『林檎の後悔』

渋谷、
原宿、
高田馬場、
(眠りは覚めない)。

池袋、
巣鴨、
日暮里。
鶯谷。

本当は貴方が欲しかった。
そんなことを、夜な夜な思う
ただ、手を繋いでふたりきり、
一緒に帰る、それだけで…

上野、
御徒町、
山手線が私のゆりかご
終わらない、輪廻。

微睡みの中、秋葉原、
目が覚めたときにそこは、東京。
降りるはずだった、新宿、
後悔先に立たずね…。

今日は東京で
宿を取ろうか。
まだ寒いから、暖かいベッドを。
貴男の代わりの、体温を添えて。

『あんたどこへいきなさる』
辻占が私を呼び止める
『楽しそうだね』「冗談じゃないわ」
老婆の瞳は真っ直ぐだった。

「あなたが好きよ、恋してるわ」
「さみしいな、次いつ会える?」
空虚な会話、わかってるのよ
お芝居だらけの自分がきらい。

『どれ一つ運勢を診てやろうか』
うすら笑いの老婆が語る
凍える深夜、東京の空
私の星は何処にあるのか。

『その手のひらを開いてごらん』
老婆の指はあたたかかった
凍える私、東京の空
『あんたはほんとに独りなんだねえ』

––––不意に涙がこぼれてしまいました。
誰もが孤独だと知っていたから、だから私が泣き叫んでもしょうがないのだと
強がって生きてきた、都会、社会、世界。
握られた手がこんなにも、暖かい。

『誰にそんなに愛されたいんだい』
「私が好きな人に」泣きじゃくって答えた。
『想いが通じず、哀しいかい?』
あぁそうだ私は、ずっとわかってほしかった!

貴方がいるだけで、頑張れるということ
貴女がいるだけで、笑えるということ
貴男がいるだけで、倒れないということ
あなたはいるだけで、価値があるということ

沈んでいった、多くの星よ
どうかどうか、輝いて
沈んでいった、多くの星に
祈りをささげる、わたしでありたい

私はここにいて、価値のない人間です
私はここにいるけど、 何もできない人間です。
私はそれでも、本当は、
あなたの手を取り、歩みたかった

『大切な人の手を、離したのだね』
『だからそんなに、苦しそうなんだね』
老婆の言葉が心に刺さる
あのひとから目をそむけたのは自分。

帰りたくない
毎日に、
名前も知らない
誰かの腕で

『ひとりぼっちなんだね』
イケナイ夜にただひとり
凍えて眠る、
空虚な果実

沈んでいった、多くの星よ
どうかどうか、輝いて
沈んでいった、多くの星に
祈りをささげる、わたしでありたい

私はここにいて、価値のない人間です
私はここにいるけど、 何もできない人間です。
私はそれでも、本当に
あなたの手を取り、歩みたかった

貴方がいるだけで、頑張れるということ
貴女がいるだけで、笑えるということ
貴男がいるだけで、倒れないということ
あなたはいるだけで、価値があるということ

寒い夜の東京を、
歩く孤独をかみしめて
そんなときこそ感じるのです
わたしはほんとは独りじゃないと

『誰にそんなに愛されたいんだい』
『想いが通じず、哀しいかい?』
『大切な人の手を、離したのだね』
今ならあなたを繋ぎとめられるのに!

貴方がいるだけで、満ち足りていたのです
貴女がいるだけで、生きていられたのです
貴男がいるだけで、嘘をつかずにすみました。
あなたのことが好きでした。

みずみずしい感情はいつしかなりをひそめて。
大人になったねと…言われるように、なりました。

降りるはずだった新宿、夜をさまよう、空虚な、果実…

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東京
秋葉原
御徒町、
上野

日暮里
巣鴨
池袋
逆回りで戻れるのなら

今日は新宿で
あなたに会う日ですね
繋いだ手から拡がる温もり
愛しい冬のお守りにして

貴方はここにいて、私の傍にいてくれる
私はここにいて、あなたの手を握ってる
私はそのとき、本当に、
貴方と手を取り幸せでした。

『誰にそんなに、
 愛されたいんだい』
『想いが通じず、
 哀しいかい?』

『大切な人の手は、
 離さないほうがいいよ』
分かってるだから、戻れるのなら。
手を繋いで一緒に帰ろう!

多くの星よ、沈まぬように
どうかどうか、輝いて
多くの星よ、沈まぬように
祈りをささげる、わたしでありたい。

––––『お前さんの祈りなど、ちっぽけなものかもしれないよ。
その手は何も掴めずに、また後悔するだけかもしれない。
それでも、それでもいいのかい』

私はここにいて、価値のない人間です
私はここにいるけど、 何もできない人間です。
私はそれでも、本当に
あなたの手を取り、歩みたかった!

貴方がいるだけで、頑張れるということ
貴女がいるだけで、笑えるということ
貴男がいるだけで、倒れないということ
あなたはいるだけで、価値があるということ

貴方がいるだけで、満ち足りていたのです
貴女がいるだけで、生きていられたのです
貴男がいるだけで、嘘をつかずにすみました。
あなたのことが好きでした。

みずみずしい感情はいつしか、なりをひそめて。
それを大人になったと、皆は言うのでしょうか。

今日は東京で
宿を取ろうか。
まだ寒いから、暖かいベッドを。
貴方の代わりでごまかして。

帰りたくない
毎日に、
名前も知らない
誰かの腕で

イケナイ夜に
ただひとり
凍えて眠る、
空虚な果実

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