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たくさんある神怪小説から、少し紹介

明代三大神怪小説とは

 明代の神怪小説には、四大奇書にも取り上げられている極めて有名な『西遊記』、そして、道教・民間信仰系の神々の物語として民間信仰・神像などの形象に影響を与えてきた、これも中華圏では誰もが知っている『封神演義』という二大作品があります。

 しかし、取り上げるなら三つにしたほうがバランスがいいので、もうひとつを選ぶなら、だいぶ知名度も小説としての出来も落ちますが、『西洋記』(『三宝太監西洋記通俗演義』)を選ぶことができます。つまり、明代の三大神怪小説は、『西遊記』、『封神演義』、『西洋記』といえるでしょう。

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 画像は、『李卓吾先生批評西遊記』(国立公文書館蔵)の挿画

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 画像は、『新刻鍾伯敬先生批評封神演義』(国立公文書館蔵)の挿画

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 画像は、『新刻全像三宝太監西洋記通俗演義』(国立公文書館蔵)の挿画。

 文字が読めない人も多かったため、絵でわかるようにという配慮もあったのでしょう、明代当時の本は、今で言えばイラストたっぷりの本でした。

 だいたい、一回に一枚ぐらいの挿画が入っていますから、百回本なら百枚の挿画ということになります。

 本によっては、上図下文という、すべてのページの上部に絵があり、下部に文が書いてあるという形式のものもあります。

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 画像は、『鼎鐫京本全像西遊記』(国立公文書館蔵)。上図下文です。

四遊記とは

『西遊記』が大人気になったため、東、南、北を合わせて『四遊記』と呼んで売ろう、ということになったようで、『東遊記』『南遊記』『北遊記』という本もあります。もともとは別々の本だったのを、『西遊記』に合わせてそう呼ぶようになったようです。

『東遊記』は、有名な八人の仙人である八仙の話です。八仙は、よく絵や工芸品のモチーフになっています。日本で言う七福神に当たる、八人の福の神様です。翻訳については、こちらのnoteをどうぞ

『南遊記』は、華光(霊官馬元帥)という神様の伝記、『北遊記』は、玄天上帝(真武・玄武)の伝記になります。北方を守る重要な神様で、北極駆邪院主などとしている戯曲もあります。

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 画像は、『東遊記』(『新刊八仙出処東遊記』)(国立公文書館蔵)。上図下文です。

他にどんな作品があるかというと

 神怪小説に、他にどのようなものがあるかですが、とりあえず、名前だけ順不同に列挙します。

・鉄樹記・呪棗記・飛剣記・西遊補後西遊記・続西遊記・韓湘子全伝・大禹治水・緑野仙踪・蟫史・二十四尊得度羅漢伝・済公全伝・雷峯塔奇伝・狐狸縁全伝混元盒五毒全伝・海遊記・瑤華伝・草木春秋演義・金蓮仙史・女仙外史・仙俠五花剣鏡花縁聊斎志異

 とりあえず、翻訳が出版されているものはリンクを入れておきます。

 神怪小説は、他にもたくさんあります。今後、適宜、紹介していこうと思います。

 小説以外にも、特に元の時代に発展した戯曲などでも、神仙をモチーフとしたものがいくつも見られます。こちらも合わせて、紹介していければと思います。

かなり特殊な『聊斎志異』

 『聊斎志異』は、日本でも有名で、翻訳もいろいろ出ています。

  ですが、神怪小説としては、かなり特殊な存在です。

  まず、清代の作品でありながら、文章が擬古体という文語体、古い時代の言葉で書かれています。日本でいえば、古典の文章を真似して小説を書いたようなもので、同じ時代の他の作品と比べると、だいぶ印象が異なります。

 内容も、神仙の話が主体というよりも、幽霊や狐など、怪異を書きしるそうとした六朝志怪に近いもので、短編集です。

 とはいえ、文学的な評価は非常に高く、日本にも愛好者が数多くいます。定番の翻訳書としては、以下が有名かと思います。

 聊斎志異(岩波文庫)  上 ( 立間 祥介訳)

 聊斎志異(平凡社奇書シリーズ) 上  (増田 渉訳)

 他、個人的には完訳 聊斎志異〈第1巻〉 (角川文庫) (柴田天馬訳)のシリーズ、古いですが、イラストも合わせた雰囲気が気に入っています。







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