷静にアールは翁に聞きます。
「当り前じゃ誰が毒のきのこを渡すものか!せっかくの貴重な資料をわけてやったというのに食う奴がおるとは。仕方ない猫や」
「にゃーん」
翁は帽子を脱ぐと、帽子に貫通している猫に話しかけました。
「すまんがわしらはハートの女王との勝負があるのでな、先に行かねばならん。お主にこの子を任せたいのじゃがよいかな?」
「にゃーん」
「やれやれ、夜になればやっかいですよ。ちゃんと戻ってこれるんです?」
アールの心配そうな声に、猫はツンとそっぽを向きました。再び帽子をかぶると翁は何も言わずにアリス持ち上げ、少し草深い所に寝かしました。アールはアリスの茶碗と白く光るきのこをアリスの頭の近くに置き、猫が貫通している帽子は眠ったままのアリスのお腹の上に置かれました。
「お主この帽子の意味を知らんのだな?それもよかろうさあ行くぞ」
アールは心の中でやれやれと言うと、再び翁と腕を組みハートの城を目指して飛び跳ねるのでした。


❤6へ続く


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