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国・一宮労基署長 (ティーエヌ製作所) 事件

ポイント

業務中の事故により左眼球破裂した労働者が、労災保険法に基づく休業補償給付を請求するとともに、事故から約2年後に発病した精神障害について療養補償給付等の請求を行ったところ、事故から約2年後の発病であっても事故に伴う心理的負荷と眼球破裂の心理的負荷等考慮して業務起因性が認められた。ただし、その後の経過から就労可能と診断されているため通院休業日以外の休業補償は否定された

概要

経緯

 自動車部品製造を行うAは、平成24年10月に形成機等オペレーターとして取り出し機が製品を箱詰めする様子を確認するため脚立にのりも駆使していたところ、取り出し機のチャック版が移動してAの左眼球を直撃して頭部がチャック版と形成機に挟まれ出血を伴う意識消失となった。
 Aは入院後、左強膜縫合術、転院して左硝子帯手術を受けて退院したが、再手術や術後の左目疼痛を訴え続けた。再手術の繰り返しにより角膜内皮障害が生じ、角膜混濁、水疱性角膜症により悪化した。平成26年10月ごろは悪化中だった。
 平成28年に症状固定し障害一時金支給決定を受けた (障害等級8級1号)
 Aは平成13年よりアルコール依存・アルコール過剰摂取のうつ病ちりょうを継続していたが、平成26年11月に心因反応 (神経症性うつ病) とする診断書を作成後、平成27年11月には「外傷後ストレス障害」とする診断書を作成した。
 Aは行政庁に、左眼球負傷による休業補償、心因反応を理由とする療養給付及び心因反応による休業補償給付を請求した。
 なお、事故後最初に入院した病院の医師は、平成26年6月時点で、危険な作業を避ければ事務作業は可能であり、同年8月には会社から勤務可能な場所の提案を受けていた
 処分行政庁は、左眼球負傷による休業補償は通院日のみ支給、その他は不支給の判断を下した

判決

  • 申請対象となる精神障害はPTSDではなく適応障害である

  • 事故による心理的負荷及び左眼球負傷の心理的負荷と疼痛の視力低下を合わせるとその負荷は相当強度となり業務起因性の適応障害を認める

  • 左眼球損傷による就労可否については医師の診断および職場の提案通り就労可能であり休業時のみの休業補償をみとめる

注意点

  • 医師による判断を労働者に都合よく変えることは不可能である

  • 職場の安全配慮にかかる提案を労働者に都合よく変えることは不可能である

  • 精神疾患の発病が傷害と離れていても経過によっては心理的負荷となりうる

出典




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