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【『青春と読書』2022年5月号。書評ノーカット版】 ★「地方発ドキュメンタリーの現場から』(斎加尚代・集英社)〜映画『教育と愛国』の公開の前に。




 この本の著者、斎加尚代(さいかひさよ)は大阪のMBSテレビの女性記者だ。

 今年5月公開のドキュメンタリー映画『教育と愛国』では映画初監督をつとめている。

 戦後、憲法違反の「政治の教育に介入」が具現化した「教科書検定」を巡る、長き取材を2時間弱の映像で世に問うている。

 この本にもその製作の過程は詳しく書かれている。

 そして、この本の中では大阪のテレビ局に席を置き、テレビドキュメンタリーとして4本の監督作品の製作秘話が事細かく書き残されている。

 タイトルを書いておくと──。

 ①『映像15 何故ペンをとるのか〜沖縄の新聞記者立ち』

 ②『映像17 沖縄 さまよう木霊〜基地反対運動の素顔』

 ③『映像17『教育と愛国〜教科書でいま何が起きているのか』

 ④『映像18 バッシング〜その発信源の背後に』の4本だ。

 そして映画『教育と愛国』は、タイトルで解る通りに3本目の作品(2017年ギャラクシー賞大賞)をよりブラッシュアップ、アップデートしたものだが、4本の作品が互いに内容を補完し、批評しあい、時代を経て培われる熟慮した思考や視点をミックスして観客に投げかけている。

 本書は、この映像のさらなる補助線となっている。

 多くの人が目撃し、記録され、議論された研ぎ澄まされた考察、視点と社会への問題提起こそがドキュメンタリー映画の醍醐味だ。
 
 プロパガンダ映画とドキュメンタリーの違いはそこにある。

 それは小説とノンフィクションの違いにも通底する。

 映画のなかで省かれた話を書いておくと、監督はかつてテレビやYouTubeで取り沙汰されたニュース映像のきりとりで大炎上を経験している。

 2012年の5月、当時、風雲児として人気絶頂時の橋下徹大阪市長の「君が代斉唱問題」の囲み記者会見で、市長に質問を繰り返し、市長から「勉強不足!」「ふざけた取材すんなよ!」と面罵され、30分近く吊るし上げられた、あの女性記者なのだ。

https://www.youtube.com/watch?v=hyzvpCwvFk4

 ボクは権力者の言論封殺が露呈したあのシーンと、2008年「私学助成金」問題で号泣する女子高生を「この国は自己責任が原則!それが嫌なら国を出るべき!」と容赦なく論破した、居丈高な振る舞いは忘れられない。

https://www.youtube.com/watch?v=hyzvpCwvFk4

 権力者が秘めたサディスティックな本性がカメラの前で顕になり……大いに義憤に駆られたものだ。

 これらの映像は、ボクが2013年6月15日、橋下徹と共演したテレビ大阪『たかじんNOマネー』で『小銭稼ぎのコメンテーター』事件で生放送で降板を起こす引き金になっている。

 ボクも事件の背景で真意と異なる報道に、自分の信念と事件の本質が伝わるよう、裏取りを重ねて、すべての台詞のチェックを果たした後、あの日の光景を『藝人春秋』文庫版の「2」「3」のなかで描いた。

 あの事件の深層は、大阪発のテレビ番組が、視聴率稼ぎのために、ひとりのプロデューサーの手により、恣意的なプロパカンダ放送に舵を切るようになった、映像メディアの様子を活字に残した。

 この本を読み終えるのには、新書としては異例なほど時間がかかった。
ここで描かれる事件に関しての裏取りのため、YouTubeや関連本を確認しながらの読了になったからだ。

 すべてのノンフィクション作家、ドキュメンタリー監督が対象に対して行うべきことは、今後は、SNSなどで意見する読者にも強いられる作法になるだろう。

 この本、映画で描かれた10年近く前の問題は今も続いている。

 現状、ボクは松井大阪市長に訴えられ、近々に法廷に向かう過程にいる。
  
 ボク自身は歳を重ねても、青春の青雲の志、田舎者の「純」と「朴」さを喪失することなく、今流行りの「勝ち組」「負け組」の二元論に与せず、「負けない組」の実践者になるべきだと覚悟している。

  例え万一、裁判に負けたとしても、我々には書物や映像に記録して、永遠に語り継がれ、歴史の審判を仰ぐ日々が来るのだ。

 権力による言論封殺──。

 今、本書を読み、映画を見て、貴方も貴方も当事者である「そこにある危機」を共有して欲しい。


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